魔法使いです。その手を高く突き上げます。
更新遅れちゃいました。申し訳ないです。
西片っていう主人公と高木さんっていうヒロインがイチャコラしてるだけの神漫画を一気買いしたのが全ての間違いだったね。まあ買ったことは何一つ後悔してないけどもね。
今日の夜にも一話投稿する予定です。
邪悪なる力の奔流に何とか耐えきった俺は控え室にて武器の手入れを行った。
杖の調子とか剣が刃こぼれしてないか調べてただけだよ?刃を砥石で研ぎながら呪詛なんて唱えてないよ?嘘。めっちゃ唱えてました。イケメンに対する恨み辛みをこの剣に込めちゃいました。多分百年もすれば呪われし妖刀とかになるんじゃないかなこの剣。非モテの怨念の詰まった装備から外せない片手剣。効果はイケメンを見ると殺意が湧く。元が俺のためパワーアップはしません。ゴミ装備じゃねえか。
手を止め剣を確認する。角度を変えると刀身が濡れるように光った。うんまあこれぐらいで十分だろ。ていうか正式なお手入れの仕方なんか俺知らないから判断がつかない。昔話のお婆さんみたいなスタイルで剣研いでたんだけど砥石の使い方ってこれで合ってるんですかね。
どうやら相手のカイトくん、剣術部に所属してるらしい。ということは魔法よりも剣メインで闘いに挑んでくるだろう。ミッシェル先生から剣術を学んだとはいえ剣を何年も扱ってきた相手に正面から勝てるわけはない。故に俺は剣をメインで使っている……と見せかけて魔法で相手の意表を突くという作戦でいこうと思う。ズルじゃないよ作戦だよ。卑怯じゃないよ戦略だよ。悪知恵じゃないよクレバーだよ。
「さて、イケメンをぶっこ……正々堂々と倒しましょうかね」
俺は扉を開け控え室を出た。
「よォ来たか」
「あ、どうも」
闘技場に行くとカイトは既に待ち構えていた。腰には俺の片手剣の一回り大きな鉄剣を差し、甲冑を身に纏っている。めっちゃ重そうだな。俺がそんなん着たら装備の自重でHPゼロになっちゃうよ。闘うまでもなくゲームセットだよ。兜は外しているようでミステリアスで端正なお顔が拝見できる。うふふ整った良いお顔ですわね殴りたい。
おっとマズイマズイ。冷静になれ俺よ。ミッシェル先生の言葉を忘れるんじゃない。先生はこの試合を観てはいないけれど、だからこそ俺は先生の教え子として恥じぬ振る舞いをしなくては。
「アベル・ベルナルド……」
「ん?なに?」
「俺はこの日をずっと待ってたぜ……」
「?」
そんな風に俺が自分に戒めを説いている時、カイトくんはそのクールな顔に確かな怒気を孕ませ俺を睨んできた。
「てめェには償ってもらわなきゃいけねェことが一つあるんだよ……!」
「……!?」
な、なんだ?何言ってるんだコイツは?
