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魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。【連載版】  作者: マルゲリータ
第一章 魔術学校編
22/39

魔法使いです。体が超痛えです。

 

 痛い。めっちゃ痛い。


 目を覚ますと、知らない天井……ではなく普通に医務室に居ました。辺りは薄暗い橙色に染まり、もう夕暮れとなっているのが分かる。

 俺は正確な時間を確認しようと時計を見ようとすると。


「おぁぁ痛い痛い痛い!」


 ちょっと首を動かしただけで体中が悲鳴を上げた。この感触からして手も足も体中包帯でグルグル巻きにされてる。さながらミイラ男のようだ。


「あ、起きた……!」


 腹の方からほっとしたような声が聞こえる。声の主を見ようと俺は首を動かし……痛いわ。無理だわ。

 すると横にいた人が手を出し、俺が上体を起こすのを手伝ってくれた。横を見てみればいつもと変わらない麗しき無表情のミッシェル先生がめっちゃ間近に……いや近い近い近い! 寝起きにこんなご褒美とかちょっと嬉しいっちゃ嬉しいんですけど気恥ずかしいというか何というか、あ、でも体中痛いから顔を逸らすことも出来ないや。これはご褒美かそれとも新手の拷問か。誰か、助けなくていいから助けてくれ。意味不明だわ。


 そんなこと考えてたらミッシェル先生が俺の体を起こしてベッドの壁に寄りかからせてくれた。ご丁寧に背中の方に枕を置いてクッションにしてくれてる。優しみを感じる。


「あ、ありがとうございます先生」

「ん。礼には及ばない」


 俺が礼を言うとミッシェル先生は何事も無かったかのように離れる。柔らかさと温もりが去っていった。ちょっと寂しい。あと顔がすごく熱いんですけど。多分俺の顔は今林檎と勝負できるくらいには真っ赤になっていると思う。けど、ミッシェル先生、相変わらず無表情。悲しみを感じる。


「そのニヤケ顔やめてくんないかなアホ兄貴」

「ああ居たのエリーゼ。……てか今アホって言った?」

「言ってないよバカ兄貴」

「おいランクが上がったぞ」


 ベッドの横にある椅子に座りながらこちらをジト目で見てくる我が妹のエリーゼ。

 あれ、さっきそこら辺から心配事が解消されてほっとした時のような声が聞こえた気がするんだけど。その声の主ってお前じゃないのん? 全然心配してたような雰囲気じゃないんだけど。トゲトゲしさしか感じないんだけど。


「貴様が倒れて医務室に運ばれた後、エリーゼはすぐに駆けつけてくれたのだ。大事にされているなアベル」

「な、ちょっ、先生!」

「どうしたエリーゼ?」


 ミッシェル先生の言葉にあたふたと慌てる妹。ミッシェル先生はその様子を不思議そうに見る。


「貴様の試合を観客席で観ていたのだろう。私が来るよりも先に医務室に……」

「…………観てないです」

「……? 急いで見舞いに来たのだろう? 息も切れていたし……」

「……私はたまたま医務室の前を通り掛かっただけです。息が切れていたのはたまたまその前にちょっとその辺で運動をしていただけです。そもそも私は兄の試合の観戦なんてしていないです」

「……?」


 エリーゼが左手で髪先をくるくる回しながら先生の言葉を否定する。ミッシェル先生はその様子を先ほどより増して不思議そうに首を傾げていた。

 妹よ、流石にその嘘は無理があるぞ。そしてその髪くるくる、お前は無意識かもしれんがそれお前が嘘ついてる時にする仕草だってお兄ちゃん知ってるからね。


 ふふ、全く可愛い奴め。


 俺はそんな可愛い妹を抱き締めるため両手を広げた。痛かったけど。

 妹もそれに応えるように俺に近付き抱擁を……!


「そういえば……」

「おふう!?」


 することはなく、ちょん、と俺の腹を人差し指で軽くつついてきた。普段なら別に何ともないその攻撃も、ミイラ男となった今の俺には効果抜群。威力絶大。俺は痛みに悶絶した。え、ていうか何で!? 何でつつくの!? 今の場面って全てを理解した俺に遂に妹が心の扉を開いて抱き合う心温まるイベントじゃなかったの!? 何で俺悶絶してんの!? 痛い……体よりも心が痛い……。


