影の浸食
「光速で移動しながらの攻撃……、それが行われないということは……、することができないと同義だな。」
相手の出方を窺っている。
先手は万手という言葉がある。
機先を制することが、どんな手段よりも効果的……、という意味だった、気がする。
相手に攻撃の主導権を渡すのは気が引けるが……。
「(とはいえ、影の中に潜まれては、こちらが攻撃をすることが気でない。)」
しかし、先ほどのことを思い出せ。
そう、地面を右手で殴った時のことだ。
その時、奴は影から身を晒した。
なぜだ??
地面を殴ると、どうなったか。
そう、それはヒトならざる身が生み出した衝撃。
別の世界で俺が、生身で地面を殴っても、地面が少しへこむだけだろう。
しかし、さっきは違った。
この空間を作り出した、『異世界』の主であるヤツが、姿を現したのだ。
この右手とアイツ……、その関係は如何に。
「……っ!?」
よく見ると右手が震えている。
というよりも、どこかに引っ張られている。
体の後方だ。
後ろを振り返ると、自分の足元から延びる影が、紫色に染まっていた。
相手の攻撃だ!!
「くそっ……。」
とっさに振り向き、後方に飛ぶ。
「遅いっ!!」
右手がヤツのほうを向いたせいか、重心が狂った。
俺とは対照的にヤツは地面の中、俺の影から姿を現し、左手から何かが伸びた。
そして、それは俺の左手を貫いた。
「コラプト・シャドウ!!」
「グッ……!!」
空中で撃ち落とされた!!
さらにおかしなことに、相手の影のナニカが当たった左手に痛みがないのである。
しかし、左手には紫色のナニカが、掌から手の甲までを貫いていた。
「影の攻撃からは逃れられない……。」
そう宣言しながら、奴は再び姿を消した。
なぜ、攻撃を続けない??
なぜ、とどめを刺さない??
考えろ……!!
体に力が入らない。
先ほどの攻撃と関係があるのだろうか。
左手を見ると、少しづつだが、体が紫色になっていた。
体内の血管から紫色にひかり始めている。
まさか、これは……。
嫌な予想は当たった。
俺の左手は、また龍の体の一部のように……、右手のように……、なった……。
そうか、ヤツの目的は俺の命を奪うことではないようだ。
「(おそらく、全身を龍と同じ材質に変えて、体の一部にしてしまうのが目的だろう。)」
そう、この龍は『世界線』を喰らっている。
『世界線』をいくつか持っている俺は、龍から見れば、涎が出る相手だったのだろう。
一つの生命を奪えば、世界を一つ破壊するほどの労力もなく、複数の『世界線』を喰らうことができるのだ。
「やはり……、そうだ。」
「お前は……、俺なんかじゃない。」
両手から人間性を失い、それでもなお立ち上がる。
「世界線を回収する……。」