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魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。【連載版】  作者: マルゲリータ
第一章 魔術学校編
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魔法使いです。二人きりの特訓です。

 

「ベルナルド。他の者達は如何(どう)した?」

「……逃げたんじゃないすかね」


 第二屋外訓練場に寂しい風が流れる。

 そう、皆さん逃げたんです。俺を残してね。さながら俺は生贄にされる村娘の気分。何て美しい自己犠牲の精神。皆のために私が人身御供となりますゆえ、どうか皆さまはお逃げください……。

 いえーいサンキューあの、えっと、名前よく知らないけどあの……ベルナンデス君!ありがとう!

 ファッキューメーン。逃げるなら俺も連れてってよ!俺を連れてかないなら俺と一緒に地獄に落ちてよ!あと俺の名前はアベル・ベルナルドだアホども。地獄に落ちても忘れるな。


 あ、レイ様も一緒に逃げたってことはこの勝負は俺の勝ちってことだね!ラジオから革命成功の一報が流れる。やったー。平民万歳ー。新しい時代の幕開けだー。また平民が貴族に勝利してしまった。敗北を知りたい。

 いやホントに。マジで敗北でよかったよ。なぜ俺は今日も元気にここに立ってるんだい?何してんの俺っち。


 いや、ダメだ。ネガティブになったって世界は変わらない。いつだって世界をクリエイトしてきたのは、情熱を胸に、ひたすら真っ直ぐに突き進んできた者達。そんな偉人達なのだ。だからポジティブシンキング。前向きに考えていこうじゃないか。空を見上げて生きていこうじゃないか。あ、鳥。


 そうだ考え方を変えればつまり今は俺とミッシェル先生の二人きりじゃないか。二人きりで放課後に秘密の特訓(意味深)をするわけじゃないか。

 言い換えればこれはデート……デートなのではないのか!?審判!これはデートの内に入りますか!?うーん、ギリギリ……アウト〜☆入んないよね。はい、知ってましたよ。ええ。


「………そうか。参加したくないと言うならば仕方がない。初めから自由参加の訓練として公募したのだ。無理強いは出来んからな」

「え、そうなんすか?あの、だったら俺も……」

「さてベルナルド」


 俺が時代のビッグウェーブに便乗して地獄から抜け出そうと口を開くと、ミッシェル先生は俺の言葉を遮るように喋り始める。


「貴様の勇気に免じて、今日からの特訓は厳しめに行くとしよう。貴様を立派な魔法使いに育ててやる」


 ミッシェル先生が世の男どもを天に召す天使のような笑顔を浮かべる。

 素敵な笑顔です。惚れそうです。けどこのシチュエーションだともう悪魔の微笑みにしか見えない。トラウマになりそう。夢の中でも先生と会えるよやったねアベル君!いやん。

 マズイぞ。流石に断らないとマズイ。本格的に死ぬことになる。頑張れ俺。俺の十八年間積み重ねた非モテ(ぢから)を総動員するのだ。できるできるできる絶対できるお前ならできる。


「……ウィッス。よろしくお願いします……」


 ほほー、意志弱え俺。




 むかしむかしある所に、それはそれは麗しい金髪の女教師とそれはそれは地味顔の陰キャぼっち男がおりました。

 二人はいつだって仲良しです。

 ある時には男を崖から落とし、

 ある時には真剣を振るって剣術を教え、

 またある時には魔法の弾幕を男に撃ち込みました。

 そうしていつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。


 めでたくねーわ。全然めでたくねーわ。

 どんだけマイルドに記憶改竄してもやっぱ騙せねーわ。俺のトラウマが確定したわ。

 しかもこれ1日の出来事だからね?ペース速くない?詰め込み過ぎじゃないミッシェル先生?いいのよもうちょっと縁側でお茶を飲むくらいの余裕を持っても。飲みましょ?お茶。俺を貴女の柔らかそうな膝で膝枕しながらぽかぽか陽気に当てられましょ?

 俺ん家の茶葉持ってきますよミッシェル先生。市場でまとめ買いした安物だけど。あの安っすい味わいが逆に落ち着きますね、はい。最高級の茶葉とか出されてもね、いや全部葉っぱじゃん?ってなるだけだからね。心の髄まで平民気質な俺です。


 それでねミッシェル先生。いえミッシェル様。あの、もう崖の方はいいのよ。もう諦めたからさ。あ、はいはい落ちます落ちますいってきまーす。みたいな感じで諦めも付いたんだけどさ。


 貴女の剣術指導なんかおかしくない?

