魔法使いです。よく吠える犬って間近だと凄く怖いです。
感想欄にて沢山の方々がアドバイスを下さいました。ホントにありがとうございます。
コメディで行くか恋愛で行くかバトルで行くか、はたまた宇宙へ行き銀河大戦をおっぱじめるか。
高木さんを読みながら熟考した末、私決めました。
やりたいようにやります!╰(´︶`)╯
プロットのあんまりない作品ですが、見守って頂ければ幸いです。
次の試合を入れてあと四回勝てばベスト16入りというところまで迫ってきた。
最初はベスト16とか無理無理とか思っていたが、何とかなるもんだね。やはり俺ってば天才なんじゃ……? 違うね。大体ミッシェル先生の特訓のお陰だね。ありがとう先生。俺のこの魔法は宝物です。でもあの地獄の二週間は先生のパンツ映像のみ残して消去したい。
「試合前にお出かけとは、随分と余裕じゃあないか……平民出身のアベルさんよ」
俺が控え室に戻ろうとすると、扉の前に知らない男がいた。邪魔なんでどいてくれませんかね? ていうかなんで扉に寄りかかって腕組んでるの?
「……誰?」
「僕は君の次の対戦相手。かの有名な貴族、パンジャミン家の三男、アカサ・パンジャミンだ。平民出身とはいえ君も名前くらい知っているだろう?」
「いや全然」
「え」
俺が首を振るとアカサくんは呆けたような声を上げる。パンジャミン……知らないな。パンみたいで美味しそうな感じはするけど。てかお前下級生だろ、敬語使えやパンみたいな名前しやがって。一つ言っておくと俺は米派だ。
「で、そのパンダマン様が何用で?」
「パンジャミンだ!誰が白黒動物だ貴様磔にするぞ!!」
「失礼噛みました」
「ぐ……平民風情が……ッ」
マズイマズイ。相手はお貴族様だ。俺みたいな平民が無礼なんて働こうものなら一瞬で首チョンパされちゃう。ここはご機嫌を取った方がよろしいかな。胡麻をすろう胡麻を。ゴリゴリ。
「いやあスミマセン舌が平民仕様なもので。それでパンジャミン様はどうしてこのような場所に?」
「……ふん、我が担任の教師から貴様の打倒を是非にと頼まれたのでな。一体どんな傑物なのかと思い、来てみた次第だ」
とんだ無駄足だったがな、とアカサくんはムカつく御顔で溜め息を長々とついてやれやれと首を振っている。くっそムカつくなこのパンダ野郎。
それにしても『教師から打倒を是非にと頼まれた』とな。どういうことだ? 俺はコイツのことは勿論のこと、その担任の教師とやらも知らないのだが。というより学校における知り合いがミッシェル先生くらいしか居ない。あ、シモンズとライアンは除外します。あいつらは絡まれてるだけで知り合いじゃないんで。
つまり、俺はその教師とやらに恨まれたり憎まれたりする謂れもない訳で。それなのにその教師は俺を是非倒してくれとコイツに頼んだ訳だ。なんで?
「遅くなってすまないなベルナルド……どうした?」
「あ、ミッシェル先生。こんにちはっす」
ミッシェル先生がやって来る。今日も黒スーツ姿でお綺麗です。いつ見てもバッチリ決まってて流石だなと思う。大会運営とか教師としての仕事とかもあるだろうにちょくちょく顔を見せてくれるミッシェル先生マジ優しい。
俺とアカサくんが扉の前で話していることに疑問を持ったようで、目で俺に入らないのかと問うてくる。いや、俺もこんなことせずに控え室入りたいんすけどね。こんな野郎と話すより密室で先生と二人きりの秘密の会談を実行したいんですけどね。
ていうか初対面の人ってどう接すればいいか分からないし。普通に話すと無礼者!って怒られちゃうし、かと言って下手に出れば調子乗るし。やだわ貴族様ったら超面倒くさい。
「おやおや『下流階級』の味方を気取る偽善者……もといラングフォード先生ではないですか……」
「貴様、パンダ……んん!パンジャミンか」
アカサくんはミッシェル先生を見て何処と無く舐めた視線を送って舐めた発言をかましている。てめえ先生に舐めた口きいてんじゃ……あれ今先生もパンダマンって噛みそうになりませんでしたか? 咳払いで誤魔化してましたけど噛みそうでしたよね? あらやだちょっと以心伝心。パンダで繋がる先生との絆。なんか嫌だなそれ。
「……私は家格や血筋で生徒を優遇も蔑ろにもしない。努力する者に進んで手を差し伸べているだけだ。結果として、貴様の言う『下流階級』と接する機会が多いというだけの話。私があまり上流階級の者達と接する機会がないのは、そういった者達は努力する彼らを見下し、驕っているからだろう……今の貴様のように」
「…………っ!」
……惚れそう。いや惚れました。というより惚れてる。
ミッシェル先生が毅然とした態度でそう返すと、アカサくんは言葉に詰まったようにたじろぐ。どう見ても先生の勝ちですね。人間としての器が勝敗を分けましたね。
このクソ貴族がお前の負けなんだよパンみたいな名前しやがって。やーいバーカバーカ。帰れ!
