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魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。【連載版】  作者: マルゲリータ
第一章 魔術学校編
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私の教え子は成長している。

メリー明けまして今年もよろしくそして更新遅れてすみません!

いやね、ねんまつねんしの多忙爆裂パンチにやられてね。あと正月気分が抜けなくてね。あとみかんが美味しくてね。

様々な理由より更新が遅れてしまいました!色々と整理も付きましたので更新再開&ペース上げてやっていこうと思います!

それでは今回はミッシェル先生視点です。どうぞ。

 

 ギガントオーガの遺骸をやって来たギルドの者に引き渡し、転移魔法の魔法陣を解いた後。

 ニナはギルドの者と言葉を交わしたのち、私達の元へと戻ってくる。


「いやぁすまなかったねアベルくん! まさかこんなことになるとは思わなかったんだ」

「あ、いやお役に立てて良かったです」

「お役に立てたどころじゃないさっ! 君が居なかったらもっと被害が出てたかもしれないんだ。礼を言うよ」


 ニナがアベルに軽い仕草で会釈し謝意を示した。魔術学校時代の同期である旧友の今尚変わらぬ様子に、私はどこか懐かしさすら覚える。


「ああいやそんな、頭を下げなくてもいいっすけど、あの当然のことをしただけというか何というか……」

「はははっ、アベルくんはまずその遠慮癖を直すことから始めるべきだな! 君はよくやったんだ、もっと胸を張れ胸を!」

「……う、う、」


 アベルはいつものように目を泳がせながら遠慮気味にそう言う。ニナはそんなアベルの背中を二、三度叩き、アベルが閉じた口から呻くような声を出す。


 ふむ、それには同意する。

 アベルはどうにも何処か自己評価を小さく見積もるきらいがある。

 助けるのが当然だと口にするその心は賞賛されるべきものだが、あの子の場合は謙遜を超えて卑下にも聞こえる時がある。それが可愛らしいところでもあるが。

 その"当然"が出来る人間はそう多くはないというのに。


「……ん。このくらいでいいだろう。エリーゼ、立てるか?」

「は、はい。なんとか……」


 私は二人の会話を耳に挟みながら、エリーゼの足に固定の為の包帯を巻き終わる。

 触診のみではあるが、軽い捻挫のようで安静にしていれば大事には至らないだろう。

 エリーゼはふらつきながらもしっかりと両足で大地を踏みしめ立ち上がる。


「軽い捻挫程度だが、一応医師に診てもらった方が良い。今日は診察に行った後に安静にしておきなさい」

「……わかりました」

「それと」

「?」


 私が付け足した言葉にエリーゼは首をかしげる。

 私はそんな彼女に向かって深く頭を下げた。


「すまなかった」

「え?」

「私が二人を招かなければ、貴様も傷を負うことは無かったのだ。……本当にすまない」

「いや先生のせいじゃないし……っというか頭を上げてくださいお願いですからっ」


 エリーゼはあたふたと慌てて私を取り成そうとする。

 私のせいではない、そうは言っても割り切ることは出来ない。

 結果的に二人の生徒を危険に晒してしまったのは事実なのだ。


「先生はあいつを倒してくれたじゃないですか。俺だけだったらもっと梃子摺ったはずですよ、ええ。なんたって俺の魔法には火力が足りませんからね」

「そうです。このポンコツ兄貴だけじゃここまで被害無く討伐は無理でしたよ、絶対」

「……あれ? エリーゼ、それはフォローをしてくれてるんだよね? 兄ちゃんが颯爽と助けだしたこと忘れてないよね?」

「……」

「なんか言って」


 つーん、とそっぽを向くエリーゼにアベルが情けない声を上げて抗議する。

 兄妹仲が悪いようにも見えるが、エリーゼの頬が仄かに染まっているところから今の言葉は本心ではないのだろう。

 きっと私を気遣った上で淡白な返答をしているのだ。


「はいはい、辛気臭いのはこれで終わりっ!」


 パン、とニナが手を鳴らした。


「ミッシェル、二人がこう言ってるんだ。これ以上は謝罪合戦になるぞ? まあお前が未来予知でも出来るのなら存分に謝ってもらってもいいけどな」


 ニナの言葉を聞いて私は顔を上げる。

 エリーゼはほっとしたような、アベルは気にかける必要はないと言わんばかりに目を閉じている。

 そんな彼らを見て、私は目を細め私なりに笑顔を作る。

 自嘲するようなものではない、感謝の笑みを。


 すると、ニナが私を見ながらニヤニヤといたずらっぽい表情を浮かべているのが見て取れた。

 なんだろうか……?