 こっちは剣なんか初めて触りましたーあー意外と重いんすねー?ちょっと筋トレしてから出直してきますー。てな感じの素人なのにさ。

 はいどうぞと渡されたのは真剣ですよ。鉄の剣ですよ。人ぶっ刺せちゃう狂気の凶器ですよ。ほげー。


 いやいやいやいやいや。ミッシェル様俺素人だから!俺死んじゃうから!いいの!?俺死んじゃってもいいの!?俺が死んだらアレだぞー妹が葬式で泣いちゃうぞー。多分泣いてくれると俺は信じてるぞー。そんなことは許さないぜ。妹を泣かす奴は誰だろうと許さない。必ず生き延びてみせる。

 俺さ、生きて帰ったら、妹によしよしされるんだ。おーフラグがそそり立ってる。


 ミッシェル様は峰打ちだから安心しろって仰ってた。なるほど!峰打ちなら死ぬことはないですね!あら!ミッシェル様!その剣両刃なんですけど峰ってどこにあります!?ねえ聞いてます!?言葉通じてる!?あ、ダメだこれ。


 そうして命からがら逃げ延びた末に待ってたのは魔法の弾幕。回避訓練だってさ。一回でも当たったらゲームオーバーとかどんな鬼畜ゲーよ。ふふ。人は極限状態に陥ると笑いが込み上げてくるんだね。うふふ。ダイイングメッセージにはちゃんとミッシェル様の名前を書いといてやる。これで犯人探しが捗るね!刑事大喜び。名探偵の出番はありません。そこの建物の陰で突っ立って意味深な笑みを浮かべててください。

 あ、ついでにライアンの名前も書いとこ。謂れのない罪に問われるがいいライアン。ふはは。死人に口無し。事件は迷宮へと突き進む。さあ名探偵ー出番だぞー。まあ犯人はそこに倒れてる陰キャですがね。



 夕陽が地平線の彼方に沈む頃。

 特訓二日目は終わったーー。



「ーー今日の分はこれで終わりだ。よく頑張った……ベルナルド、立てるか?」

「…………無理です……」


 地獄の訓練が終わり、俺は地面に倒れ伏す。もう指一本動かせないわ。もう俺ここで寝ますね。てかもうここで働かずに老後まで暮らして骨を埋める所存ですわ。あー地面がヒンヤリ冷たくて気持ちいい。母なる大地の優しさを感じる。こらアベル!ちゃんと働きなさい穀潰しが!ダメだ大地の母ヒステリックだったわ。全然優しくなかったわ。


「……仕方ない。ほら肩を貸すから立ちなさい」

「え、あ。ありがとうございます」


 ミッシェル先生が肩を貸してくれる。うおおおおヤバイですぞ!何がヤバイってその柔らかなお胸様が俺の肉体に接触してるんでありますよ!俺の心拍数が急上昇だ。ついでに俺の人生における女性との距離ランキングも現在急上昇してます。暫定一位です。おめでとうございますミッシェル先生。あとで俺ん家の大量に残ってる茶葉を贈呈します。


 ちくしょう!さっきまで鬼!悪魔!ミッシェル!とかもう五寸釘で呪わんばかりの憎しみを抱いていたのに!このおっぱいのせいで憎しみの感情が消えていく!なんか何でも許しちゃう気分になっちゃう!

 おっぱいは争いを無くす。これ名言。


 おのれ……あざとい、あざといぞミッシェル先生。多分無意識にやってるから尚のこと(タチ)が悪いぞ。くそったれふざけやがってもっとやって下さいお願いします。


「ベルナルド。これから用事はあるか?」

「……え?用事ですか?あー」

「特に無さそうだな」


 まだ俺何も言ってないでしょう!?まあその通りだけども。用事があるかと聞かれたら、答えはNOかでっち上げるの二択しかないですね。一人で気楽な時間も良いものなのよ?ホントだよ?いえーいぼっち最高ー。あれ目から水が。


 で、特に用事が無いならなんなんですミッシェル先生?


「着替えたら貴様を家まで送り届けよう。もう時間も遅いからな。生徒を一人で帰らせるわけにはいかない。途中で何処か軽く食事でもしていくとしようか。無論全て私の奢りだ」


 ふーん。なるほどね。


 ミッシェル先生。それは、デートと、呼べるんじゃないでしょうか!

 どうなんですか!これはデートの内に入りますか!?審判審議を!



 うーん……審議拒否します。

 えー。



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