魔法使いです。初手は土下座安定です。
連載ってこんな感じでいいんですかね…(小声)
昼休み。ミッシェル先生にお呼び出しを食らいました。
ふむ、やはり初手は土下座で決まりかな。
でも、何を謝ればいいのだろう?先生のおっぱいのこと考えてスミマセン?おかしくない?それで罪に問われちゃったら世の男子はどう生き延びればいいのさ。
疑わしきは罰せず。これ常識。だからね女の子や。例え俺の視線が下にズレようともね、うわキモみたいな視線を向けないで。
はー!?ちげーし貴女のネックレス綺麗だなーって思っただけだしー。どこのブランドもんか気になっただけだしー!服飾関係的興味しか持ってねーしー!
はいごめんなさいお巡りさん。白状します。
おっぱいが、見たかったんです。
そんな俺の覚悟の自白も甲斐無く独居房へボッシュート。どいひー。
なるほど。土下座をしなければこんな悲しい未来が待っているのね。ありがとう、未来の俺。俺、頑張って地に足つけて真っ当に生きて土下座するよ。
はい終点ー終点ー。地獄の入り口に到着ー。またの名を職員室の扉。足が震えてきやがったぜ。武者震いってやつだな。ぶるぶる。帰りてえ。
戸に手をかけ扉を開ける。ゴートゥーヘール。
「ん。随分早いな。こっちだベルナルド」
「うっす」
鬼教官が手招きしておる。こっえ。
足は笑ってるが俺の顔は引きつってる。ミッシェル先生は相変わらず無表情。けれどそんな貴女も麗しい。
椅子に足を組みながら座っておられる。いやー絵になるねー。
「座りなさい」
あ、はい。座りますね。俺は正座で。
「……ベルナルド。なぜ地べたに座るんだ?」
「? 先生が座れと仰ったので」
「……そこに椅子があるだろう……」
「何と慈悲深い」
「貴様は成績は優秀なのだが……やはりどこか変わっているな」
ミッシェル先生がちょっと眉を顰めながら額に手を当てている。おお無表情以外の顔を見れるなんてラッキーだぞ。星座占いで四位が出るくらいの。微妙。
さて椅子に座ろう。おーフッカフカ。教室の木製のやつとは大違いだわ。俺にもこれくれ。予算の関係で無理です。世知辛えなあ。
はっ!しまった、椅子に座ってしまったらいざという時即座に土下座対応が出来ない!すまない未来の俺よ。非力な今の俺を許せ。独居房の中でも楽しく暮らそう。お巡りさん独居房ってトランプ持ち込みオッケーですか?あ、ダメ。そりゃそうだわ。仕方ない。妹に毎日手紙でも書くか。
「さて、ベルナルド。あと少しで『王国大輪祭』があるのは知ってるな?」
「……ああ、毎年やってるお祭りですか。もうそんな時期ですね」
『王国大輪祭』
王都で毎年一度開かれるこの国最大規模のお祭りだ。確か元は勇者が魔王を打ち倒して平和を取り戻しました記念日をお祝いするのが主旨だったらしいけど。今は完全に形骸化しちゃってるね。皆はっちゃけたいだけだね。
もうね、街中が活気とやる気に満ち溢れてて俺としては居心地悪いのなんのって。なんかよくわからん垂れ幕が街のそこかしこにぶら下がってるし、夜になると酔い潰れたおっさん達が騒いでるし、お盛んな若い男女が熱気に当てられてピンクムードになったりするしな。右を向けばリア充。左を向いてもリア充。燃やしたろか。
しかも何で一週間もやるんだよ。そんな余裕あるんならお金をこっちに回してください。木製じゃなくフカフカ素材の椅子に座りたい。頼むわ王様。遠くからしか見たことないけど、お前の頭の上に乗っかってんのズラだってバレてるからな。
何よりその一週間、妹と全然コミュニケーションできないのが辛い。まじつらたん。
妹よ。どうして兄よりも友達を優先するんだい?兄妹の絆はそんな薄っぺらいものだったのか!?答えてみろ妹!
一週間くらい兄ちゃんの相手休ませてよって?あ、はい。ごめんね。いつも愚兄がお世話になっております。ごゆるりとー。はあ、兄ちゃん寂しい。
「それで、そのお祭りがどうかしましたか?」
「いや祝祭自体とは余り関係はないがな。今日は祝祭と同時期に開催される魔術大会のことで話がある」
「ありましたねそんなのも」
魔術大会。
王国魔術学校が主催する一大イベント。まあ早い話が魔法使いの卵たちによるバトルトーナメントだ。子ども大人問わず結構人気らしい。まあ派手だしね。あとは若い者たちが頑張ってるってのがポイント高いんだろうね。
「あれ?でもあれって生徒は自由参加だった筈ですけど……」
「ああその通りだ。今年もそれは変わり無い」
自由参加。んーいい響き。いいねー気楽に見れるし抜けれるし。衆人環視の中でせっせと魔法撃つとかホント勘弁してくれ。目立ちたくないんだよ俺は。表では実力を隠し、陰で暗躍する俺、まさにアサシン。キリッ。
いや普通に上がり症なだけだけどね。さながら土に潜るモグラくんの如く小心者です。大会開くなら会場は下水道にしようぜ。ドブネズミが観客なら俺も頑張れる気がする。ドブネズミの皆見ててくれ!俺がばったばったとイケメンをぶっ倒すところを!チューチュー頑張れビビりアベルー。地味顔ー。陰キャー。ドブネズミの皆口悪くない?