 私が疑問を抱くとニナは私に近付き内密の会話をするように私の耳に口を寄せる。


「ほらミッシェル。ご褒美ご褒美」

「え?」

「アベルくんこんなに頑張ったんだぞー? 少しくらい役得があってもいいと思うがね私はー」


 心底愉快そうな表情でニナがそんな囁きを私に投げかけた。

 なるほどそういうことか。先程も褒美が如何とか言っていたな。

 ふむ。

 私はアベルの顔を伺う。

 アベルはエリーゼの対応に嘆くのもそこそこに、エリーゼの足の具合を案じている。


「大丈夫か?」

「……うん。ちょっと痛いけど」

「俺がもっと強かったら、もっと余裕を持って逃げられたよな。ごめんなエリーゼ」

「うん。まあその通りだよね。兄ちゃん弱いんだからもっと頑張って」

「おま……おまえ……もうちょい俺を労ってくれてもいいんじゃないかな? ビビりの俺が心奮い立たせて頑張ったのよ?」

「…………まあ、ちょっとはカッコ良かったと思うよ。ちょっとだけね」


 エリーゼが俯きながらそう言うと、アベルは感激に顔を綻ばせてエリーゼの方を向く。


「おお……あのエリーゼが俺のことを……カッコいいって……っ! もっと言って」

「ちょっとだけって言ってんじゃん。そこで調子に乗るからダメなんだよ兄ちゃんは」

「あ。はい。スミマセン」


 エリーゼがその猫目を平たくして(ああいうのをジト目と言うのだろうか)アベルに灸を据えると、アベルは小さくなって謝辞を口にした。

 あれではどちらが年上か分からないな。だが、あれがあの兄妹の最も自然で気の良い関係なのだろう。

 私には兄弟と呼べる者がいなかったからか、あの二人の姿に私は憧憬にも似た気持ちを抱く。


「そうだな。あの子は身を呈して闘ってくれた。その働きに報酬を与えるのは当然だろう。……私のこれがそれに値するかはわからないが……」

「そうだろそうだろ? はいじゃあミッシェル、アベルくんにこの林檎をーー」

「アベル。少しこちらに近付いてくれ」

「……? なんです?」


 アベルが首を傾げながら私の言う通りに近寄ってくる。警戒の色など欠片も見当たらないその行動を前に、私は労せずして目的を達成することが出来た。

 私よりも僅かに低い位置にあるアベルの後頭部にそっと手を添えて招き入れ、私は両腕で包み込むようにしてアベルの頭を胸に抱いた。


「ーー食べさせ……て……?」

「ッ!!!?!??!?」


 ニナが先刻までのニヤケ顔が嘘のようになりを潜め口をぽかんと開けてこちらを見遣る。

 エリーゼもその猫目を見開き無言で驚きを示していた。

 アベルはというと、以前した時と同様に何が起こっているのか分からず混乱しているようだ。こらアベル動くな。擽ったいぞ。


 以前にも同じことをしたことを思い出す。以前は半ば無意識のうちに、という感じだったが、今回は私から進んで行動に移している。

 そこで分かったことだが、私はこの行為をすることが中々に悪くない気分になるということだ。

 どこか心の奥が温まるような……。言葉にするのが難しいが、決して悪くはない。


 一先ず私は己の感情を(すみ)に追いやり、顎の下に見える黒の襟足を撫でながら感謝と賛辞を吐露する。


「アベル、貴様のお陰で皆助かった……礼を言う。貴様は疑いようもなく成長しているのだ。自信を持ちなさい」


 二、三度毛先を梳かすように指を流して、アベルの頭から手をどかし身体を離す。

 するとアベルが顔を赤くしてフラフラとよろけてしまっていた。

 ……む、しまったな。抱く力が強かったか? 加減はしたつもりだったのだが……。


「ミッシェル……」

「ん? なんだニナ。褒美を与えるのだろう? こんなものでいいだろうか」

