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溶鉱炉

のぞみさん、こっちですよ。」


薄暗い溶鉱炉から緋色の液体が流れだす。


「ゴアの嬢ちゃん、どいてな。ケガするぜ。」

「はい。後ろから見てますね。」

「おう。」


朝食を軽く摂った後、親睦を深めに行くことになった。

正直、何をすればいいのかわからなかった。

獣人たちが何を望んでいるのかも。


「ここは刃物を扱ってるのか?」

「ええ、そうです。獣人のなかでもとりわけ男性は筋力に秀でる者が多くいますから。」


目の前で火花を散らしながら、刃を鍛える。

降っている金槌も相当な重さがあることは、その風貌からも見て取れた。


人族ひとぞくあんちゃんも、気をつけな。ここじゃ鉄は流れ落ちてくるものだからな。」

「ああ。理解はしているつもりだ。ありがとよ。」


そういうと、獣人の男は少し笑ってから作業に戻った。

ぶっきらぼうな返し方だったかもしれないが、ここではそのほうがよさそうだ。

よくよく考えてもそうだ。

いままで獣人達オリジン・アニマ人族ひとぞくに虐げられていた。

形だけの協力関係ではどこかで無理が出る。

そのため対等な関係である必要がある。

そう、悪魔でも、対等な・・・。


「(だから、ここでは話しかけてきた相手の態度に合わせて言葉を変える必要がある。)」


自分でもここまで適応するとは思っていなかった。


「ゴア、向こうの作業も見てきていいか?邪魔にならないようにするからさ。」

「わかりました。機械も動いてるので気をつけてくださいね。」


すこし原始的かもしれないが、確かに機械が動いている。

つまり、彼らは虐げられながらも、技術や資源を集めている。

ゴアによると、ここは表向きはイデの店の地下だ。

酒などを保存しているという名目で用意された部屋を改造したらしい。


「(いったいどれほどの苦労が。)」


辺りを見渡すと、いろいろな加工品を作っているように感じられた。

しばらく様子を見ていると、作業をしながら、年をとった男が話しかけてきた。

おそらく、獣人達の中でもかなりの高齢だ。

体は金床の方を向いている。


「若いの、これから何をするかは分かっているのか。」

「……俺に言ってるのかい?」


話しながら近づいてみると、老父はなにやら小さな螺旋ねじや釘を作っているようだった。


「そうだ。」


ぶっきらぼうだが、確信めいた、芯のある声だ。


「イデとゴアの嬢ちゃんが何をしようとしているかは知っているんだろう?」

「あいつらが話した段階では……な。」

「最初は俺たちも疑った。人族ひとぞくをどうやって信用するんだと。」


やはり、ゴアはかなりの力をいてみなを説得したようだ。

今の言い方だと、イデも協力したようだ。


「しかしな、あの二人は地道ながらも確かに目的へと迫っていった、そんな気がする。」

「なるほどな。」

「ここの代表ってわけじゃないが、一つあんちゃんに聞いておきたいことがある。」

「何だ?」

「わしら、獣人を信じられるか?」


返答に困る質問だ。

なかなかに難しい。


「……そうだな。」


目をつぶり、少し笑ってから立つ。


「少なくともゴアは信用している。」

「ほうぅ……。」


ゴーグルを外し、作業を中断してこちらを見てくる。


「あいつは本気だぜ。そして俺もな。少なくともそう感じる。」

「なるほど……。」

「ここに来たのだって、俺たちについて来られるかを見るためというのもある。」

「ここにいる奴は……、いや、獣人達はみな、虐げられた分、強靭な精神をもっておるよ。少なくとも同年代の人族よりかはね。」

「なら、ついて来いよ。信じられるようになるのはそれからでも遅くないだろ。」

「ああ。」


髭の奥から、瓜を割いたかのような歯が出てきた。

満面の笑みである。

言い方は両者礼を欠いた会話で会ったが、当人同士は笑っていた。

少なくともそこにはおとこの友情のようなものが芽生えていたように思う。

それからはいろいろと話を聞いた。

やはりこの男は螺旋ねじや釘を作っているらしい。

生活に使う金属なら大体ここで作るらしい。

ゴーグルをしているのは熱から守る装備を人族から仕入れることができないかららしい。


「本来は組織ギルドが独占している範囲の仕事だからな。」

「人族のあんちゃんに見せてるのも、きっと裏切らないと信じてるからなんだろうな。」


顔が熱いので後ろを向いていた。

奴隷制という隔たりがあるため、面と向かって話をするよりかはましかという判断だ。


「だから、俺は信じるよ。がんばれよ。」


ふくらはぎのあたりを思いっきり叩かれた。

男同士の挨拶はこれでいいのだ。

ゴアも遅れてこちらにやってきた。


「獣人達がやっている仕事は後どれくらいある?」

「そうですね、ざっと200でしょうか。」

「すごい数だな。」

「大規模な施設にすると疑われますからね。小さい場所で作業をして、できた部品を運んで加工する、そういうふうにして物を作っているんです。だから、どうしても数だけ聞くと多く感じるかもしれませんね。」


「そういえば、ザックさんと何を話していたんですか?」

「え?ザックって誰だ?」

「さっき話をしてた人です。……まさか名前も聞いていないんですか?」

「ああ、そういえば……。」


ゴアの顔が少し青い。

やはり、ここでそりが合わないとなるとすべての計画が台無し、ということなんだろうか。


「親睦は深められましたか?」

「そうだな、いろいろと話をしてくれたし、酒を飲むくらいの仲にはなったんじゃないか?」

「本当ですか!」


嬉しそうだ。

やはり、この組織はゴアとイデにいろいろな責任が集中しているように感じる。

指導者リーダーだから、しょうがないのかもしれないが。

少し情緒不安定に感じる、ゴアが。

青ざめたり、喜んだり、喜怒哀楽が激しいような……。


「その様子だと、ここではうまくいったようですね。」

「次に行ってみましょうか。」

「ああ。」

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