「ただ今年は状況が違うんだよ。特にベルナルド、貴様のな」
「え、俺ですか」
え、何怖い。やめてよミッシェル先生。そんな氷のような瞳で俺を見ないで。変な扉開いちゃう。ドブネズミの皆ー俺に勇気と力とついでに現金を分けてくれー。よしドブネズミの力を分け与えられた俺に恐れるものは何もない。さあ来いよミッシェル先生!魔法なんか捨ててかかってこい!
「貴様は大会で結果を残さないと、退学になる」
「 」
ほげー。
何故?なにゆえ?それがしが何か仕出かしたでしょうか。心当たりが……ないとは言えない。
「貴様は毎年不参加のようだな。理由は何故だ?」
「あ、いやー。ちょっとこの時期はいつも体調が優れなくて……」
「私の目を見て言ってみろ」
ヒィ!怖いー。ドブネズミーまた俺に力をー、あ、皆下水道に帰りやがった。薄情者め。
おぉぉなんか変な汗出てきた。ミッシェル先生の凍てつく波動だ!効果:俺が死ぬ。チーン。
「ふぅ」
ミッシェル先生が一つ息を吐いた。するとミッシェル先生の目から鋭さが消える。いや消えてねーや。ちょっと弱くなっただけだわ。鬼教官から小鬼教官くらいの微妙な変化。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「ベルナルド。お前が平民出身なのは知っている。お前が魔術学校に通うことが出来たのはお前が勉学の面でも魔法の面でも成績上位を保ち"特待生"となったからだ。六年間も。それは偏に大切な家族に負担をかけないように、だろう?」
「……」
「お前が少し変わっていることは知っているが、私はその上でお前のそういう部分を高く評価している。だが平民出身だからという色眼鏡で見る教師も少なくないのが現実だ。魔法実技で結果が出ていないお前は特待生制度から除外される可能性がある」
ミッシェル先生が普段とは全く違う、優しげな声で俺のことを称賛してくれている。
ミッシェル先生は目を閉じ咳払いを一つする。
目を開けると、いつものような氷のような無表情に戻ったけど。
「詰まる所、私は貴様が退学するなどという事態を到底許容することなど出来ない。これは私のためであり、勿論貴様のためでもある。貴様にとって魔術学校最後の年、その魔術大会で、勝て。ボーダーラインはベスト16だ」
「ご、五千人中の、ベスト16って本気で言ってます……?」
「ああ」
おおいキツイことを軽く頷くんじゃない鬼教官。
まあ、でも。
「ベスト16まで行けば、魔法実技の面でも貴様の優秀さは証明される。公式記録としてだ。誰も覆すことなど出来ない。もし平民出身だからなどという戯けた事を言う輩が居たとしても、心配するな。その時は私が黙らせる」
見てくれていた人が居るってのは、ちょっと嬉しいね。ちょっとだけね。
仕方ない。上がり症だの何だの言ってる場合じゃないな。退学も懸かってるし。頑張りますか。
「でもーー」
「ん?何だ」
「あ、いや。何でもないっす」
でも、ミッシェル先生。一つ勘違いしてるぜ。
俺が特待生になったのは。それはね。
女の子にモテると思ったからなんだ。
……やべー。流石にこの雰囲気でカミングアウトは出来ねーなあ。
勉強したのも魔法の練習したのも、モテたい、っていう。ただそれだけだったんだけど……。いや確かに俺が特待生になったことで負担が軽くなったのは事実だし、特待生じゃなくなると金の無い平民一家的に俺が学校通えなくなるってのも事実だけども。
うーん。まあいいか!なんかイイ話に収まりそうだし!家族のために頑張ってたってことにしておこう!うん、それがいい。この世には優しい嘘ってのもあるんだってさ!今知った。
いや実際のところこんなに俺のこと褒めてくれた人にNOと言えるほど俺は肝が据わってない。ましてや相手は鬼教官だ。
『実はモテるためだったんすよ〜勘違い乙〜☆』。うん、絶対零度の視線を喰らう未来しか見えない。やめとこ。のらりくらりと世間を渡るのだ俺。渡る世間は鬼ばかり。鬼の背中に隠れながら生きていくのが俺。またの名をネズミ小僧。チューチュー。
「……了解ですミッシェル先生。じゃ俺昼飯まだなんでこれで失礼しますね!」
俺はちょろーと目を逸らしつつ、声だけは男前(自己採点)にYESと言うぜ。イエスマム!
よし話は終わったみたいだ。さあ購買部へと行こうボロが出る前に。スタコラサッサと地獄から帰還しよう。
「その言葉が聞きたかった。それでは明日の放課後、第二屋外訓練場に来るように」
はい、仰せのままにミッシェル様。明日ね。
ん? 明日?どういうこと?
「え。どういうことですか先生」
「決まってるだろう。魔法実技の特訓だ。私特製メニューのな」
いやんミッシェル先生強引ー。
え、マジで?
次回予告
ミッシェル先生、ムチムチボディで無知なアベルくんを鞭で叩く。の巻
ご期待ください。でも過剰な期待はおやめ下さい。プレッシャーに弱え筆者。読んでくれてありがとございます!