慣れ
「……尋問規定に基づき、刑を執行する。」
形式ばった口調でもう一度、刑罰が行われる。
短剣を取り出し、縛ってある右手の甲ごと突き刺す。
「あぁ……ッッ!!!ウッ……!」
言葉にならない言葉が漏れ出る。
その時、扉が開いた。
「報告です。終業時間を過ぎていますので、現在の業務を速やかに終了してください。」
なるほど。
確かに、ここに連れてこられた時点で夜も更けていた。
そのあとに裁判を行い、尋問をする。
すると、時間が足りなかった。
そろそろ日をまたぐ時間なのだろう。
そう、こいつらは、国に仕える、いわば公務員なのだろう。
ならば残業は嫌うはずだ。
言葉は発さずに、不敵な笑みを浮かべる。
「立て。牢屋に案内する。」
助かった。
どうやら、今日のところは生き残った……らしい。
その後は意外にも、身体の拘束を外し、治療を施された。
体中に白い布を巻かれて、牢屋に帰還した。
壁に背を預け、衛兵が扉を閉めてから去るのを見ていた。
「ふぅ~……。」
治療を施してくれたからか、そこまで痛みはない。
「(一体どういうことなんだろうか……。尋問もあくまで尋問であり、拷問ではない、と言うことだろうか。)」
そのため、『業務』中に終わると物事の真偽がわからないから、一応の無罪を想定して治療をしてくれるのだろうか。
それとも、また明日尋問で同じように体を傷つける、そこまでが拷問なのだろうか。
「(異世界の事情はよく分からん。)」
とはいえ、痛みに耐えることもできた。
ただ、獣人達が助けに来るのはいつだろうか。
今日中でもなければかなり厳しい。
と言うのも、傷はふさがれたが、血を流しすぎた。
今も眠気に襲われている。
「(明日も血を失うとなると、かなり危ない。)」
出血はその総量の半分も出れば危険な領域だ。
しかし、自身の冷静な現状の把握に違和感を感じる。
「(一度死んだから、慣れたってことか……?)」
まあいいか。
誰かが来るまで、何かができるわけでもない。
ゴア達が諦めたのなら、俺はここで死ぬだけだろう。
その時、ドアが開く音がした。
衛兵ではない。
あまりにも小柄だ。
その男は俺の牢の前で立ち止まった。
「……旦那、探しましたぜ……。」
「もしかして、ふたまるまるで世話になったか?」
「へへ……『壁の向こうは』?」
「……『オリジンアニマ』。確認か……?」
「へい。あっしはもともと大工屋みたいなことばかりしてたんで。こういうこてゃ向いてますぜ。」
そう言って、牢の鍵を外してしまった。
「なかなかの手際だな。」
「へい。」
「……その、なんだ。以前あったときと随分違うな。俺のことも旦那とか呼んでたし……。」
「へい。説明は歩きながら。見張りが来る前にここを出ましょう。」




