オリジン・アニマ
仕事終わり、日も傾き辺りが暗くなり始める。
黄昏時だ。
昼に行った店へ行こう。
ドアを開けるとそこには昼時と変わらぬ格好のイデがいた。
「こんばんわ。ゴアさんは来ていますか?」
ここではさん付けのほうがいいよな?
「ゴアさんなら、奥のテーブルでお待ちしています。ご案内します。」
やはり、美しい。
昼時はなぜか注文を忘れていたが、やはり業務をそこまで間違える人というわけではなさそうだ。
働く女性は美しいものだな。
彼女の境遇を考えれば、思い上がった思想かもしれないが……。
「こちらです。」
「ありがとう。」
手招きされたほうへ顔を向けると、そこにはゴアが。
何か暖かいものを飲んでいるようだ。
「……よくきてくださいました、希さん。……どうぞ、こちらへ。」
昼と雰囲気が違う。
何か様子がおかしい。
いったいどうしたのだろうか。
『……私のことはゴアと……、ゴアと呼んでください。』
そう、どちらかというと親しみやすい人柄だったきがするが……。
しかし、今の彼女はなぜか敬語で話しかけてくる。
奴隷制を知ったからといって、獣人であろう、ゴアに対して尊大な態度をとるつもりはないのだが……。
しかし、昼時の様子を鑑みるに、獣人達が自分に話があるようだ。
それを察して、この時間まで待ったはずだろう。
「……はい。」
緊張してしまったのか、短く返すだけだった。
イデさんの視線を受けながら、ゴアの向かいの席へ座る。
「……今夜、ここにお呼びしたのはほかでもありません、希さん、あなたにお願いしたいことがあります。……どうか、お話だけでも聞いていただけませんか。」
「……はい。」
目を細め、いつも以上に静かに語りかける女性。
その眼からは青白いような光が射しているようだった。
「……では、話します。……私達はこの国では奴隷階級として扱われています。……それはお昼のときお話したとおりです。」
「……ここで言う私達というのは、いわゆる獣人。……この国ではオリジン・アニマと呼ばれている種族の人達のことです。」
「……結論から申し上げますと、私達の目的は奴隷制度の廃止です。」
「それを目指し、仲間を増やしました。最初は私とイデの二人だけでした。」
「……しかし、途方もない道を歩んでいくことを決めました。そして、さまざまな獣人達と接触をしました。あるときは店員として。」
イデがその役割をしていたのだろう。
「あるときは宿屋の受付として。」
革命の最初の二人か……。
「……また、あるときは鉄くずを運び、あるときは剣を打ち、またあるときは畑に出……。」
「劣悪な環境に耐えながら、さまざまな場所で姿形を変えながら、仲間を集めました。商人の奴隷、王族の傀儡、農奴……彼らはさまざまな場所にいました。」
やはり労働の大半を占める奴隷は酷使されていたのだろう。
「……それこそ、彼らがいないところを探すほうが難しいくらいに。そして私達は、とある組織を作りました。」
「……もちろん、表には組織ということをいっているわけではありません。正式な手続きもしていません、いえ、できないのです。」
「……話がそれてしまいました。希さんにお願いしたいこと、それは、この組織の証人になっていただきたいのです!」
ゴアは初めて声を荒げた。




