黒龍
雷鳴轟く空の上、相対するは龍と『僕』。
両者とも『概念悪』である。
「じゃあ、行こうか。」
もはや地上は見えない。
眼前に迫るは龍の背であり、漆黒の体躯に紫の鱗。
勇猛果敢、畏怖を抱きながらも、接近す。
辺りでは銀の雫のように雷が煌めき、黒雲との対比を強調する。
「(やるしかない……、か。)」
生物としての何かが違うのか、『恐れ』のようなものを龍に感じてしまう。
しかし、行くしかない。
世界に存在しえないはずの悪、それが目の前に在るのだから。
巨体に近づくほどに、血の気が引くのがわかる。
理ではなく、体が、本能が、畏怖している。
……あの龍に。
近づいていく。
距離を詰めていく。
体十個分……、体九つ分……、……。
おおよそ、5メートルだろうか。
龍との距離が詰まったとき、異変に気付いた。
この龍の体中から出ている紫の瘴気が、空間に『色』をつけていた。
そして手を伸ばすと名状しがたい痛みが右手に走った。
「なんだこれは……。」
「恐らく、オーラのようなものだろう。」
「わかるのか?」
『僕』にはおおよその仮定が立っているようだった。
「詳しくはわからないけれど、龍の体から異質な存在を感じる。」
右手を顔にあてて考えている。
「もしかしたら、この世に存在しないモノかもしれない。」
「つまり、概念悪の力かもしれない。」
なるほど。
「と言うことは、あの龍が持つ『概念悪』の力は瘴気を発生させるってことか。」
「多分、ね。」
飄々(ひょうひょう)と答える『僕』に対して、『俺』は何か違和感を感じていた。
「(異都望を取り込んだからだろうか、俺も龍の体に何かを感じる。)」
『概念悪』同士は引力で引っ張られてでもいるのだろうか。
「わかった。なら、時間を少し止めてくれないか。見たところ、あの瘴気は濃いところと薄いところがある。間を通っていくぞ。」
「いいよ。」
フィンガースナップで時を止める。
これで紫のオーラは動きを止める。
安全に龍の背に乗れるというものだ。
「そういえば、さっき右手をオーラに入れてたけど、大丈夫?」
「ああ、なんというか冷凍凝固に似た痛みだったよ。」
「(ただし取るのは存在だけどな。)」
虚無を感じた。
そうとしか説明できない痛みだった。