「な、何で? 何でこんなことするのエリーゼちゃん……!」

「オイバカ兄貴。私に嘘ついたな?」

「は? 嘘? 何のこと?」


 俺の涙の訴えを聞き流して妹がよく分からないことを言ってくる。

 何を言ってるんだ妹よ。俺はお前に嘘なんてついたこと……うーん心当たりが一杯あって絞り込めない。あ、もしかして。


「……俺が二日前くらいにお前の保管してた限定プリン食べちゃったけど誤魔化してうやむやにしたことか?」

「ふーん……あれやっぱり兄ちゃんだったんだ……」


 あ、やべ。自爆した。

 余罪が一つ増えて焦る俺。エリーゼはそんな俺をジト目で見ながら言う。


「特待生。退学。ベスト16」


 …………。

 単語のみで追及してくる妹の視線から逃れるように、俺はミッシェル先生の方を見る。先生は珍しく目線を横に流して謝った。


「すまないアベル。もう話しているものだとばかり……」


 成る程。先生が口を滑らせたのですか。いやまあ、言ってなかった俺が悪いんだけどね。


 尚もジト目で見てくる妹に俺はどう答えたものかと目線を泳がせる。

 いや、だってほら、結構ヘビーな話じゃん? 退学とかお金とか色々と。だからその進んで報告する必要はないかなーと、心配を掛けたくない兄心と言いますかあの……。


 そんな俺を見て、エリーゼは。

 一瞬だけ悲しそうに目を伏せて言葉を漏らした。



「……なんで言ってくれないんだし……家族じゃん」

「…………」



 俺はそんな妹を見て言葉を発するより先に手を動かし、妹の頭に触れた。

 痛みは少しあったが、そんなもの気にならなかった。


「ごめん」

「……許さない。アホ。バカ」


 エリーゼは憮然とした表情になり目を逸らす。けれど、俺の手を払いのけようとはしなかった。


 俺は困ったように笑って、何とか妹から許しを得ようと言葉を重ねる。


「ごめんな」

「許さない」

「……もう隠しごとも嘘もしない」

「ダメ」

「……限定プリンとシュークリーム奢るから」

「もう一声」

「……ちょい」


 しれっと要求を上乗せする妹についつい突っ込みを入れてしまう。……でもまあ、俺が悪いし。要求を呑むしかないかな。それで妹の機嫌が戻るのなら安いものだ。


 俺と妹のそんなやり取りをミッシェル先生は静かに見守ってくれていた。


 すると医務室の扉が開き、女性の教師が入ってくる。


「失礼します! ラングフォード先生は……あ、まだこちらに居たのですね! 緊急の会議を開くそうです。至急職員会議室まで来てください」

「マルティネス先生……分かりました、今行きます」


 ミッシェル先生が返事をして扉に向かう。よく見れば、マルティネス先生と呼ばれたその女性教師は決勝戦で立会いをしていた教師だった。


「あ、ベルナルド君! 意識が戻ったんですね、よかったぁ……。怪我の方は如何です?」

「あ、まだちょっと痛いです。はい」

「まだ完治はしてないようですね。後で治癒魔法の先生を呼んで来ますから。安静にしてて下さい」


 マルティネス先生がこちらに気付き俺の心配をしてくる。やさし。惚れそう。いや惚れないけど。多分。


「……アベル」

「はい? 何ですかミッシェル先生」

「後の事は心配するな」

「……? はい……?」

「それと、全てが終わったら。今回の事について洗いざらい教えて貰うからな」

「…………はい」


 ミッシェル先生はそう言ってマルティネス先生と連れ立って医務室から退出する。そういえば先生にも説明しないといけないのか。あぁ胃が痛くなってきた。治癒魔法を、治癒魔法を下さい。

