思惑と思考と赤い果実(にく)
朝日が差してからしばらく時間がたっただろうか。
街ではマーケットがあるのか、様々な果物(?)と人が入り乱れている。
陽射しが強いのか、みなローブを被っている。
白いローブと赤い果実、この街並みは生前の世界で見たことがあるような気がする。
「(これは……?)」
異世界での言語をどうすれば取得できるのか、もしくはもう、習得しているのか。
それを確かめる。
そのための、ステータスオープン。
「(といっても、やはり、この街に来る前に確認したステータスと同じだ。名前、種族、ゲームの様に数値で書かれた力。)」
「(しょうがない、気恥ずかしいが、そこらの人に話しかけるか……。)」
「あ……、あの……。」
自分よりも頭一つ分背の高い男だった。
ローブを深くかぶっており、両目がうっすらとみえる。
「……なんだ……。」
「(つ、通じてる?何より、相手が何を言ってるかわかる!)」
しかし、困った。
「(言語が通じるかどうか確認するのが目的だったから、何を話すか決めていなかった……。)」
次第に曇る表情。
無表情な相手も、ますます冷ややかな表情に変わる。
「(そ、そうだっ!)」
「この辺りで新鮮な果物を売ってる店はありますか?」
男は表情を変えずに答えた。
「そこらにある。目の前が市場だぞ。」
「あ、ありがとうございますっ!」
礼を告げ、走りさる。
「(元の世界でもっとコミュニケーション能力を磨いておくべきだったかな……。)」
中学校に上がってからというもの、人の様々な側面を見てしまった。
それ以来、人と接するのが苦手になってしまったのだろうか。
「(この調子で世界を救えるのだろうか……?)」
さらに、あの少女、もとい女神は期限を告げなかった。
向こうから見たら100年くらいはかかってもいいのだろうか。
「『概念悪』とは世界線に存在する『概念』です。つまり、物として存在するとは限りません。そして、『概念悪』の特徴として、その世界線を堕落させているものです。」
女神からの情報を思い出す。
世界の堕落がいったい何を表すんだ……?
さらには、物として存在していないものをなくせと言うことだ。
それも、目の前の群衆の争いを止めるのではない。
この世界からなくせということだ。
「(しかし、引っかかることもある……。)」
そう、ステータスの存在である。
筋力、防御力、知力、俊敏性、幸運、全て数値で表されている。
そして、その数値は絶対、ということだ。
「(ということは、だ。法則性があるはずだ。筋力なら数値に比例して重いものが持てるようになったりするはずだ。そして、この『世界線』を作ったのは、そういった筋力などを数値で表すような神だ。)」
「(ならば、概念悪も何らかの方法で駆逐することができるのではないか?)」
力の大小関係を数値で表す、つまり、規律や基準を重んじてこの世界を作ったはずだ。
「(なら、まずは、この世界のことを……、知らなければいけない。恐らく、女神がこの街に僕を連れてきたのには何らかの理由がある。)」
今後の方針は決まった。
街にしばらく滞在し、この世界について知ることだ。