過ち
耳と尻尾と胸を揺らしながら、店員は戻ってきた。
血の気を戻さないままで。
「誠に申し訳ございませんでしたッ……!」
料理を机に置くなり、額を地面に押し付けた。
「お、おい……。」
体が震える。
「私の不手際ですので、どうか……、どうか、私一個人で済むように……。ご慈悲をッ……。」
「……ゴアさん、説明をしていただけませんか。」
店員の耳が左右に揺れる。
「……そうですね。大丈夫ですよ、イデ。」
店員の名前を知っているのか。
行きつけのお店と言うのも嘘ではないようだ。
「この方は進んで誰かを傷つけるようなことはしませんから。」
「ゴ……、ゴア……、もしかして……。」
顔を上げた。
おでこのあたりが赤くなっている。
「まったく……、自分の体くらいは大切にした方がいいんじゃないんですか?」
制服のポケットからハンカチを取る。
店員の赤く腫れているところを軽く抑える。
正直、初対面の人の顔を触るのはすごく精神的居心地が悪い。
ただ、この店員はどうやら恐怖しているらしく、脚が震えて先ほどの謝罪の体勢から動けないようだった。
「(……しょうがない、よな……?)」
そんなことを考えていると、ふと手に水分を感じた。
温い。
顔を上げるとそこには、大粒の涙が。
「大丈夫ですか……?」
少年はさらにこの世界を知ることになる。