 夕暮れが照らす医務室には俺と妹が残った。妹は右手で俺の手を軽く払いのける。


「何であんな無茶したの?」

「……ん?」

「ミッシェル先生から聞いたんだけど。……素手で魔法使ってくる相手に正面から突っ込むとかさ。バカじゃないの?」


 ミッシェル先生から聞いたらしい俺の試合について、エリーゼは御もっともなことを言ってくる。


「ああ〜まあ、バカと言われても仕方ないな確かに」

「何か理由があるんでしょ?」

「……うーん」

「さっきの自分の発言をもう忘れるとか……一回頭に雷魔法撃ってあげようか? ちょっとは頭も冴えるんじゃない?」

「ちょタンマ! 分かってるって。隠しごとは無しだよな……」


 杖をひょいと持って物騒なことを言い放つ妹に俺は降参して、個人を特定出来そうな情報は隠しながらも事の顛末を話した。

 シモンズの悪行に関してはノンフィクションでお送りしたけどね。別にアイツの事はどうでもいいし。あ、でもあの亜麻色の髪の女の子の名前を俺知らねーや。


 そんなことを考えながら掻い摘んで全てを話し終える。それを聞いてエリーゼは一言。


「……レイ(そいつ)試合でぶっ飛ばせば良かったのに。何甘っちょろい事してんの?」

「えぇー……」


 妹が凄く過激な事を言ってきた。


「いやほら、俺もそいつは許せないってゆーか、殴ろうと最初は思ってたけどさ……一応俺は男で相手は女だし?」

「……は?」

「あとそんな事したらミッシェル先生がちょっと悲しむかなーとか思ったし……」

「……ふーん」

「……ついでに、そこまでやると後で報復とか怖かったし……」

「それが本音でしょ。このヘタレもやし。あんだけ啖呵切っといて、手遅れに決まってんじゃん」

「ぐ……」


 俺、兄からもやしになっちゃった。ほげー。

 妹のズバズバと斬れ味の良い言葉に切り裂かれ、俺は何も言えなくなってしまう。


「まあそのあれだ。手遅れだろうけど、責任は全部俺が受け持つから。もしもの時はお前は母さん連れて逃げるんだぞ」

「は? なに兄の分際で妹に指図してんの?」


 ……あれぇ? 兄妹のヒエラルキーって『兄>妹』じゃないの……? いつの間にか『兄<妹』になっちゃってるんですけど。兄妹関係が逆転してしまっているんですけど。


 俺の渾身の自己犠牲マインドを叩き割って捨てると、妹は椅子から立ち上がり横に置いてあった荷物を持って扉に向かった。


「エリーゼ……」

「うるさい。兄ちゃんの指図なんて絶対受けないから」


 俺の言葉を遮って妹は乱暴に扉を開ける。頑固モードになった妹には何を言ったって無駄なことを知っていた俺は、一つ溜め息をついて頬を掻く。


 俺は説得を諦めて妹から視線を外す。

 そして、俺のベッドの隣にある棚の上にある花瓶に入った花に気付く。数本の綺麗な色とりどりの花々は花瓶に飾られてからそう時間は経っていないようで、未だ瑞々しさを保っていた。これは医務室に常備してある物じゃない筈。きっと誰かが飾ってくれたのだろう。


 説得は出来なかったが、せめてお礼だけでも言っておこうと俺は妹の背中に言葉をかけた。


「この花。ありがとな」

「…………」


 妹はピタリと動きを止める。そして、呆れたような溜め息をついた。

 え? なんで?


「……あれ? これエリーゼが飾ってくれたんじゃないのか?」

「飾ったのは私だけど。持って来てくれたのは私じゃないよ」

「ああミッシェル先生だったのか……」


 俺が納得しそうになると、妹はまた溜め息をつく。そんな溜め息つくと幸せが蜘蛛の子散らして逃げてっちゃうぞ? いいの? 大丈夫?


「……ルーナさん」

「ん?」

「その花を持って来てくれたのは、ルーナさんっていう女の人だから。ちゃんと覚えときなよ」

「……誰だ?」


 知らないな。そもそも女の子に知り合いなんて殆ど居ないけども。少ない頭の引き出しを必死に探すものの、その名前に該当する女性は見つからなかった。


「はぁ……バカ。私はちゃんと教えたからね。覚えてなよ」

「……? お、おう。わかった」


 何故罵倒されたのか分からないが、とにかく分かったと言っておこう。

 じゃあね、と妹は素っ気ない別れの言葉を最後に医務室を出て行ってしまう。


 俺は疑問を抱えたまま、一人医務室に残される。

 まあ分からないものを考えても仕方ないか。治癒魔法の先生が来るまで俺は一休みしようと、ベッドに横たわる。



 そう言えば、ミッシェル先生が俺の名前を『ベルナルド』ではなく『アベル』と呼んでくれていたのを思い出した。


 ベルナルドだと、エリーゼか俺か分からなくなるからそう呼んだのだろう。


 俺はそう結論付けて、静かに目を閉じた。


シリアルを食べて食レポする話の筈がこうなりました。コレガワカラナイ。

今回でフラグが立ったかな? 立ってなくても俺は気にしません。冗談です。


前話では様々な感想を頂きました。賛否何方もありがたい意見です。有難うございます。

一番響いたのは、『ちょっと雑で分かりにくい』という意見でした。説明不足、描写不足、考え足らずですみません……。精進いたします。


あと余談ですが、私数日前より風邪を引いてしまいましてね。今は治ったんですがね。それで更新が遅れてしまいました。ごめんね。

おのれ冬将軍。

皆様も体調には気を付けて下さい。


話が長くなりましたが纏めますと。


皆、みかんを食べよう。

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