白い光の中で
黒煙の中を進む龍の背で、苦しみもがくことしかできない。
しかし、それは肉体の物理的な運動を見た時に限る。
彼の頭の中では様々な憶測が飛び交っていた。
同じ概念悪……、なぜ、アイツは消えたのか。この瘴気の正体。肉体への負荷……、黒龍の正体……。
今の『俺』にはそれしかできない。
つかまっている両の手もすでに血の気はなく、老人の様にしわが無数にできた。
「(異都希は言っていた……、この龍は同じ概念悪だと。)」
それ故にその存在を感知することができると。
「(アイツ自身は異世界の概念悪だ。それ故に、時間の停止が可能……。)」
この仮定が正しいのならば、この龍は紫煙満ちる異世界からの使者と言うことになる。
「(確か……、無限神も言っていたような。『概念悪』とは、その世界の法則を行使することができるものだと。)」
仮定を裏付けるものが出てきた。
さらにもう一つ。
「(この龍の体に触れた途端、異都望は消えた……果たして本当にそうだろうか。)」
白い光に体が包まれ消えたが、よく思いだしてみればこの龍の体の方へと牽かれていたように見えた。
「(『概念悪』同士の間には、何か特殊な力が働いているのだろうか。とすると、この龍は……。)」
「この龍の真の正体は、その『概念悪』は……、『吸収』……?」
俺たち異世界への転生者のように、『概念悪』を集める『概念悪』……それがこの龍の正体なのではないだろうか。
そして、相手から自らの『概念悪』を奪い、それ以外は破壊する。
恐ろしい生物なのかもしれない。
「(と言うことは、異都望はまだ生きている……、と言うより、存在している?)」
この龍の体のどこかにいるはずだ。
「(しかし、どうやってこの龍の体の中に入る……。)」
体に触れるだけで相手の『存在』を刈り取る生物に対して、何か策はあるのだろうか。
「(策……、策なんて言う上質な物じゃなくていい……、この状況から先の未来を、その先を考えられる選択肢が欲しい。)」
このままでは龍の背で体が朽ち果て、力尽きれば空から落ちる。
「(この閉塞した現状に祝福を、相手に干渉するだけの手段を。)」
体は傷ついている。
傷つき続いている。
体は今にも朽ち果てる。
朽ちていく。
遂には右の手首から先が、散った。
木枯らしに舞う枯葉のように。
そこには何もなかった。
体から光の粒子が舞う。
これが俺の存在を成すナニカなのだろうか。
残った左手でなおも龍に捕まる。
体は風で、浮き始めた。
よく見るとその左手にも亀裂が走っていくのが見えた。
このままでは空から、この背から落ちてしまう。
「(まだだ……、考えることを諦めるな。)」
亀裂が左腕にまで伸びる。
「(『アイツ』とこいつは『概念悪』で、俺は転生者で……、この世界に悪はなくて。)」
「(!?)」
「(そうかっ!?)」
亀裂が首筋まで達したとき、『俺』はその世界線から消えた。
異都望と同じように。
白い光の中で。