覚悟
鉄の匂いがする。
椅子に体を縛り付けられている。
今の自分にある自由は左手をいくばくか、握るか、開くか、といった程度だろう。
「……尋問規定違反に基づき、刑を執行する。」
鉄の棒で顔を殴られる。
鼻頭が潰れる。
不思議な感覚だ。
ものすごく痛い。
遠慮なく殴りやがって。
鮮血が流れている。
しかし、今のでわかった。
この『尋問』のシステムが。
まず、尋問規定に従うかどうかを誓わせる。
この誓いを立てる時点で、すでに『拷問』は始まっているんだ。
この規定を破った場合、その場で刑罰が行われ、咎人は真実を口にする……、あいつらの描いた絵はこんなもんか……?
だとしたら、なかなかにめんどい。
こちらの証言が仮に本当のことでも、神の教えとやらに従っていないと、嬲られ続ける。
もちろん、死ぬまで……。
「……尋問を続ける。」
「ッペ。」
鼻から入った血を吐き捨てる。
「改めて何時に問う。尋問規定、汝、これに従うか?」
「従う。」
諦めの色をして伺ったのか、傭兵の顔色が元に戻りつつある。
「……されど……。」
「?!」
傭兵の表情が三度変わる。
「人々と獣人に、教皇に、この世界に、誓う。」
よくよく考えればわかる話だ。
ゴア達は小さな工房や施設を200以上、人族から隠し、運営してきた。
ということは、彼らの中の斥候や大工、隠密に長けた者たちが来るはずだ。
それまで、俺は死なずに、ただ……。
「(耐えるだけでいい。)」
一度は死んだ身だ。
多少の痛みは我慢してやるよ。