「いや、私はそこまでしろとは言ってないし。そこまでするなんて夢にも思わなかったぞ……」


 ニナがおおよそ友人に向けるようなものではない目を向けてくる。

 まるで珍妙な獣を見た時のような視線だ。


「なんだその目は。私が何か変なことをしたか?」

「……いやぁ? 時が経てば人は変わるものだなと思っただけさ」

「どういうことだ?」

「『鉄の魔女』に『氷の女剣士』などなど……。学生時代は選り取り見取りの異名がくっ付いていたお前がねぇ……どんな心境の変化だ?」


 私は学生時代にそんな異名を付けられていたのか……。今日初めて知ったぞ。知りたくもなかったが。


「それとも、『あの子だけ』が特別なのかい?」

「それは……」


 私が何かを言いかけた時。


「えっと、私達はもう帰っても……?」

「え、あ、ああ。すまないな引き止めてしまって」

「いえ。それでは」

「んーじゃあねーエリーゼちゃん、アベルくん」


 エリーゼがそう言って礼を一つして、アベルと共にこの場を去る。アベルの方はまだ顔が赤いままだった。

 ばいばーい、とニナは朗らかに手を振って別れる。

 ニナは目を細めて笑顔を作り、感慨深そうに言う。


「良い若者だねぇ。アベルくんも、勿論エリーゼちゃんも」

「ああ。本当に……」


 するとニナは、手を頭にあてバツが悪そうな顔で私に謝ってきた。


「あー悪いなミッシェル。さっきはなんか探るような言い方しちゃったけど、あまり気にしないでくれ。ただの与太話だ」

「いや、特に気にしていないが」

「そりゃよかった」


 ニナがけろっと元の態度に戻る。

 表情豊かなこの友人は時を経ても、その彩りを失くしてはいなかった。

 それが嬉しくもあり、反面、僅かながら羨ましくもある。


「私はこれでも嬉しく思ってるんだよ。お堅ーい親友が少しずつ変わっていってるのが分かってさ」


 その言葉通り、ニナの浮かべたその笑みには先ほどまでのからかうような邪心の入り混じらない、純粋な祝福が見て取れた。

 そしてニナは一息いれると、真剣な表情で切り出す。


「話は変わるが……なあミッシェル。やっぱり騎士団に入るつもりはないのか? お前の実力なら……」


 ニナの口から出たのはこれまで幾度となく受けてきた勧誘の言葉。

 唐突に飛び出したそれに私は面食らうものの、これまでと変わらず同じ答えを返す。


「その誘いは嬉しいが……すまない。騎士団には入らない。教師は私の夢なのだよ、ニナ」

「……学生時代から答えは変わらず、か。これで私がフラれたのは何回目だ? 二十回目くらい?」

「通算で二十七回目だ」

「なに律儀に数えてんだ」


 ニナが笑いながら私に突っ込むと、寂しそうな表情で歩き出す。


「残念だけど、夢だってんなら仕方ない。応援するよミッシェル」

「ああ……ありがとう」


 私も同じく歩き出し、ニナの半歩後ろを追従する。

 だが私は一つ疑問に思うことがあった。

 ニナに会うたび頻繁に勧誘を受けるのはもう慣れたものではあるのだが。

 何故このタイミングで聞いてきたのか、私には分からなかった。


「でもアベルくんも最上級生だってんならさ」


 疑問を解消しようとニナに問いかける前に、私の耳にニナの独り言のような小さな声が届いた。



「もうちょっとで、卒業だろ?」



 その言葉に、私は。

 別れが近いことを否応なく認識させられた。


実を言うと、次で一応「一章:魔術学校編」として一区切りしようと思っております。次回も楽しんでいただければと思います。よろしくお願いします!

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