堕落セシ概念と獣人
「……そして、人の次がその所有物、ということになります。」
一体どういうことだろうか。
「……最後に、獣人が入ります。」
何ということだろうか。
「それは本当なんですか。」
思わず声に力が入る。
女性、いや、ゴアは両眼を閉じ、静かに頷くだけだった。
恐ろしい制度ではないだろうか。
「……どうして、人の所有物よりも獣人のほうが身分が低いんですか?」
恐らく、階級の最底辺に属するであろうゴアにこの質問をするのは、いくばくか心がつらかった。
しかし、この世界について知るためには必要だと感じた。
少し眼を細め答えた。
「……簡単です。人の下に獣人を位置するようにすると、不満を持った獣人は、人ではなく、誰かの財産に不満をぶつけるようになるからです。」
……なるほど。
人を傷つけると犯罪なのだろう。
そこは異世界も『本質的』には同じ、なのだろうか。
いや、この異世界が以前いた世界に似た価値観を持つだけか。
どちらかはわからない。
恐らく、この世界を救ったとき、そして別の世界に行くとき、経験を通じて理解することができるだろう。
とにかく、この異世界では獣人を支配するために身分制度を採用しているようだ。
そして、人の下に『人の所有物』が来て、そして、最後に獣人の身分が来る。
これは前述した理由と、ゴアが言ったように、獣人の抵抗すらも無くすためだろう。
その確信を得るための質問をしよう。
「……ここでは、人を傷つけるのと、人の財産を破壊すること……、どちらが重罪ですか?」
ゴアはこちらの意図を察したのか、再び、眼を少し見開いた。
「……そうです、同じ罪に問われます。……いえ、危害を加えた、加えようとした財産の価値によっては、それ以上の重さの罪に問われます。」
店員が料理を運んできた。
運ばれた料理は豊かな匂いを漂わせ、湯気が盛んに昇っていた。
しかし、二人の『客人』はただ見つめあっていた。
少年は、あの少女から言われていたことを思い出していた。
『概念悪とは世界線に存在する概念です。つまり、物として存在するとは限りません。そして、概念悪の特徴として、その世界線を堕落させているものです。』
『その世界を堕落させているものです。』
少年は初めてこの世界の歪みを感じていた。