「〜〜〜ッふざけおって! 今に見ていろ! 次の試合勝つのは僕だ! 首を洗って待っているんだなアベル・ベルナルド!」
捨て台詞を吐いて敗走するアカサくん。憐れ。てか何しに来たの君?
ただ扉に背を預け腕組みをして格好付けて帰って行ったアカサくんの背中を見ながら、俺はふと先程の会話で気になったことを話す。
「なんだか俺、彼の担任から目の敵にされてるようで。も、もしかして俺ってば今大会のダークホース的な要注意人物みたいになってるんですかね?」
「いや、恐らくそうではないだろう」
「あ、そうなんすか……」
多くの人間から注目されちゃってるんじゃないかと内心ウキウキしてたのだが、バッサリ切られちゃった。しょんぼり。
するとミッシェル先生はほんの少し口籠る仕草を見せる。いつだって聖剣みたいな斬れ味で言葉を紡ぐ先生にしては珍しいと思った。
「……以前言っただろう。『平民出身だからという色眼鏡で見る教師も少なくない』と。恐らくは貴様を特待生から降ろそうと画策する教師達の差し金だ」
「……そういうことですか」
成る程、合点が行った。
ミッシェル先生は小さく溜め息をつく。
「嘆かわしいことだ……本来金銭的に余裕のない生徒たちに学びの機会を与えるという主旨の下に作られたものだというのに……。未だ、魔術学校を貴族のみに相応しい学び舎だと思っている者達が後を絶たない」
ミッシェル先生は目を伏せて憂いを帯びた声を出す。
その横顔を見ながら、俺は何かこの人のために出来ることはないかと考える。だが、思い浮かばない。所詮子供でしかない今の俺に出来ることなど、無に等しい。それがどうしようもなく歯痒かった。
「大丈夫か?ベルナルド」
「……大丈夫です。オールオッケーです」
そんな俺を先生の深い海のような蒼い瞳が見つめてくる。氷のような、けれどきっと触れれば暖かい、そんな眼だった。
貴女の優しさに、貴女の全力に、俺は甘えっぱなしだ。
いつかこの恩に報いることは出来るだろうか。自信は、ないけれど。
一先ずはこの大会で結果を出すしかない。俺にはそれくらいしか出来ることがないのだから。
「私は勝てると信じている……貴様ならな」
「勝ちますよ。……勝てる相手には」
「ならば安心だな」
ミッシェル先生が俺の頭にポンと手を置く。その手はすぐに離れてしまったが、俺の頭には先生の信頼とか、まあそんなものが残っている……気がした。
モテたいとかチヤホヤされたいとか、そういった不純な理由で(俺にとっては超高尚な理由だけどね)魔法を学ぶ俺にはやれることは少ないけれど。
一つだけ誓えることはあります。
貴女の顔に泥を塗ることを、俺は絶対にしません。
『勝者、アベル選手!』
立会いの先生の声が闘技場に響き、俺は四回戦も勝利を収めた。
ふむ……一つ言えることは。
アカサくん超弱かった。ライアンの方が圧倒的に強いね。
闘技場の物陰に二人の人影が見える。
アカサと重なる面影を持つ二人は彼の兄達。
次男 タナハ・パンジャミン。長男 マユラ・パンジャミン。
彼らは物陰から闘技場に倒れ伏す弟の姿を見ながら、意味深に呟いていた。
「ふ、アカサがやられたようだな……」
「奴はパンジャミン三兄弟の中でも最弱……平民にやられるとはパンジャミンの面汚しよ……」
「だが安心しろ弟よ。五回戦ではタナハが、そして六回戦ではこの俺、マユラが奴と戦うことになるだろう。お前の無念は俺たちが果たそう」
彼らは次の日、アベルに手も足も出ず敗退することになる。