俺と君ってそんな因縁深い関係でしたっけ?今日初対面の筈なんですけど。俺の知らないところで俺が失礼でも働きました?もしくは前世で何か俺やっちゃいました?意味わからんよ。
「なに、どういうこと?償うって何をさ?」
「……くっ!ふざけやがって……」
カイトは右手を剣の柄にかけより一層俺のことを睨みつけてくる。その目で理解した。コイツは本気だ。本気で俺のことを恨んでいる。理由は全く思い当たらないが、それでもコイツの怒りは本物だった。
『Bブロック二回戦、カイト選手対アベル選手の試合を始めます!両者互いに、礼!』
互いに無言で頭を下げる。
俺は片手剣に手をかけいつでも受けられる体勢を作った。
『試合、開始!』
瞬間、カイトが鋭く斬り込んでくる。
俺は片手剣を抜き放ちその軽さを利用して奴の一撃を斜めに受けて受け流す。
速いーー。
俺の剣よりも重い鉄剣を持ち、甲冑を着込みながら尚この敏捷性。魔法を唱える暇も無かった。受け流せたのでさえ偶然に近い。
忌々しいが、流石は剣術部所属と言ったところか。見立て通り剣だけの勝負では俺に勝ち目はない。
一撃の重みが違う。剣の腕前が違う。突きつけられる実力の壁。
だけどーー。
「ミッシェル先生の剣に比べたら、ヒヨッコだな」
あの地獄の訓練を乗り越えた俺には、その壁は随分と低く見えた。
「チッ!」
カイトは舌打ちをするとまた鋭く斬り込んでくる。速く、重い一撃。だが裏を返せばそれは直線的で読み易い単調な攻撃だ。
魔法で強化した力でカイトの持つ剣よりも一回り大きな剣を縦横無尽に振り回していたミッシェル先生に比べればまさにヒヨッコと怪獣。あの先生めっちゃ涼しい顔でバカスカ打ち込んでくるからね。なんなのあの人、怖すぎない?う、思い出したらトラウマが……。
先ほどよりも綺麗にカイトの一撃を受け流し、俺は一度距離を置く。カイトは息を荒げながら俺に向き直った。その重装備で激しい動きをすればそうなるのも必至だ。カイトは自分の攻撃があしらわれているのを感じ取ったのだろう唇を噛んで俺を再び睨みつける。
このまま左手で杖をこっそりと抜き魔法を唱えてもいいが、俺はカイトが何故こんなにも俺を恨むのか疑問に思い質問をした。
「なあ、あの…カイト、くんはどうしてそんなに俺を恨んでるんだ?償いってのは何のことだ?」
「てめェ……俺を、いや俺たちを馬鹿にしてんのか!?」
俺たち?え、コイツだけじゃなくて俺ってば複数人から恨まれてんの?ウォンテッドなの?いやホント、理由が分からなすぎて超怖い。
「……いやあの、ホントどういうこと?」
「なら教えてやるよクソ野郎が!」
俺の困惑に満ちた言葉に遂に堪忍袋の尾が切れたのだろう、カイトは罵声と共に懐に手を入れゴソゴソと何かを取り出す。
そして取り出したその何かを、俺に見せつけてきた。
「てめェ!俺たちのミッシェル先生とイチャコラしてんじゃねェぞコラァ!」
ミッシェル・K・ラングフォード
非公式ファンクラブ会員証
No.115 カイト・ツォケナ
………………。
「あの氷のような美しい蒼の瞳。どんな時でも動じない彫刻の如きお姿。そして何より数多在籍する教師陣の中でも群を抜くその強さ。嗚呼ミッシェル先生、俺は貴女の剣を見た時から貴女の虜になってしまったのです」
いや、あの。俺を置いてどっか行かないでくれます?
「俺たちは極力不干渉を貫き、そのお姿を遠くから見ることが決まりだった。なのに!」
あ、俺を睨んでくる。あやっぱいいです。そのまま時空の果てまで行っちゃってていいんで。一緒にされたくないんでちょっとこっち見ないでくれます?
「美しいあの先生にこんな地味顔の男が纏わり付いてしまっている!しかもこの二週間以上ずっとだ!何という悲劇!羨まし…じゃない!万死に値する!」
完全に過激派じゃねーか。ストーカーも併発してるとかもう手錠待った無しだよ。誰だよコイツイケメンって言ったの。俺だわ。全くイケメンじゃないよ。少なくとも俺が知ってるイケメンはここまで無様じゃないよ。残念過ぎるだろコイツ。
「孤高のミッシェル先生をお守りするのが俺の役目!てめェは俺がぶった斬る!!」
孤高ねぇ……。
確かに俺も最初はそんな風に思ってたさ。
誰も寄せ付けず、誰も気にかけず、只一人氷山の頂点に立つ、そんな孤高の存在に見えた。
けど、その孤高の存在は、無防備だったり、優しかったり、熱血だったり、寂しそうな目をしたり、結構表情豊かだったけどな。
