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魔法使いです。勇者のパーティを抜けたいです。【連載版】  作者: マルゲリータ
第一章 魔術学校編
18/39

魔法使いです。相手は怪物です。

興が乗った私、自分でもよく分からず連続投稿。

何だか皆さんが「オイオイオイ」「弱いわコイツ(対戦相手)」「ほう、パンダ三兄弟ですか。大したもの(じゃない)ですね」と言うので。

ーー強い奴、持ってきました。

 

 王国大輪祭 四日目。


 五回戦、六回戦とパン……パン……パンダミンだっけ? の三兄弟とぶつかった。


 結果は完勝だった。圧勝でも楽勝でもなく完勝。想像以上に弱くてね。ライアンやカイトくんの方が強かったぞ。何故あんな奴らがここまで勝ち残れたのだろうと不思議に思う。まあそれがトーナメントの妙ってやつなのかね。


 次の試合に勝てばベスト16入りだ。先生との約束も果たせるし、特待生として学校に居残ることが出来る。やったりますよ。来いよ次の対戦相手! まあどうせ次もあれだろ? モンダミン君とかそんな感じの名前の雑魚なんでしょ? いやーホントもう楽勝過ぎて欠伸が出ちまうっての。


 次の対戦相手が決まり、俺は張り出されたトーナメント表を見る。

 七回戦目の相手の名前を見て、俺は白目になって立ち尽くしていた。





 明くる日。王国大輪祭 五日目。


「ううううううう……」


 俺は超逃げ出したかった。

 逃げたい……けど先生との約束が……とそんな葛藤に苛まれ、魔術学校への道程を歩きながら呻き声を上げる。はたから見ればかなりの不審者。いやまあ日常的に不審がられてるからそんな変わらないけどね。


 どうして。よりによってどうして奴と当たってしまうんだ……。というよりどうして奴が今年は大会に参加してるんだ……。


 次戦の相手。ベスト16を決める大事な戦い。勝つか負けるかでまさに天国か地獄。そんな状況で。


 学校に殆ど知り合いも友人も居ない俺だが、そいつの名前は知っていた。というより現在魔術学校に在籍している生徒でそいつの名前を知らない者など居ないくらいの有名人だ。


 そいつの名は。


「カリオストロ・ブレイディア……」

「ーー私の名を呼んだか?」

「ッ!?」


 俺の呟きに背後から声がかかる。低く渋い、熊の呻き声のような低音声。ここは闘技場ではないというのに、俺の身体は必要以上に反応し、右手が無意識の内に腰の杖に伸びていた。


「……穏やかじゃないな……杖を仕舞ってくれないか。試合が始まれば思う存分楽しめるだろう?」


 極めて紳士的に俺を嗜める男。そう言う奴も腰の剣に手をかけていたけどな。


「……悪かったよ。でも後ろから声をかけるのはやめてくれブレイディアさん。心臓に悪い」

「その台詞を言われるのは何百回目だろうな。私のする事なす事全て他人を驚かせてしまうようでね。以前は麺を啜る音で女の子を泣かせてしまったこともある」


 そりゃそうだろ、と俺は思ってしまう。悪気は無いんだろうが、逆にそこが(たち)が悪い。俺が杖から手を離すとカリオストロも剣を握る手を元に戻した。張り詰められた空気が僅かに緩んだ。


 筋骨隆々、熊のように大きな身体に、スキンヘッドの頭、頬には何かの裂傷跡、眉間に皺を寄せ、恐ろしいほど鋭い眼光。

 お前本当に俺と同じ18歳かよ。12年留年とかしてんじゃねえの? って言いたくなるくらい歴戦の兵士感のある顔面だ。


 魔術学校剣術部主将。

 カリオストロ・ブレイディア。

 兄、父、祖父、曽祖父に至るまで、一家全員が騎士団に入団しているというまさにサラブレッド。その中でも、カリオストロは群を抜いた天才児だった。


 王国で開かれる剣術大会、本職の騎士や冒険者達も参加する剣の一番を決める大会で、カリオストロは齢16にして優勝を果たした。歴代最年少記録を塗り替えたのだ。それまでの記録が28歳だったことを考えると、その異常さが分かると思う。


