異端
振り向くと、木製の扉が破られていた。
「なんだ……?」
外には白い衣を着た人が並んでいる。
この店の外周をすべて囲んでいるようだ。
「我らが教えに背きし異端者がいるとの知らせがありました。」
宴会中だというのに、みな黙ってしまった。
この世界のこの事態の意味を知らない希を置いて。
「(一体なんなんだ……?)」
「名乗り出なさい。人族のものよ。」
フードのようなものを深くかぶっているせいか、よく顔が見えない。
鼻は見えるが、視線はわからない。
「はい。一応、人族……なのかな?」
「ほう……。」
すると、外にいた者たちが6人入ってきた。
左右に列をなし、最前線の二人は希の両腕を抑えつけた。
残りの4人は扉があった場所の左右に立っている。
護衛のつもりだろうか?
すると、月光に照らされた白い集団の中、一人だけほかの者と装束が違うものがいた。
赤いフード……だろうか。
高位の聖職者か何かだろうか。
我らが教えとか言ってたし。
「(宴に熱中しすぎたか?)」
「(もう夜なんてな。)」
「……。」
「そこまで頭は悪くないようですね。」
「(ここであまり騒ぐようなら、無理やり取り押さえる方法もあったが……なっ。)」
「まず、この者に対して、令状が出ている。」
「贋作の希……貴殿に対してとある疑いがかけられてる。」
「子宮、教会に出頭し、その疑いを晴らせ、とのことだ。」
「(?いま、何か発音がおかしくなかったか……?)」
「(女神が翻訳してくれているはずだが……誤字もありうるのか……?)」
「それでは、出頭願う。」
「(幸い、向こうも今のところは表立って強引には来ないようだ。)」
「……従うかね?」
答えを間違えると、魔女裁判が始まりそうだな。
「……従います。」
「(……フォグ・ホープって誰だよ。)」
「……よろしい。」
両脇を抱えられるようにして、出頭。
その時だった。
「待ってください!」
「(ゴアッ!)」
「その人の名前は、ノゾミなんです。フォグ・ホープではありません!」
もしかして、ある程度は獣人でも意見して大丈夫なのだろうか。
「(ッッッ!ほかの獣人達が目をそらしている。つまり……。)」
「……あなたは……。」
「ゴアッいい!俺は従う!だから黙れ!」
月光に照らされて、銀の雫が落ちた。
みな黙っている。
今が好機。
「……従います。出頭命令に従います。」
「よろしい。では、これを……。」
ものすごく重い手錠をされた。
両腕の周りが痛い。
針か棘が刺さっているんじゃないだろうか。
「(仕込み針……まさかな。)」
こうして、宴は皆の酔いの中静かに終わった。
「そんな……。」
その場に立ちすくみ、ただ顔は下を向くのみ。
「(許せゴア。)」
ここから始まることは希の想像をはるかに絶するのだった。
その頃。
一方、女神は。
「おいおい、ラスエル、そんなに根を詰めると体を壊すぞ。」
「放っておいてよね。最近、予想外吐きまくりなのよ、この世界線。」
「ああ、お前が担当の、何だっけ、蜂……。」
「偽善世界線ビー・ノーヴリスト!全く、あんたは自分の仕事はしなくていいの?」
「ああ、つい最近手が空いたものがいてね。担当を変わってもらった。」
「はぁっ!そんなのありなワケっ?!」
「まあ、全神様から許可は貰ったからな。」
「は~楽な身分でいいねぇ。」
「それで、さっきから何を調べてるんだ?」
「……私たちの世界線には真名が設定されてるでしょ?」
「ああ、そうだな。」
「最近、その真名に接続した跡が一つ増えててね。」
「……数え間違いではないんだな?」
「まあね。……異端分子はここらで排除しといた方が後々楽だろうから、今から探してるってワケよ。」
「そうか……。」
「あっ、そうだ。担当の希さんなんですけど、なかなかに面白い人物なんですよ。今度見てみます?」
「随分と買っているんだな。」
『ええ、なんとなく確信していますから。』
「ここだ。」
月光に照らされた白い城。
そこに行く人の列も白い布。
表すべきは身の潔白。
希の最初の試練が始まる。