転機
「組織の……証人……ですか……。」
突然の申し入れに理解が遅れる。
組織……多くは同業者の集まりだったか?
ある分野においての職人や技術を独占するために作られる機関だったような。
「……はい。」
ゴアは短く答えるだけだった。
出会ってまだ幾日もたっていない。
非常識な願いということはゴア本人も理解しているのであろう。
しかし、彼女達には時間が過ぎるのを待つのは敗北を……すなわち死を意味するのだろう。
虐げられし階級ならば、一度奴隷としての身分が定着すると、そこから抜け出すのは難しそうだ。
「(獣人は所有物のように扱われているらしいし、使っている側の妨害などもありえる……はず。)」
いろいろと仮定だらけの推論ができる。
しかし、今は目の前の女性に話かけよう。
「その組織の目的は獣人達の独立及び、奴隷制の廃止……。」
「はい。」
「しかし、何で僕が必要なんですか。」
視線をテーブルに落とす。
「僕は獣人ではないし、この国のことも良く知らないような人間ですよ。」
「何か必要なわけがあるんですか。」
机上のゴアの両手が震える。
「はい……組織の設立には最低5名以上の組員と……。」
カップに視線を落とす。
コーヒーだろうか。
こちらの世界にあるかどうかは知らないが。
黒い水面にゴアの顔が映っている。
人族からすれば大きめの耳も少し下を向いた。
「……人間の……。」
「はい。」
なるほど、そういうことか。
「……人族一人の証人が必要なんです。」
静かに、静かにだが力強く女性は言った。
こうして、奴隷支配の構図が明らかになった。
奴隷を奴隷たらしめるにはどうすればいいのか?
上の階級に上がる手段すら、人族が独占すればいい話だ。
「(もしかして……。)」
「……ゴアさん。」
「……はい。」
しばしの間見つめあう。
「……受けましょう。その話。」
恐らくこれがこの『世界』の救い方だ……。