200の中で
門番らしき男……ここでは、『壁の男』と呼ぼうか。
とにかく、『壁の男』は髭が生えているんだが、どちらかと言うと手入れをしている、二方向に大きく伸びる髭で、後の毛は剃っているようだった。
ザックとはまた違う髭だ。
壁の中に入ると、そこは狭く、しばらく4つ足での移動になった。
順番は壁の男、ゴア、そして僕だ。
……ゴアが先に行くと言い出した時はヒヤヒヤしたが、何とかなりそうだ。
しばらく移動すると、広い場所に出た。
やはり薄暗く、外の陽光は一切差さない。
ランプで明かりを確保しているようだ。
「希さん、ここがふたまるまる、その心臓部ともいえる場所です。」
「ふむ……、と、言っても、俺たち以外居ないようだが……?」
「ええ、先ほどの話の続きになりますが、ここでは材料を運ぶだけです。加工する場所は次の場所です。」
「ああ、200を超える施設があるって言ってたな。ここは入り口と倉庫の役割……みたいな感じか?」
「そんな『感じ』です。」
「……?どうかしたのか?」
壁の男が怪訝そうに見つめる。
「いやなに……こういうことを言うと変かもしれないが、あんちゃん、すこし訛ってるのか?」
「そうなのか?」
「そうですね、私も少し気になってはいました。」
「発音自体は違和感はないんだが……すこし、言葉の選び方に癖があるのか?」
「自分ではそこまで意識してないな。」
「まあ、……そんなもんか……。」
「さて、それでは次に行きましょう。」
「次と言っても、どこに行くんだ?」
薄暗く、壁があるだけだ。
「ああ、ここもまた、抜けるんだ。」
壁がブロックのように取れた。
「……もしかして、また4つ足で移動なのか?」
ゴアは笑った。
俺は疲れた。
こうして、ただひたすらにふたまるまるの施設を移動した。
材料を運ぶ場所、加工するために金属で切り取る場所、やすりがけをするところ、など。
おおよそ6つの場所を訪れた。
「そろそろ、帰りましょう。イデが書類を用意してくれているはずです。」
「そうだな。一応聞いておくが、ここから外に出られるんだよな?」
「……。」
「……ゴア……?」
ゴアは笑った。
俺は泣いた。