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最後の希望

相対……、それ単独でなく他との関係を、関係づけて、捉えること。


「そうなのです、希さん。私たちは……。」


龍と『最後の希望』が対立した。

そして、真の最終決戦が始まる。


最高傑作マスター・ピースを作ったがために……、我々の権能は消え失せました。これより、神ではなく、一個の生物として、生きていきます。」


恐らく、それが相対の意味。

失われし絶対、代用した相対、それらを犠牲にしない限り、最高傑作は作ることができなかった。

ただ……、一部を除いて。


「なんだよ、こんな空間で。何か用か?」


それは、この世界にいるもう一人の転生者。

希とは違う。

神からあまたのギフトを受け取ったもの。

そして、何もしていない者。


「永遠の権能を失ったが、世界の命運を我々で見届けようではないか。」


そう、まさに、龍との殴り合いが始まった。

鈍い音が響き、地は揺れ始めた。


「永遠の……!!」

「もう、神じゃない……、いや。」


一息ついてから。


「もともと我々は神ではない。技術によって発達した種。ただの生物だ。神を名乗るなど、おこがましかったのかもしれん。」

「……それが、絶対から最高傑作への代償ですか。」

「そうだ。我々の目論見通りにはいかず、今や、全ての世界はあの二方ふたかたに握られている……、あまたの世界線と共にね。」


最後の使者ラスエルは、気づいた。

格闘術、人が殴り合っているように見えるこの戦い、その両者の手には世界線がある。

そして、互いの世界線を行使し、それをぶつけ合っている。

そのため、二者の手は輝き、そして、地響きが続いていた。

これは、世界同士がぶつかる音だったのだ。

干渉しあい、消えていく世界。

しかし、零れ落ちるはずだった可能性を、最後の希望は纏い始めた。


「希さんの世界線だけ、光が……。」


「へへ、もう、みんないなくなっちまったか?」

「いや……。」


自信の胸を触る。

蝕まれた右手で。


「ここにいる、そうだろ?」


最後の一撃。

それは龍よりも速く、大きく、そして、強かった。

頭蓋と共に右手の甲は割れ、『俺』は、人間になった。

そして、龍と合わさった部分から、大きな光と衝撃が走り、全ては白い光に包まれた。





今日、『僕』は死んだ……。




時計が鳴っている?

しきりに、ちがうこれは……。


『……聞こえますか?』


心音だ、ラスエル、少女自身の。


「ここは……。」

「私の世界線、と言っても、力がほぼないので二人を囲むだけですが。」

「希さん、あなたには、話をしておきましょう。」


目をやると、そこには少女、青い光、そして宇宙があるだけだった。


「流れ星になってるのか。」

「そうです。どこまで記憶がありますか?」

「最後に龍を殴ったところまでは……。」


「そうですか。では、そこからお話ししましょう。」

「ああ。」


「まず、我々はただの種になりました。最高傑作を作るために、無茶をしましたからね。」


そうだったのか……。


「そして、最後の一撃、あれはすごかったですね、おかげで世界線がすべて混ざりましたよ。」

「おい、何か今、よくないようなことを聞いたぞ。」

「大丈夫です。世界線、全てが混ざり、一つになったんです。だから、ここに私と望さん、二人でいられるんですよ?」

「……権能を失ったのにか?」

「そうです。」

優しく微笑む。

そこにはあどけなさが感じられた。

言外の証明、まさか、少女にされるとは。


「時系列で話しましょうか。」

「ああ。」


この時だけは素直になれた、そんな気がした。


「最後の一撃……、あの後、私はみんな死ぬのかと思っていました。あれほどの衝撃でしたから。でも、違ったんです。希さん、龍と殴り合うたびに世界線の光が大きくなっていったの覚えていますか?」

「ああ、『俺』のだけだったな。」

「そうです、そして、我々は助けられた。」

「何に?」


スッと指をさされた。


「あなたに……、『最後の希望』に……、です。」

「なんだい、そりゃあ。」

「あなたは世界線を取り込み、異なる世界の自己すらもその身に収めましたよね?それも……。」

『二人も。』


少女とかぶる。


「そうです、最後の希望、この権能は、世界線が存在しようとする可能性を増幅する……、そういうものだったのです。そして、あなたが持つ『最高傑作』と龍の持つ世界線が干渉しあい、『相対』を破壊してしまったのです。」


