自己投影と疑問
「俺は、お前の影さ。」
鏡から出たソイツは語った。
「……本当にそうかな。」
そう、確かなことは一つ。
希、それは俺自身だということだ。
「俺の影だというなら、俺の動きに合わせるべきじゃないのか。」
「そうかもな。ただ、ここではそうもいかないのさ。」
「何?!」
もはやソイツは影と言うよりも、自分の形をした闇そのものだった。
その本質は俺ではない。
そう感じた。
「『投影』っ!!」
相手の右手から影が広がり、この部屋全体を包んだ。
「一体何がっ?!」
「簡単さ、お前もこういった類のチカラを持っているだろう??」
「……世界線か。」
「そうだ。」
相手の気に飲み込まれるな。
相手の言うことが正しいのならば、ここは奴の作り出した場所。
『世界線』の法則で上書きされた『異世界』だ。
「ここは先ほどいた龍の体内、その一部を再現して造られている。そして、この力を解除しない限り、ここから出ることはない。」
「お前の作った、影の牢獄……、ということか。」
「そうだ。」
この時俺は感じていた。
何か、久しい何か……を。
「そうか。」
異都 望だ。
自分と似た境遇、世界線の力を使う、そういった共通点がある。
しかし、決定的に違うことがある。
それは、話し合いが通じる相手ではない、ということだ。
一瞬、そう表現するのが適切だろう。
文字通り、瞬きをする時間でヤツの姿は消えた。
さっきまで、目の前にいたはずなのに……、だ。
黒い空間に、一人取り残されたように感じる。
どういうことだろうか、アイツの狙いは。
しかし、迷いはなかった。
「(目の前から消えた、ということは、『世界線』を使って、攻撃を仕掛けてくるッ!!)」
論理ではなく、直感を信じた。
「(奴は、この空間を作るとき、影を出した。)」
『投影っ!!』
ということは、だ。
「影はどういったものかそれを知る必要がある。」
なぜなら、それは相手が言っていたことだ。
『俺は、お前の影さ。』
「影を知ることが、ヤツを知ることであり、相手の世界線の特徴を知ることになる。」
そして、俺は走り出した。
何もないように見える空間を。
これも直感だ。
そこに突っ立っていると、相手の攻撃をもろに喰らう。
少しでも相手の攻撃を受けないようにしたい。
「まず、第一に考えられることは……。」
アイツは俺の影、ここから思考を始める。
「影ならば、他の影と重なり合った時、どうなる??」
「そう、影の世界に『ぶつかる』ということはないッッ!!」
「つまり、奴がいる場所……、それは……。」
「ここだァーッ!!」
地面を思い切り殴る。
この龍のような体になってから、初めて思い切り殴った。
手の外骨格からは瘴気が絶えず流れ続け、今まではりきむことを避けていた。
しかし、相手がこちらの命を狙っているというのならば、話は別だ。
「クッ……!!」
奴だ。
影の中から、紫色の人影が見える。
「文字通り、人型の影がなぁーっ!!」
人の形をしたソレに、拳を振り下ろす。
龍の体の一部を相手にあてるのだ。
『世界』と同じ位まで上り詰めた龍の一部だ。
当たればその『存在』ごとうち砕いてしまうだろう。
しかし、そうはならなかった。
ヤツは再び、影の中に隠れた。
「なるほど……。」
光と影。
それは他方が動けば、また他方も動く。
つまり、相手は光に対する影。
光に対応するために、光と同じ速度で動くことができる影……、ということか。
「ということは、最低でも光速で動いているのか……??」
しかし、ここでまた一つ疑問がわく。
光速で動けるのならば、一秒もあれば俺を40万回はころすことができそうだ。
つまり……。
「まだわかっていないが、ヤツ自身に何か、秘密があるってことか。」
これだ。
この疑問を謎で終わらせるな。