食事
「……それでは、外で少しお待ちください。」
部屋の掃除を終わらせて、待ち合わせをすることになった。
待ち合わせと言っても、宿屋の外で女性を待つだけだ。
「(そういえば、あの人の名前すらまだ知らないんだな……。)」
今日の質問は何にしようかと考えていると、扉が開いた。
「……お待たせしました。それでは、行きましょう。」
さっきまでの格好と違う。
普段は白いエプロンにスカートのような……よくわからないがメイドさんに似た格好なのだが、今はスカートに白いフード、といったような格好だ。
自分も、部屋から持ってきた白いフードのようなものを被る。
「……今日は、どこに行くんですか?」
「……行きつけのお店があります。そこで食べましょう。」
「そうですか。」
名前も知らない女性と食事を摂りに行くのだ。
少し緊張してしまう。
無言のまま宿から歩く。
気が付くと、何回か通ったことのある、市場への通りだ。
その通りを歩いていく。
この街は壁で覆われていた。
いつもは門の近くの宿屋で過ごしていることになる。
今日は壁沿いに反対側の方に進んでいることになる。
無言のまま女性の背を追いかける。
「(そういえば、こちら側に来たことはないな……。)」
段々と通りに立っている家が大きくなっていることに気がついた。
富裕層が住んでいる地域だろうか?
ふと気づくと、女性の歩みが止まっている。
「……ここです。」
手入れの行き届いた大き目のお店。
ガラスの窓にレンガの足場。
「きれいなお店ですね。」
「……ええ、行きましょう。」
店内もきれいだった。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「ええ。」
「こちらの席へどうぞ。」
一人の店員がつきっきりで案内をしてくれた。
「(この人も獣人か……。)」
やはり特徴的な尻尾と耳がある。
「メニューはこちらです。」
「(しまった。異世界の文字が読めないんだった。)」
「……もしよろしければですが……。」
女性が口を開いた。
「……体調も良くないようですし、ここは私に持たせてください。体の調子を整える物もありますから。」