その結果が、全ての世界線が一つになる、という結末だというのか。


「そして、私は見ることしかできませんでしたが、その後……、最後の一撃を入れた後、影があなたに干渉していたのを見たのです。」


ばかな。

影は取り込まれたはずだ。


「彼が何を言っていたのか、聞こえていたのはあなただけだと思います。」

「……そうだ。」


思い出した。


「クッ……。」


「……ぞみ、……希。」


振り返るとそこには理想の俺……、異都がいて、そして、俺とアイツは影でつながっていた。

それ以外は光に包まれ、そして、なにも言えなかった。


「しょうがない、最後に一仕事するか……。」

「まあ、しょうがないよね、別世界の自分だし。」

『終わったら、甘味と飲み物をおごれよ。』


「……そして、二人は消えた。」

「そうですか……。」


「しかしですね……。」


少女は言う。


「これにて、希さんの異世界生活は終了です。」


それは一体、どういう意味だろうか。


「そういえば、今はどこに向かっているんだ?」

「簡単ですよ。あなたの世界です。」

「え!?」

「言ったでしょう……、全ての世界線が一つになった……と。」

「そうか、そうだったな。」


「永遠神……、おじいちゃんでいいですかね、もう。あの人と話し合った結果です。希さんがすべての世界をつなげた以上、概念悪もはびこりませんからね。」


なるほど。

確かにそうだ。

世界ごとに堕落する概念、世界が一つになったのだから、それが数を増やすこともないだろう。


「それでは、最後に、何か。」


気が付くとそこは四つ角だった。

少女と初めて会い、そして。


「俺が絶命したときの……。」

「ええ、そして、ちゃんと謝ってなかったので、希さん……。」

「謝罪よりも感謝の言葉が聞きたい。」

「あはっ……、ははは、そうですよね。希さん、ありがとうございました。」

「ああ。」


こうして、俺の異世界転生は終わった。

失われし言葉を増やし、少女、『ラスエル』によって『最後の希望』が誕生し、そして……。


家に帰ると、時間は自分が死んだであろう日付であった。

そして、今は放課後だ。


冒険の興奮が冷めない。

そう、体感では5分前まで最後の戦いをしていたのだ。


なぜ、自分が異世界であそこまで頑張れたのかわからなかった。

偽善世界線も、精神世界も、そうだ。

その日、俺はそのまま眠ってしまった。

夕暮れの射す茜色の光に包まれて。

壁にかかった自身の影は嗤っていた。



時計が鳴っている。

アルミボディのような、ステンレスのようなボディがまぶしい。

収斂火災なんて笑えない。

そう思いながら体を起こす。

カフェオレとカツサンドを食べながら、ニュースを見る。


「天気は……、晴れか。」


寝癖を一つだけ残して、後はくしですいた。

制服を着よう。

そして、マウスウォッシュだ。


「自分で上げれるなら世話ないわな。」


気分を上げようとして、フロス、歯磨き、そしてぼーっとする。

掛け時計の秒針を刻む音がする。

やがて分針が動き、単身が時を刻んだ。


「……時間か。」


「おはようございます。」

「ああ、おはよう。……希。」


校門を通り過ぎようとすると、生活指導の先生に止められた。


「はい?」

「……いい天気だな。」


そういうと、空を指さし、俺は上を見た。

綺麗な空だった。


「……ええ、そろそろ秋ですね。」

「……ああ。」


何とも言えない沈黙が流れ、それではと切り上げて教室へと向かう。

廊下ですれ違う女学生たちだ。


『今日、ふたまるまるにいかない?』

『いいねぇ~、おいしいアイスでもあるかな?』


フタマル?

新しいデパートの名前か?


「さてと。」


席に着く。

授業前にトイレに行って、深呼吸をする。

肺の空気は少しだけミントの匂いがした。


「希、おはよう。」


そこには緋色の髪、そして、赤色の瞳を持つ少女がいた。


「おはよう……。」

「どうしたの?まだ、眠いの?」


目を細め、しばらく見つめていた。


「……少し、変わった?」

「え?」

「……髪型。」

「え、ああ、うん。そろそろ授業始まるよ。」


そういうと、顔を赤らめて前を向くのだった。

俺も、授業を受けよう。

その時だった。


目の前の学生のスカートからは尻尾が出て、頭には耳があった。


「(スカートでケモナー装備だとっ?)」


って、そこじゃない、俺。

いきなり席を立ったから、全員の視線がくぎ付けだよ。

一人を除いて。


「はーい、希、休み明けからボケかまさなくていいぞ。」

「はい、すいません。」

「なんだ、今日はやけに素直だな?まあいい。今日はみんなに紹介したい人がいるんだ。入っていいぞ!」

「(いや、落ち着け、なんでここにケモ耳娘がいるんだ?!)」


頭が混乱しているを整理している時だった。


「転校生の終野乙葉ついのおとはです!今日から皆さんと同じクラスに来ることになりました!」


「ら、ラスエルっ?」

「希、次やったら、内申点に響くぞ。」


先生にけん制される。

さらに混乱していると、目の前の学生が立ち上がり、こちらを向いた。


「希さん、私を忘れたんですか……?!」


そして、希はさらに混乱した。


その学生は、ゴアだった。

名札にごあ、と書いてあった。

まさかの平仮名である。


さらに続々と廊下から人が入る。


「今日は転校生が81人いるから、各自名前を覚えておくこと~。いいなー?」


「か、影に、異都まで……。」


そして、泡を吹いてその場に倒れた。

そう、少女は言っていた。

世界線は混ざった、と。


「さーて、希さん、今日は学校案内してくださいよ!」

「わ、私もお願いします。」


少女とゴア。ごあ、お前……、たくましくなったんだな……。


「ここまで焦るヤツを見たのは初めてだ。」


影が言う。


『僕もだよ。』


異なる都は笑っていた。


こんなのありかよーーーーーーーーーー!


その声は校内中に響いたという。







終末異世界転生 異世界線収束編













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