表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/100

白い布

「(さて、今夜の宿を取ることはできた。)」


宿を取るのも一苦労の異世界である。


「(今度からは女神にその世界の通貨をいくらか貰おう。)」

「(貰えるかどうかはわからないけど。)」


ここは宿の一室。

木製のベッドと窓が一つの簡単な部屋である。

今後の方針を考えていこう。


「(とりあえず、手持ちのおハスで明日の宿も取ることができる。その間に金策をどうにかしないと、生活すら厳しくなりそうだ。)」


収穫はもう一つ。

白いフードのようなものだ。

これを羽織れば、ようやく好奇の目を向けられることもないだろう。


「(実際、周りに溶け込めるのはでかい。風習とかもわからなければ周りの人を見て学ぶしかなさそうだ。その際に目立っているのはあまりよくなさそうだ。難癖つけて、犯罪者に仕立て上げられるかもしれない。)」


だからこそ、服装を揃えられたのは大きい。


「(金策を練ろうにも、この世界について知らなさ過ぎてどうしようもないような……。市場マーケットがあるようだし、労働という概念はありそうだが……。)」


市場マーケットでは果物のようなものが売られていた。

ならば、生産するのに畑が必要なはずだし、市場マーケットに運ぶ人もいるはずだ。

そこで働いてい給料をもらう……くらいしか思いつかない。


「(郷に入っては郷に従え、街を探索するしかないか。)」


自分でこの街を調べるしかなさそうだ。

そんなこんなで、いろいろ考えているとドアがノックされた。


「はい。」

「お夕食が出来ましたので、下の階までお越しください。」


受付の女性だった。


「はい。」


どうやら夕食の時間の様だ。

ありがたい。

この世界で何が消費されているか、食文化を理解するのに役立ちそうだ。

下の階に行くと、階段わきの机に誘導された。

なるほど、ここで食事をるのか。

しばらく待っていると、女性が夕食を運んでくれた。


「本日の夕食は、ピュイの実とキノコのシチュー、紫パン、エラボウと空ソウのマリネです。」


献立を教えてくれる。

値段の相場がわからないが、サービスはなかなかのようだ。


「それでは、ごゆっくりどうぞ。」


そして女性はまた受付に戻っていった。

とにもかくにも、わからないことだらけの異世界で初めての食事だ。

この日始めての食事でもある。

食べよう。

栄養がなければ体は動かない。

たった一人で異世界にいるのだ。

体が資本であり基本のはずだ。


「(……いただきます。)」


両手をあわせて、食器をとる。

どうやらこっちにもスプーンはあるらしい。

まずは、一番大きい皿のシチューから食べよう。

湯気が出るくらいあつい。

ふと気づくと、辺りは暗い。

もう夜であったか。

日が出ているうちは暖かかったのだが、意外と寒い。

そんなわけで、この温かいシチューがありがたい。

白い液体を一杯、口に入れる。

塩味と木の匂い。

さらには海鮮系の出汁を感じた。

うまい。

この世界にも塩と魚、そして煮込み料理があることが分かった。


「(さて……次はピュイの実か?……行ってみよう。」


そう、このシチュー、実は赤色のナニかが入っている。

恐らくそれは宿屋に来る途中、市場マーケットで見たモノだ。

そう、あの赤い果実のようなものだ。


「(ピュイの実っていうのか……、さて、どんな味がするやら。)」


スプーンですくい、しばらく眺めていた。

赤色の球体の集合体みたいな果実だ。

いや、果実のようなもの……か……?

頬張ると柔らかい木の実の様な食感だ。

噛んで見ると、口の中で割れた。


「(ん?……これ……?)」


どうしよう、すごく辛い。

タバスコを濃縮したみたいな味だ。

舌が痛い。

吐き出そうにもなんか受付の女性がこちらを見ている。

仕方ないので、すぐに飲み込むことにした。


「(滅茶苦茶辛かった……。喉どころか、食道や胃が熱い。)」


恐らく、あの味の濃さは利用するためにある。

つまり、そのまま食べるのではなくシチューの中で割って、辛口に味付けするのではないだろうか。

顔を赤くしていると、受付の女性が飲み物を持ってきた。

その……笑いながら。


「大丈夫ですか?……フフッ。」


漏れてんぞ。


「こちらはサービスのルブジュースです。……フフッ。」


まだ笑うか。


「ありがとう。」


渡されたモノを飲む。

少し粘り気を感じるが、甘い飲み物だ。

薔薇とブルーベリーのにおいを混ぜたような、そんな風味。

一口飲むとすぐに口内の辛みは引いた。


「助かったよ。うん。」


「それでは、ごゆっくり。」


異世界ではこういう風に半ば実験のように、確かめながら生活をするしかないのだろうか。

その日の夕食はよかった。

少なくとも、温もりと、少しの笑いのある食事だった。


「(受付の女性ヒトはあんな風に笑うんだな……。)」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