翌日
眼を覚ますと黄昏時。
すでに太陽も斜めに構えている。
「(柔らかい……ベッドの上か?)」
近くで水が跳ねるような音がする。
眼を開けるとゴアが近くにいた。
「お目覚めですか。」
木製の盥だろうか。
水を溜めて布を濡らしている。
「昨日はすいませんでした。」
「え?」
「……まさか一気飲みするとは思っていませんでした。」
ああ、昨日のことか。
「あれは……酒だったのか?」
「ええ、そうです。」
水が滴る。
絞った布をもって、こちらに来る。
「でも、成功したんじゃないか。」
「はい。」
額に布を置かれる。
ひんやりして気持ちいい。
「何かを約束することの杯だったから、やっぱり一気飲みが一番かなって。」
まだ重い体を起こす。
「そう思ったんだ。」
「皆さん驚いてましたよ、そして、興味を持った方も多くいました。」
「それは良かった。」
ベッドに起き上がる。
ゴアも、ベッドの上に座ってこちらを見ている。
心なしか、少し近い気がする。
表情も柔らかい気がする。
「(獣人と人族を合わせようとしてたんだから、もしものことも考えてたんだろうな……。)」
そう考えると、ゴアも相当な心労があったのだろう。
昨日は無事、獣人と接触することができたから、いくらか浮ついた気持ちになっていてもおかしくはない。
……そう、おかしくはない。
……多少は。
「水をもらってもいいか?」
「ええ、コップに入れてきます。」
とはいえ、近すぎるような気がする。
今のも、ぶっきらぼうな要求だったかもしれないが、ゴアは笑顔で呑んでくる。
それと、香水か何かをつけているのだろうか。
甘い花の蜜みたいなにおいがする。
窓からは涼しい優しい風が吹いている。
ゴアが看病してくれていたのだろうか?
寝起きだからか、いろんな考えがまとまらないうちに出てくる。
とりとめのない、そんなことを考えていると、ドアを叩く音。
「はい。」
「どうぞ、お水です。」
「ああ、ありがとう。」
やはり、昨日飲んだのは酒なのだろう。
のどが渇いている。
当然といえば当然か。
ほかに何も食べずにアルコールを摂取したと考えると、脱水症状が出てもおかしくはない。
異世界でも体の調子は引き継がれている……?
ゴアから受け取った水を飲む。
甘い。
香りもついている。
「ゴア、これは……?」
「はい。獣人ギルドで扱おうとしている商品です。」
「へぇ……。花の蜜を集めたのかな。」
「そうです。獣人たちのなかには匂いを識別するのが得意なものもいます。熟した花が枯れる前に見つけ出すのは、人族には難しそうなので。」
「……結局、ギルドの設立はできそうなのか?」
「はい、みなさん、希さんに興味を抱いてましたから。」
「そういえば、昨日言っていた、親睦を深めるってのは、何をすればいいんだ?」
「そうですね……。」
しばらく考え込むゴア。
しかし、水を渡してから、またベッドに座っている。
やはり近い。
「ギルド作成の書類はイデに任せようと思います。」
「……そこで。」
少し間をおく。
「……よかったら、一緒にみんなの職場を見に行きましょう。」
女性はにこやかに笑って見せた。