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魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。【連載版】  作者: マルゲリータ
第一章 魔術学校編
30/39

魔法使いです。休日なので王都に行きます。④

 

「タァーイッ!!」

「フンッ!」

「オオオッ!!」


 気合いの入った声、剣と剣がぶつかる甲高い音、砂利を蹴る音、重い甲冑の軋む音とが合わさり、泥臭い交響曲を奏でるその場所で俺はもう既に帰りたかった。


 ここは『王宮魔法騎士団』の所有する訓練場である。確かに騎士団は王都に駐在してるとは聞いてたけど、まさか訓練場まで王都にあるとは。華やかで美しく栄えたイメージのある王都とは裏腹に、此処は鉄と汗が満ちる泥臭い場となっていた。というよりさっきから土埃がすご……ゴホッゴホッ! あぁ喉が悲鳴を上げてらっしゃる。


「少し待っていなさい」


 ミッシェル先生が俺とエリーゼを残して一人訓練場の中へと入っていく。ミッシェル先生が兜を外したイケメン風の男と背の低い女の人と二言三言会話をして果物の入った袋を渡す。

 その様子を俺は歯軋りしながら見ていた。


 おのれ……あのクソイケメン、ミッシェル先生と気安くお喋りしやがって……!


 自分のことを棚上げして他人をなじる、まさに下衆の極みみたいな男がいた。俺だった。


 ミッシェル先生が兜を外したイケメン"風の"男ともう一人の女の人と共に戻って来た。イケメン"風"だからね。イケメンだとは言ってないぞ。俺は何と戦っているのだろうか。


「君がアベル・ベルナルドか。話は聞いてるよ。今年の魔術大会優勝者なんだってね……ふぅ〜ん……」

「な、なんすか?」


 イケメン風の男が値踏みするような視線を向けてくる。何だこいつ失礼な奴だな全く。鼻の穴から水魔法食らわせたろか。


「……ふっ。いや、話以上に華奢な体格だと思ってね。叩けば折れてしまいそうだ」


 嫌味な顔でそう言ってくる男に俺は軽く青筋を立てる。妹にもよく「貧弱」だの「もやし」だの言われているが、あれらは中身にちゃんと愛情が詰まっている(はずの)言葉なので俺は妹の愛情表現の一つだと思っている。

 だがコイツの言葉には悪意が百パーセントだ。端的に言うと凄くムカつく。


「レオル。言葉が過ぎるぞ」

「痛っ!」


 背の低い女性の方が男の後頭部を殴った。


「すまないな。このバカはこういう喋り方しか出来ないんだ。申し遅れた。私はニナ。ここで見習い騎士達の指南役をやっている者だ。そしてこのバカがレオル。王宮で働いていたがここに左遷された哀れな男だ」

「一言余計だッ!」

「あ、どうもアベルです。で、こっちが妹の……」

「エリーゼです」

「よろしくアベルくん。エリーゼちゃん」

「エリーゼちゃん……」


 ニナさんのちゃん付けにエリーゼが微妙な反応を返した。ちゃん付けされたのが珍しく、どう返せばいいのか分からないのだろう。エリーゼは結構クール系に見られることが多いからなぁ。俺に言わせればドライ系だけども。

 それより一つ気になることがある。


「左遷って何やらかしたんです?」

「婚約者のいるご令嬢に手を出そうとした。結果その本人から手痛いしっぺ返しを食らったという訳だ。君達もコイツのことは気軽にバカと呼んで構わないぞ」

「ふざけるなニナ!!」

「分かりました。初めましてバカ」

「ふざけるなァもやし野郎がァ!!」


 バカが顔を真っ赤にして怒ってる。バカじゃなくてレオルか。いやバカでいいな。うん。

 そんなバカをニナさんが拳で黙らせ、話を進める。


「さて、アベルくん。今日は急遽見学という形でここに来てもらったわけだが」

「というより俺自身なぜここにいるのか分かってないんですがね……」

「ああそれは私がミッシェルに君を連れてくるよう頼んだのだ。ミッシェルが推薦する程の人物とはどんなものなのか興味が湧いてね。まあこんなに早く実現するとは想定外だったが……。そんなことよりもだ!」


 ぱん、とニナさんは手を叩いて不敵に笑う。


「見学だけでは君も退屈だろう? なのでどうだろう。ここの見習い騎士達と共に訓練を受けてみるというのは。彼らにも良い刺激になる」

「いえ遠慮します。見学だけで十分っす。はい。いやホントマジで」

「…………ならこうしよう。君が訓練に参加すればミッシェルからご褒美が出るぞ」

「え?」

「やります。」

「え」


 突然槍玉に挙げられたミッシェル先生がぽかんとした表情で驚く。だが今の俺にはそんなことは思考の外に追いやられていた。

 ご褒美。ご褒美か……。何をしてもらおうか。頭をよしよしされるのもいい。その豊満な胸に抱き締められるのも捨て難い。ふふ、胸が踊るな……!


