絶望
世界の空が巨体に覆われたために、暗黒の空間が広がっていく。
次第に何も見えなくなっていきそうだった。
しかし、ここで異端分子が発現する。
異都 望の覚醒。
「自我がなくなったはずじゃあ……?」
「そうかもね。確かに、僕自身の境界はなくなったのかもしれない。でも、君の体を借りて、生きていると言えば生きている。」
「……哲学的だな。」
「かもね……。だから、次第に左目の感覚も元に戻るはずさ。」
「なぜなら、今の僕は君で、君はさっきの雷で一部を失ったからね。」
補填と言う形で目覚めた人格。
「それに少しだけど気付いたんだ。さっき受けた雷は、『概念悪』によるものだ。」
「どうしてそれがわかるんだ?」
左目も確かに視界が戻りつつあった。
「僕自身が『概念悪』だったからさ。あれは別世界の法則によって作られた力さ。」
「さて……。」
見上げるとそこには龍がいた。
あまりの大きさに胴体だけで空を覆い尽くしている。
紫の鱗、その体から湧き出る暗黒の雲。
「あるはずのない『概念悪』も来たし、回収しに行くかい?」
「おまえ……、俺にアレを回収させる気か?」
「そのために転生した……だろ?」
以前、望がどんな一生を送ったかは知らない。
しかし、転生者としての目的は同じようだ。
「しかし、俺に何ができるんだ?」
「ふふ、忘れたかい?」
「……『概念悪』を用いて、他世界の法則を行使することができる、つまりは……。」
「『概念悪』である『僕』を取り込んだ君も、何らかの法則を行使することができるんだ。」
「そんなことがっ?!」
「うん、できる、できるよ。」
「僕のいた世界線の『概念悪』、それは君も体験した『時の逆流』【ツイスト・タイミング】さ。」
「ただ、先ほどの雷で少し、『干渉』されたのか、すこしだけ僕らの意識と肉体は分離している。」
「時間を操りたいときは、僕に声をかけてくれ。」
なるほど。
「ちょっと待てよ……、時間を操作するということは、空間も支配できないのか?」
「もしかして、これのこと?」
左手が指を鳴らす。
意思とは関係なしに。
文字通り勝手と言うわけだ。
すると、体の周りに殻のようなものができた。
以前の世界線で俺の体を覆ていたものだ。
「前の世界線では、君は空中にも移動することができただろ?」
「あれも実は僕の力さ。」
「だから、一応、好きなところに今は移動できるよ。」
なるほど、これで龍のところまでは行けるわけだ。
一応、望もどうやって龍のところまで行くかは考えていたんだな。
「大体のことはわかった、かな。とりあえず、この殻は保っていてくれ。」
「わかったよ。で、これからどうするの?」
「とりあえず、無限神含む、この世界の『住人』がどうするか見てみる。」
ひとまず観察といこう。
あの龍が何をするか、何のためにここに来たかはわかっていない。
しかし、『概念悪』ならば、回収しなければならない。
「雷鳴の名をここに!」
龍の放つ者とは別の、白色の稲妻が駆け巡る。
あれは無限神だ。
「(あんな風に、雷を操れるのか……。)」
しかしどうも、龍に効き目はないようだ。
他の神々はどこにいるのだろうか。
「しょうがない、直接アイツを叩くか。」
異都 望に提案する。
「正気かい?あいつは下手をしたら『世界』そのものに近い存在だよ?」
「どうも、この世界の神々では手に余るようだしな。」
こうして、俺たちは龍の背へと飛び立った。