 彼は去年魔術大会には出ていない。それはなぜか。祭りを楽しんでいた? いいや違う。そんな凡庸な理由などではない。


 カリオストロは学生の身でありながらブレイディア家当主が指揮する騎士団と共にドラゴン退治の任務に出ていたのだ。


 炎を操ることを得意とし、ドラゴンの鱗を焼き一太刀浴びせたことから付けられた異名が

 ーー『火炎の竜斬り』。


 万人が認める、魔術学校最強の剣士だ。


「………? あぁそうか。君がアベル君か」

「え、今まで気付いてなかったの?」

「すまん。写真は見せてもらったんだが、なにぶん人の顔を覚えるのが苦手でね」


 何だ俺の顔が地味だって言いたいのかこの野郎。ふざけやがって俺なんかお前の顔は一瞬で覚えたんだかんな。多分、本能が危険信号を発したんだろうね。この顔に出逢ったらダッシュで逃げろってことだと思う。うんだったらその信号は大正解です。普通に目の前に立ってるだけで俺の足は産まれたての子鹿みたいになってるから。


「教師の一人に頼まれたのだ。君を倒すようにね」

「……! それを、受けたんすか?」

「愚問だな。私は剣士として、そしていずれ騎士に成る者として、そのような卑劣な誘いに乗ってはならないのだ。"剣は何処までも高潔に"ブレイディア家の家訓だ」


 うおおお超安心した。こんな人が本気で倒しに来たらいよいよ俺は家に引きこもってたね。もう勝ち負けの世界じゃなくて、デッドオアアライブの世界になっちゃうからね。


 お、てことは頼めばワンチャン勝ちを譲ってくれるんじゃないかな。何か話してみると意外と誠実そうな人だし、俺の事情を話せば頷いてくれるんじゃ……?

 そう思っていると。


「だがしかしッッ!!」

「ヒィ!?」


 カリオストロは突然声を張り上げる。すっげ、声だけで鳥が慌てて木から逃げてったよ。俺も逃げ出したいよ。泣きそ。


「君には少し因縁、というより個人的な事情があってね。悪いが全力でやらせてもらう」

「……えぇえ。あ、もしかしてカイトくんに飛び蹴りしたことです?」


 そういえばカイトくん剣術部所属だった気がする。カリオストロにとっては同じ部の仲間である彼をあろうことか俺、飛行魔法からの飛び蹴りかましちゃったからね。怒ってても無理はないよな。これだけは使わずに済ませたかったんだがな……。仕方ないアレをやるしかない。

 伝家の宝刀、土下座だ。


「いいや、彼は関係無い。闘いの場においてそれが卑怯なモノでない限りは、何をしたって責められる謂れはない。君達は正々堂々と戦いそして勝敗が決した。それだけのことだ」

「あぁそうなの? え、てことはどういうこと?」

「言ったろう。個人的な事情だと」


 そしてカリオストロは懐から何かを取り出し、俺に見せてくる。

 見覚えのある、その四角い物体を。






 ミッシェル・K・ラングフォード

 非公式ファンクラブ会員証 現会長

 No.1 カリオストロ・ブレイディア






「君はミッシェル先生と仲が良いそうじゃないか」

「アンタが会長かよ!」


 俺が思わず突っ込みを入れるも、カリオストロは特に気にした様子もなく会員証を大事に懐に戻す。

 というか結構衝撃の事実なんですけど。魔術学校最強の剣士が先生のファンクラブ現会長とか、お前それ親御さん知ってんの?