 そして俺はそんなことを考えながら、あれよあれよという間に甲冑を着せられていた。





「ニナ……」

「悪い悪い。怒るなって。まあご褒美っつってもそんな大したもんじゃなくていいだろ。丁度お前が持って来た果物があるんだ。皮でも剥いて食べさせてやれ」

「それではアベルが不憫だろう……」

「大丈夫だって、男は案外そういうので喜ぶもんさ。あぁエリーゼちゃんは見学で構わないからね」

「はい。うちの兄ならそれだけで大喜びでしょう。兄も大概アホが入ってるので」





 俺があっさりと騙されたことを知るのはもう少し後のことである。






「さて、それじゃあ剣術訓練を……」

「ちょっと待てよっ!」

「…………はぁ。なんだレオル。話の腰を折るんじゃない」

「そのアベルとかいうもやし野郎がどれ程のものなのか! 今ここで証明してもらおうか! 俺と手合わせしてな!」

「またバカなことを……」


 俺が甲冑を着るとほぼ動けなくなる為、軽めのローブにして貰った後。訓練場に入るや否やレオルが俺に剣を向けてそう宣言してきた。

 横でニナさんがこめかみに手を当てている。当の俺はというと流れについて行けないので何となく凛々しい表情を保っていた。


「推薦だの魔術大会優勝だの、そんなもの所詮ただの肩書きだと思い知らせてやる! あと俺をバカと言ったことを土下座させてでも謝らせる!!」

「もうその発言がバカだと何故気付かない……?」


 レオルの言葉にニナさんが頭痛がするように眉を顰める。

 いやゴメンってバ……レオル。なんかさっきはそういうノリだったじゃん。ノリに任せてなんかイケるかなって思ったんだよ。あと単純にお前がムカつくからってのもあったけど。


 するとニナさんはふと何かに気付いたように顎に手を当ててぶつぶつと思案し始める。


「(いや……手っ取り早く実力を見るには良い方法ではあるか……一応このバカも本職の騎士ではあるし指標としては悪くないな……)」


 そうしてぱん、と手を叩くと声を張る。


「よし、少し訓練内容を変更し、模擬戦としよう」


 え。本気でやるの?






 妙なことになった。

 訓練場で俺とレオルが相対する。レオルは俺を睨みつけ、俺はなぜ素敵な休日がこうなってしまったのかを足元を見つめながら考えていた。あ、蟻さん。蟻さんや答えてくれよ。

 俺は妹と素敵で美的でハートフルな休日を過ごしたかっただけなのに、なにゆえこんなことになってるんだい?

 蟻さんは答えてはくれなかった。

 はーつっかえ。


「さあ剣を抜けもやし野郎!」

「…………俺は杖メインなんで」

「はっ。大方剣が振れないほどひ弱なことの言い訳だろうが」

「違うし。全然違うし。ちゃんと振れるし」


 片手"剣"なら振れるから嘘は言ってない。嘘は言ってないぞ。


「おーい、始めていいぞー」


 遠くの方からニナさんの合図が聞こえた。あの人が発案して巻き込んできたのに、なんかめっちゃ寛いでるんだが。林檎を齧るんじゃないよ。シャクシャク音が聞こえてきそうなほど豪快に食べるんじゃないよ、腹減ってくるじゃないか。


「……はっ!!」


 俺がニナさんの方を見ていたその隙に、レオルが剣を振りかぶり突進してきたーー!







「ミッシェル。随分と落ち着いて観ているな? レオルはバカだが一応本職の騎士だぞ。心配してやらなくていいのか?」

「ん? そうだな……少し前の私なら止めたかもしれないが……」


 ミッシェルはニナの隣に陣取りながら、今にも斬られそうなアベルを見つめる。

 その瞳には、不安や心配などの感情は存在しなかった。

 ただただ、これからその視界に映るであろう特別な教え子の勇姿を見届けるような、そんな瞳だった。

 それは紛れもなく信頼の証。


「あの子は見た目からは想像も出来ないが、ーーーー強いぞ。」








「『凍結(フリーズ)』」

「ぬおっ!?」


 レオルの鈍重な突進が届く前に、俺は初級氷雪魔法を使い地面の一部分を氷結させる。

 丁度レオルの踏み込みの着地点に張った氷が、面白いようにレオルの足をとり肉体のバランスを崩す。俺は余裕をもって横に二、三歩移動して衝突を避ける。レオルはたたらを踏んでやっと暴走しかけた動きを止めた。


「チィッ!!」


 大きな舌打ちと共に剣を構え直して俺に向き直る。額には青筋を立てている。俺に転ばされそうになったことが癪に触ったらしい。

 仕切り直しとでも言うようにレオルは足を開いて剣を縦に構えた。

 魔力の流れを感じる。恐らく『剣技』を繰り出そうとしているのだろう。カリオストロの『火炎斬』と同様に、魔力を使ってただの鉄の剣に様々な付与効果を込めるものだ。

 まあ、感じられる魔力の量からしてカリオストロのものと比べると雲泥の差ではあるが。


 それにしても、コイツはホントに気付いてないらしい。

 俺は思わず呆れた表情をしてしまう。



(もうお前負けてるんだけどな……)



