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二日目と衝撃と

職探しはおもいのほかうまくいった。


異世界二日目。


結局、前日は夕食の後は外出しなかった。

やはり、右も左もわからない世界で夜で歩くのは危険だと判断した。


そして二日目の朝を迎えてから、探索を開始した。

朝食は宿についていないので、そのまま白いフードのようなものを羽織り、外出した。

もちろん、その日の宿は予約した。

市場マーケットで売り子に職はないかと尋ねる。


意外にも人手不足らしい。

ということで、なぜか箱詰めされたピュイの実を畑から市場マーケットまで運ぶ職に就いた。

外出から一時間も経たずに職を見つけることができた。


……流れでここまでうまくいくとは。

給料は運んだ箱の数一つにつき、50ハス。

荷台の使用を許可してくれたので、一度に6個くらいは運べそうだ。

つまり、一日に一回運ぶだけで、その日の宿は確保できる。

……おかしい。

あまりにも物価に対して給料が多い。

この街はそんなに豊かな資源があるのだろうか?

とてもそうは見えないが……。

仕事は明日からになった。

給料は日払い可能らしい。

朝から出勤すれば、宿を取るのには困らなさそうだ。

……今日は宿に帰ってゆっくりしよう。

考えれば、異世界こっちに来てから動きっぱなしだ。

体を休めていても、何をするか考えていたりと、まともに休んでいなかった。

今日は体と心を休める日にしよう。

職も見つかったことだし。


「……今日はもうお休みですか?」


部屋に帰ると受付の女性が掃除をしてくれていた。


「ああ、ルームサービスですか?」

「ええ、はい。と言っても、簡単なお掃除ですけれど……。」


この人の話し方は耳に残るな。

何と言うか、言葉の最後に響きの余韻が残る。

はい、というよりはいぃ……って聞こえる感じだろうか。


「えぇっと、あの、すいません、横になります。」

「……どうぞ。」


「……茶色の髪なんですね。」

「……え?」

「いやなに、ベッドで横になると角度的に少し、髪が見えたので。この街では少ないんですか?」

「いえ……数だけでいえば、圧倒的に多い髪の色です。」

「なるほど。」


黒髪なんだが、隠した方がいいのだろうか?


「……そういえば。」

「あなたは黒色の……。いえ、すいません。」


歯切れが悪い。

髪などの体のことはやはり女性には禁句だったのだろうか。


「黒色の髪はやはり珍しいんですか?」


その言葉を聞くと、ほうきをはいている手を止めた。


「そうですね、この街全体の2割りもいないんじゃないでしょうか。」


フードを被っていないと注目を浴びる理由のような気がした。

全体の2割りしかいないのか。


「(この街では黒髪は特に目立ちそうだな……。)」


有益な情報を手に入れた気がした。

なら、次の手はこれしかないな。


「掃除は毎日してくれるんですか?」

「はい、皆さんが出かける朝から昼の間に。もしくは夕食の間に行います。」

「なら、明日も少し話に付き合ってくれませんか?」

「え……。」


やめて。

そんな泣きそうな顔で見つめないで。

そんなに自分と話をするのが嫌だったのか?

怖い。

コミュニケーションを拒絶される感じ、久しぶりかもしれない。

学校とかでもグループの和に入りにくいアレだ、これ。


「いや、この街にきて日が少ないので、いろんなことを聴きたいんです。ただ、それだけなんですけど。」

「はい……。私でよければ。」


……強引だったかもしれないが、まあ、これでいいか。

こうして宿に泊まるごとに何回かの質問をする機会を得た。

何も知らない異世界でこれはでかい。

今日知れたことは黒髪の人は少ないってことだ。

果たして、いつになったらこの世界について知れるんだろうか。

……まあ、些細なことも『世界の一部』なのかもしれないが。


「それでは、ごゆっくり……。」


そう言って、受付の人は部屋を去った。

さて、こんな感じでいいのだろうか?

女神との話もできない。

まだ昼前だ。

ベッドで横たわっていると、窓から陽射しが差す。


「どうやれば『世界の心理』なんて理解わかるんだよ……。」


布団をかぶりながら、ぼやく。

ドアのほうを見つめても誰もいない。


「一人だ……。」


一人と言うよりは独り。

孤独、異世界ではそうなるのもしょうがないモノだろうか。


「(一人で海外に旅行したら、こんな感じなのかな……。)」

「(なんだろう、この匂い。布団から甘いにおいがする……。)」


気がつけば夕方だった。


「眠ってしまったか……。」


心身を休めるとはいえ、昼時に寝てしまったのは痛い。

夜、寝れなくなると生活習慣が狂う。

まあ、いまさらぼやいてもしょうがない。

少し危ないが行くか。


「(日が沈む前には戻ってこれるかな……。)」


というわけで、いままであまり行わなかった夕方からの探索だ。


「(正直、このままゆっくりと理解を進めていくのでは、『世界線』の発見に何十年かかるか分かったものじゃない。今まで行わなかったことをすることで、新しく何かを知ることができるかもしれない。)」


元の世界にもあった言葉だ。

虎穴に入らずんば虎子を得ず……ってな。

とりあえず、職探しをした市場マーケットの方へと歩く。

みな自分とは反対方向へと進んでいく。

この時間から出かける人はやはり少ないらしい。

日も落ちた。

この世界の時間の進み具合はどうなってるんだ。


「(果物屋(ピュイの実売り)のところだけ明かりがついてるが……。)」


辺りに人影はない。


「(……行ってみるか。)」


女神も言っていた。

『概念悪』はこの世界を堕落させているものだと。


「(つまり、最低でも一回は異世界のアングラなところを見て、無くさないといけないわけだ……。)」


ならば、今のシチュエーションはどうだろうか?

人の少ない店、灯りが唯一ついている店だ。


窓からのぞいてみる。

思いの外、中からの声は聞こえる。


「それで、これだけで一体いくら位になるんだい。」

「これだけいますと……20000ハスは出せますな。」


何かの取引現場だろうか。

窓の角度のせいか、何を取引しているのかわからない。

目立つのはよくないだろうが、少しなら大丈夫だろうか……?

少し壁沿いに歩き移動する。


「……?!」


その時、この世界にきて最大の衝撃を体験した。


「これほどの上玉なら25000ハスまでなら……。」


取引のブツは人だった。

栗色の毛並みをした女性三名。


「……じ、獣人じゅうじん……っ!」

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