自己世界線メモリー・ツリー
自らの影を名乗る男を信用していいのか。
この一つの命題に、希の思考力は注がれていた。
一つ、出会いはどこか。
この龍の中だ。
一つ、相手は誰か。
初対面の時も、今も、こいつは『俺の影』と言っていたような……。
一つ、こいつの言うとおりにしていいものか……。
思考と行動は一致するのだろうか。
少なくともこの希は、ある程度の誤差はあれど一致する、と思っていた。
それは、狩りをするものなら相手に殺気として伝わり、愛する者同士ならば互いに笑みを浮かべあう、といったように、ある程度は……、ある程度、という条件が付くが……、希は思考と行動は一致すると考えていた。
この男はなぜ自分を攻撃しないのか……、それは殺意がないから。
さっきは何故襲ってきた??
男は龍の瘴気が原因だ、と言った……。
「……。」
「どうした??」
「何故動かない。」
「……ああ、そういうことか。」
「いいだろう。それなら、俺がお前に攻撃しない理由を教えてやろうか??」
「……。」
影は語りだす。
「さきほど、龍の体内で俺たちはぶつかった……、だがな、それはさっきも言ったように、俺が瘴気によって眠っていたからなんだ。」
「……。」
「記憶はあるが、俺が起こした行動は、あの世界線の影を渡した時からだ。」
「それとな……。」
人型の影が地面に潜り、近くまで来る。
そして、自分の胸ぐらをつかみ、こう言う。
「お前さん、気づいていないようだがな。この世界に来てから、影を見てないんじゃないのか??」
嫌な予感がする。
嫌な、予感、が。
「それでは、行ってくる。」
それは、少年の古い記憶。