「アンタ、さっきは剣は高潔にとか何とか言ってたじゃないか……」

「卑怯な手を使っている訳ではないからな。問題無い」

「剣を振るう心が薄汚れてんよ……」

「何を言うか。人を想う心に貴賎は無い」


 言ってることは格好良いのに、どうにも会員証が頭をチラついて素直に賞賛出来ない。


「ふ、と言っても、私は別に君を恨めしく思っている訳ではないのだ」

「……え、そうなの? カイトくんはキモいくらい俺のこと怨んでたけど」

「彼と一緒にしないで貰いたい。私は唯、確認したいだけだ」


 カリオストロが俺を真っ直ぐに見据える。眼光だけで兎を殺せるのではないかと思えるような視線を受け、俺は恐怖で固まってしまう。


「ミッシェル先生と手合わせしたのは15歳の頃、私が三年生の時だ。ミッシェル先生は当時20歳、新人教師として学校に居た。当時はまだミッシェル先生の実習訓練があり私は剣術指導とはどんなものかと思い、参加してみた。初めてだった。私が剣の勝負で引き分けた(・・・・・)のは」


 カリオストロは昔を思い出すように視線を遠くに遣る。俺はカリオストロの口から出る言葉を黙って聞いていた。


「私が手合わせしてきた剣士の中で、誰よりも強く、美しかった。ミッシェル先生を超えることが私の目標の一つになったほどに。……だから確認したい」


 ビリビリと空気が揺れるような錯覚に陥る。『火炎の竜斬り』など、よく言ったものだ。コイツ自身が竜のようなものじゃないか。



「そのミッシェル先生が鍛え上げた男の力量を。君はどれだけ強いのか。とくと私に見せてくれ」









 俺は控え室で手で顔を覆い、椅子に座り込んでいた。

 何度イメージしても、奴に勝てるビジョンが思い浮かばない。加えて俺の防具は戦闘用とはいえたかがローブ。一歩間違えれば、奴の剣が俺を切り裂くかもしれない。

 気付けば、手が震えていた。いや体全体が震えていた。


「ベルナルド」


 ミッシェル先生の声が聞こえた。俺は指の隙間から先生を垣間見る。


「行けるか?」

「…………………気持ち的には、無理です」


 座り込む俺に目線を合わせるようにミッシェル先生が膝を折る。またこの人は無防備な。いやまあここには二人しか居ないし、今余計なことを考えるほど心に余裕はないけれども。

 俺の震える肩をそっと掴んでくれる。


「ミッシェル先生。嘘でもいいです。『大丈夫だ』って、『勝てる』って言ってくれませんか?」


 それだけでいい。

 それだけで、俺は奮い立てる気がする。

 心も体も弱い俺には誰かの声が必要だった。


「私は嘘が苦手だ。だから本心を言う」


 先生の凛とした優しげな声が鼓膜を通じて俺の頭に浸透する。


「私は貴様がブレイディアより劣っているとは思わない。私は貴様が勝つと信じている」


 俺の情けない"願い"に、"応え"をくれた。

 なればこそ、俺のこれからする行動は一つしかない。


「だがベルナルド、貴様が辛いと言うのならーー」

「いえ。行けます」


 俺は杖を持ち、ローブを羽織り、立ち上がった。







「来たか」

「……ああ」


 カリオストロは騎士団の鎧を着て、大剣を背負っている。見るからに重装備。生半可な攻撃では傷一つ付けられないだろう。


 対して俺は、戦闘用のローブに腰に差した魔法の杖のみという軽装備。片手剣は控え室に置いて来た。あんなものがあった所でお荷物になるだけだ。剣のスペシャリストが相手なら尚更のこと。


 今ある武器で。俺がこれまで培ってきた力で。闘うしかない。


『Bブロック七回戦、カリオストロ選手対アベル選手の試合を始めます!両者互いに、礼!』

「押忍!」

「……お願いします」


 立会いの教師に命じられ俺とカリオストロは互いに頭を下げる。


 これから闘う相手は、剣の天才であり、竜をも斬る怪物。

 前までの俺なら、ここには立っていないだろう。嫌なことから逃げ出してベッドに寝転がっていただろう。


 だけど。



『試合、開始!』



 例え、どんな怪物が相手だろうと立ち向かわなくてはならない。



 信じていると言われたのならーー。



「負けられねぇんだよ!!」



 俺は全力を尽くして、それに応えたい。


 俺は魔法を唱え、カリオストロは大剣に火を灯す。


 戦いの火蓋は切って落とされた。


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