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自己と龍と世界線

龍の記憶を体験してなお、自らの行うべきことが見えない。

なぜ、世界線を喰らう。

その、『何故』が分かれば、その理由が、何かを知るべきだと感じた。

思えばそうだ。

もとの世界線、『地球』、そこに俺はいた。

平和な現代日本に生まれ、そして……。

そう、蔑まれ、軽んじられ、叩かれ、その果てに……。

精神は摩耗した。

思えば俺は、何かが違った。

いつからか?

小学生?

幼稚園児?

保育所?

乳母車?


そう、俺は俺。

平和な日本で暮らす中学生。


『眠いまま学校に行き、特に何もなく終わる。

校門で先生に朝の挨拶をし、一時間目を受けた後、次の授業を保健室で過ごす。

そのあとは15分だけ出席して、10分はトイレに行く。

給食の後に50分間眠り、帰る支度をする。

隣の席の女子は頬を染めながらこちらをチラチラ見てくるし、取り巻きっぽい男どもは熱視線を送ってくる。

こんな家と学校の往復の果てに何があるのか……。』


ああ、そんな風に考えていた時期もあったっけ。

しかし、平和な日本でも人々の、根源的な暮らしは変わらない。

根源的な暮らし……それは、喰らうということだ。

生きるために、命を。

どれほど崇高な思想、言動、行っていても、生きるためには食べる必要があった。

相手の命を、己のために奪うという行い。

それは、おおよそすべての生物が共通の理由を持っていた。


『生きるため。』


だから、俺がこの龍を止めるにしても、この龍の目的を知る必要がある。

これは『必要』ではないが、『倫理』のようなものかもしれない。

だから、神よ。

どうか、今しばらくこの龍を許せ。

俺を許せ。

世界を許せ。

女神の信徒たるこの希を失わぬために。


「来るべき時が来れば、戦うかもしれない……か。」


幸い、ここは龍の尻尾の中だ。

世界線と同等の龍の中を探索すれば、何かわかるかもしれない。

行こう。

竜がなぜ、『世界』を喰らうのかを知りに……。


拍動し、捻転する体内。

足元は体液で濡れている。

そう言えば、この龍の体内は、全てが血液で満たされているわけではないのか。

いや、進化の果てがこの姿なのだから、これまでの生物と比較しても意味はないか。

……まずは、龍の下腹部辺りを目指すか。


脳内に流れる視界を見るに、どうやら世界線を喰らい始めたようだ。

急ぐ必要は感じない。

不思議な気持ちだ。


現在地が尻尾の先だから、胴体のほうに移動すれば、下腹部辺りには出るか……。

しかし、誰もいない。

当然か。

世界線ごと飲み干す龍だ。

生物がいられる環境ではない。

しかし、俺はここにいる。

『存在』を失いながらも、ここにいる。

失われたのに、ここに『在る』。


歩くと水の音がした。

足元からだ。

体液か?


「進むしかあるまい。」


歩みを続ける。

とうとう、体全体がこの体液に使った。

そして、下には何か空間が見える。

この龍の体は、迷路のようになっているのだろうか。


U字の地形に体液が満たされているようだ。

向こう側に行くには、泳いで渡るしかないか。

息が続くといいが……。


「かはっ……。」


何とか辿りついた。


「扉……?」


不思議か?

信じられないか?

いくら形容しても無駄。

真実の前に人は無力。


俺の目の前には、大きなレンズがあった。

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