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モノとモノ

犬や猫のような耳と尻尾が人の体についているように見える。

どうやら気のせいではないらしい。

窓際にある箱に身を隠す。


「(この世界には獣人(獣人)がいるのか?)」


神たる少女から何も聞いていない。


「(それに……。)」


直前に聞いた言葉を反芻はんすうする。


『これだけいますと……20000ハスは出せますな。』

『これほどの上玉なら25000ハスまでなら……。』


「(間違いない……この世界では物のように扱われる者たちがいる。)」

「(つまり……奴隷制度がある!)」

「(……そうか!そういうことか!)」


いままで、異世界こちらで何か違和感を感じても、文化や習慣の違いで片づけていたがそうではない。


箱詰めされたピュイの実を市場マーケットまで運ぶだけ、それも一日に一回運ぶだけで宿代を確保できるのは奴隷が多くの労働をまかなっているからだ。

恐らく、奴隷の身分の人たちは給料をそんなに貰えないはずだ。

最悪、生きていくだけの食料しか渡されていない可能性もある。


だから、宿代も一日で食事付きで200ハスという値段なのだろう。

ピュイのみを市場マーケットまで運ぶ仕事は一箱あたり、50ハスだ。

これを物価の基準にするなら、多分宿代は一日食事付きで4500ハスくらいになるのではないだろうか。

奴隷に賃金を与えていないから、宿代はその分のコストを下げて安く経営できているのだろう。


「(これ以上、窓から見てていいモノか……。)」


人通りが少ないと言えど、不審な動きをしているのを誰かに見られるのはよくない。

番兵がいる街なのだ。

警察のように治安維持を行う組織があってもおかしくはない。


「(しかし……本当に今まで知らなかったことが知れたのだ。いいきっかけだろうし、しばらく見てみるか……。)」


通りに人影がないのを確認してから、再び窓から室内なかをのぞく。


「最後のコイツは……よくて18000ハスだな。」


小太りの中年って感じの奴がひざまずいた三人の女性を見つめる。

後ろにはやせ細った男が両手をさすっていた。

両者ともスーツのようなものを着ている。


「(いつの世界でもこういう奴らはいるってことね……。)」


「ですと……今回は63000ハスですか。」

「うむ。それでどうだろうか?」

「そうですね……いつも安定して買い取っていただいてるので、今回はそれでお願いします。」

「うん。君も話が分かるね。」


男たちは袋を手渡していた。

契約書と金だろうか?


「(もう少し、もう少しでいい、なにかこの世界にしかない、そういったものの手がかりは……。)」


ふと売買された女性の方を見ると、ソレはあった。

よく見ると女性は拘束されていた。

手を後ろに回されていたから、身動きできないようにされているとは思っていたが、よく見ると足にも何かがついている。


「(青い……鎖……?)」


女性が窓際を見た。

目が合った。

最初は驚くような表情を浮かべていた。

次第に落ち着きを取り戻したのか、口を動かしだした。

しかし、声を出していないのか、何も聞こえない。

口元を注視する。


「た……て……。は……に…て……。」


声は聞き取れなかったが、言いたいことは理解した。

とにかく、これ以上ここで見ているわけにはいかない。

室内なかにいる女性に存在がバレたこともだが、そのうち室内なかの男たちも気付く位置……ということだ。


「おい!何を喋っている!」


男が女性を持ちあげる。

女性は尚、反抗的な目つきで、口の中に含んでいた水分を相手の顔に吐きかけた。


「こいつ!」


地面に叩きつけられる。

顔がこちらを向いている。

疲れ切っているのか、目の焦点が合っていない。

笑うような、希望を捨てたような表情だった。


「(……わかったよ。)」


通りに戻り、白い衣を着、宿に引き返すように歩く。

しばらくしても、誰も声をかけない。


「(どうやら、何をしていたかはバレていないようだな。)」


己の無力さを感じる。

世界を救うだのなんだの言っても、一個人ではないか。

俺に何ができる……。

振り返るようにして、さっきの店を見る。

文字がやはり読めない。

雨が降り始めた。


「おかえりなさいませ……。」

「……。」

「あ……。」


部屋に戻り、横になる。

雨は止まなかった。


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