尻尾
滑空している龍の中にいるわけなので、少し騒がしいところだと思っていた。
「(どちらかと言うと静かな場所だな……。)」
世界よりも大きな龍、その体内の空間は、それ自体が一つの世界と言えるだろう。
ここは龍の尻尾に当たる場所だ。
やはり、大きさの問題なのか異都望を取り込んだ時とは様子が違う。
「やっぱり、俺が取り込んだんじゃなくて、龍に……。」
取り込まれたのだろう。
だからこそ、龍の体内の位置がわかる。
しかし、どうにもわからないことがある。
それはこの龍の権限、『概念悪』としての力だ。
寂しい独り言は体内を広がり、響き渡る。
やはりこの龍に接続したのは俺が最初の様だ。
「さて……。」
いい加減に移動するか。
いくら体が損傷しても、どれほどの苦痛を受けようと、やることは決まっている。
『概念悪』の回収、それが俺の目的。
まあ、俺の目的と言うよりは、神なる少女の目的だが……。
「フー……、フー……。」
眼を閉じ、呼吸を整える。
龍の体の構造を確認する。
それをするには龍自身の記憶をたどる必要がある。
そう、できるはずだ。
取り込んだのではなく、龍に『取り込まれた』俺ならできるはずだ。
体が白い光で包まれていく。
その光が、体中から飽和し、溢れ出す。
「フンッ!」
瞬間、暗転。
白い光は黒に染まり、おのが体も闇に飲まれる。
「これは……。」
これじゃあ、まるで龍だ。
体中から紫色の瘴気を発し、皮膚の近くは暗黒の空間になっている。
うまく、同調できたのだろうか。
そして、確認する。
赤子が自身の体を触り、自己と世界の境界を認識するように。
腕を、足を、己の手で触り、確認する。
「……前脚に、後ろ脚……、翼に、頭。」
思っていた以上に絵に描いたような龍だ。
「これは……。」
龍の視界だろうか。
映像が頭に流れ込んでくる。
白い光が集まり、霧のようなものを見つめている。
「これは、世界線?!」
白い光、その中の粒の一つ一つが別の世界。
このままではこの世界以外の、全ての世界線がこの龍に飲み込まれる。
それは、憶測ではなく。
龍の意思がまた、視界のように、頭に流れ込んでくるのだった。