 ひょい、と俺は右手に持つ杖を振るう。そして予め仕掛けておいた魔法を発動した。


「『連鎖魔法』」


 パシャン、と地面に張られた氷に魔法陣が浮かび上がる。淡い光が消えると同時、薄氷は固体から液体へと状態変化を為す。


 水の量は決して多くはない。

 精々、人一人の頭部を包む(・・・・・・・・・)程度の水量でしかない。だが、一対一の対人戦ではこれで充分だった。


 俺は杖を振り水を操る。レオルの背後から蛇のように忍び寄る水の塊が、遂にレオルの頭部を上から呑み込んだ。


「(ガボボガバガボ!!!???)」


 突如、呼吸が不可能になった緊急事態にレオルの意識はパニックを起こす。構えていた剣すらも落として掴めない水に手を伸ばした。


 このまま凍らせることも可能だけど……流石にそれやったら死んじゃうな……。


 どうやら打開策は見当たらないようで、レオルは苦しそうに踠いていることしか出来ないようだった。混乱した状態で動き回れば足がもつれ地面に伏すのは必定である。

 予想通りレオルは自分で自分の足を踏み抜き受け身も取れず倒れた。


 それを見てから俺はレオルの頭に纏わりつく水の呪縛から解放してやった。


「ぷはぁ! ぜぇ……はぁ……!」

「まだやる?」


 苦しそうに荒い息をつくレオルを見下ろしながら、俺はそう聞いてみた。

 レオルは咳き込み返事もままならないようだ。どうしよ。やり過ぎたか?


「はい。そこまでー」


 間延びした声が耳に届く。

 いつの間にか近くまで来ていたニナさんが試合終了の報せを発し、この無為な戦いは終わる。


「おーい誰かー、コイツの介抱をしてやれー」

「あ、はい!」


 ニナさんは遠目に見ていた見習い騎士達にレオルの世話を任せる。

 そうして改めて俺の方を見てきた。

 だが今回は今までとは毛色が違う。まるで肉食動物が獲物を狩る時のような視線で、俺の頭のてっぺんからつま先までをまじまじと見ていた。

 俺、思わず腕で身体を守るように抱きしめて防御体勢に入る。いや、めっちゃ怖いんですけど。何が怖いって超怖い。


「ほうほう……これは予想以上だ」

「あ、あの、何ですか? そんなに見ないでくれます? セクシャルハラスメントで訴えますよ?」

「……特別な能力があるわけではない。魔力量が格段に多いわけでもなさそうだ。優秀だが平凡の域を出ない。そんな印象。……だが、なかなかどうして、面白い魔法の使い方をする」

「ヒッ」


 ギラギラと輝くその瞳孔に俺は顔を青くする。めっちゃ怖いです。俺の話聞こえてますか? 俺の声届いてますか?

 するとニナさんは目を閉じてから笑みを浮かべる。雰囲気は戻ったようだ。でもその目は怖いままだった。


「ははは! ごめんねぇアベルくん驚かせて! どーにもこう磨けば光りそうなのを見ると血が抑えきれなくなってね!

「あ、そうすか……」

「……ククク、騎士団に入ってくるのを楽しみにしてるよ……。私が骨の髄まで鍛え抜いてやろう。まずは筋肉を付けることからだな!」

「…………」


 バンバンと俺の肩を楽しそうに叩いてくる。痛い。


 あ、どうしよ。もう就職先変更したい。

 教官がバトルジャンキーの脳筋ぽいんですが。あの、スパルタはミッシェル先生で間に合ってるんで、あのホントもうちょい優しめのお姉さんはいませんかね? こう何もかも包み込んでくれる包容力を持ったおっとり系みたいな人は。いやミッシェル先生も優しいとこちゃんとあるんだけど、それはそれでちょっと違うんですよね。


 そんなこと思いながら叩かれているのに身を任せていると。


「……ま、待てっ! この卑怯者が、俺はまだ負けてないぞっ!」


 肩を貸す見習い騎士の制止を振り切り、レオルがずかずかと迫ってきた。

 うわめんどくさ……。


 だがまだやると言うのなら徹底的にやってやろう。そう思い俺が杖を取り出した瞬間だった。



 訓練場の一部の壁が内側から壊されたように崩れ、中から一体のモンスターが顔を出した。


 青い肌色に反り返った二本の角、体長5〜6メートルを超える剛腕剛脚のその生物の名は。


 B級指定モンスター『ギガントオーガ』。


遅筆なもので申し訳ないです。

読んでくれてありがとうね。

行き当たりばったりで書いてるから何故俺自身こんなに同じサブタイを連番で投稿してるのか分からないけど……。

まあいいか!

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