答えに向かう意志
遂に龍の背に乗る時が来た。
間に物を経ないで、直接触れ合う距離まで近づいた。
その漆黒の肌を覆う、紫の鱗は見るもの全てを畏怖させる。
この時は確かに『俺』も『僕』も、不気味さ以上の不信感のようなものを龍に感じていた。
先ほどはこの巨体が放つ瘴気に触れるだけで、自身の存在を刈り取られるようだった。
そのような瘴気を放つ本体に触れるのだ。
その危険性が計り知れないということは疑う余地がない。
しかし、行くしかない。
この龍が、『存在しないはずの存在』である限りこの世界に平穏はありえない。
「(さて、行くしかないか……。)」
手を差し伸ばす。
その時、辺りの空気が振動した。
「おいっ、時間は止まってるんじゃないのか?」
「わからない!でも、こっちの力に干渉してるみたいだ。」
体の右半分が光り輝く。
そこからは元の、異都望が出てきた。
「おい!どこに行く気だ!」
『概念悪』の力が失われていく。
この高さからの落下は死を意味する。
『俺』は、分離しかけの体を片手でつかまれ、龍の背に投げられた。
「僕に聞くなよ、恐らくこれは龍の……。」
そこまで言うと、異都希は白い光に包まれ消えた。
「(馬鹿野郎が……。)」
アイツは一体、何回自分を犠牲にすれば気が済むのだろうか。
そして、不意に龍の背に落下したために引き起こされる不調。
そう、あの瘴気に触れた時のように、されど、それとは比べられないほどの苦痛が、体から染みるようだ。
さらには、体の右半分から引きちぎられるように『僕』が分離させられたからか、右半身の体が機能していないように感じる。
眼は見えず、体の『色』は抜け、痛覚すら感じない。
そして、異都希と再会する前、以上に、全身は病的に白く、そこからは、絶えず苦痛が供給される。
瞳からは血涙が流れ出て、龍の体に触れたところから血の色が抜けていく。
『存在悪』の龍に直に触れることがここまで、痛みを伴い、困難なことになるとは。
「(しかし、助かったかもしれない……、右半分の痛みを感じないから耐えられているところもある。)」
恐らく、覚悟もなしにこの龍に触れていれば、痛みのショックで死んでいただろう。
そのあまりの激痛に。
しかしながら、肉体以上に異変を感じるのは精神への影響だった。
今まで生きてきた時の、苦痛を感じた記憶が頭の中で反芻される。
肉体への痛みと精神への悲しみが、疲弊した魂を蹂躙する。
今まさに希の根幹にある『存在』が、有と無の間を彷徨う。
異都望が消えてから、時間が流れ始めた。
全身の痛みのために、力が入らない。
あまりに痛みを感じると、力が入らなくなる。
異都望を失い、時の流れに抗えず、龍の背で『存在』することすら困難なこの状況で。
「(しかし……しかしっ!)」
少年は思考を放棄しなかった。