コイツはきっとそういった面を見たことがないのだろう。外面のイメージだけで決めつけて、あの人から遠ざかろうとしている。
あの先生はそんなの望んではいないのに。
ミッシェル先生は、生徒ともっと仲良くなりたいと思ってる、と俺は思うぞ。多分だけどね。
コイツには既視感がある。まるで鏡に映った自分を見ているような、そんな感覚。
そうか。もしかしたらコイツは根っこの部分では俺と同じなのかもしれない。俺がイケメンに嫉妬するように、コイツも憧れの人と仲良くしている俺に嫉妬していたのだろう。はたから見ればね。多分コイツは俺が体験した地獄の特訓を知らないからここまで勘違い出来たんだろうな。
そう思うと、俺はイケメンとはいえコイツが何だか他人じゃないようなーーそんな気がして。
ーーけれど、一つだけ言わせてもらいたいことがある。
カイトが再び斬り込んでくる。今度のは全力の全力、今までの一撃よりも遥かに鋭く速い攻撃だ。
だが俺はそれがこちらに届くよりも先に剣と杖を構え。
剣を振りかぶりカイトに投げた。
「なっ!?」
獲物を手放すとは思わなかったのだろう。カイトはぎょっとしたように一瞬固まり、やむなく攻撃を中断し鉄剣で投擲された片手剣を防ぐ。
「………!? 奴はどこに行った!?」
その一瞬。視線と意識が片手剣に向けられた瞬間に、俺は魔法を発動し空中に身を踊らせていた。
飛行魔法。
複雑故に実戦で使うのは珍しい魔法。だが崖の上から毎回のように落とされ飛行魔法の反復をしてきた俺にとっては、すでに困難の部類には入らない。
想定も想像もしていなかったカイトは俺が目の前から消えたと錯覚する。
上ーー想像の範疇外から重力と飛行魔法の推進力を得た俺の体がカイトに肉薄する。
確かにコイツと俺はどこか似ている。
嫉妬深く、浅ましく、もうなんか魂が薄っぺらい所。ミステリアスな所。ミッシェル先生に憧れている所。
だが俺は声を大にして言いたい。この世の理不尽ってやつを。こんなにも内面が似通っているというのに、なぜ。なにゆえ。
「なんでお前に彼女がいて俺にはいねえんだよおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
「ぶふぉ!!?」
俺の飛び蹴りがカイトの顔面に直撃した。
俺が地面に着地したと同時、カイトが地面に崩れ落ちる。
勝敗は決した。
『勝者、アベル選手!』
…………ミッシェル先生がこの試合を見てなくて本当によかった。色んな意味で。
俺が闘技場から出て控え室に繋がる廊下を歩いていると、前方にカイトが頼りない足取りで歩いているのが見えた。
あの後すぐに治癒魔法を施され歩けるくらいには回復したが、大事をとって医務室に向かうのだろう。俺は良心の呵責から肩でも貸そうかと思い近づこうとする。
「ああエマ、シャーロット」
だがその前にあの美少女二人がカイトに手を貸そうと近付いていた。
俺の出番はなさそうだ。
そう思い、背を向けようとしたその時。
「「ふん!」」
「ぶふぉ!?」
エマとシャーロットの正拳突きがカイトの腹に炸裂した。
ええーーー!?ちょ、ちょっと何してんの!?それ俺じゃないよ?俺はこっち!そっちは君たちのボーイフレンドでしょう!?今のは熱く抱き締めてあげる場面じゃないの!?
「な、なん、なんで?」
カイトもそう俺と同じ感想を抱いたのだろう。困惑に満ちた声で二人を見る。
エマとシャーロットは永久凍土のような冷たい目でカイトを見下ろしていた。
「どういうことカイト?私たちのこと好きとか言ってたクセにミッシェル先生のファンクラブ?しかもあんなに褒めまくって……私には全然言ってくれなかったのに!もういい!一生愛しの女追っかけてなさいよ!この根暗ナルシスト!」
「カイトくん……キモイ……」
「な、あ、ちょっと待っ」
「うっさい!バカ!」
蹲ったままのカイトを置き去りに、二人は無情にも去って行く。
「違うんだ……二人とも……違うんだよ……!」
カイトは両手を地面につくと魂の叫びを上げた。
「『恋愛』と『追っかけ』は違うんだぁァアァァ!」
声は廊下に木霊するも、二人には届かない。
俺はその一部始終を見届けると、背を向け自分の控え室に戻って行く。
居た堪れないと感じて去って行ったのか?違う。
同情を禁じ得ないと思いそっとしておこうと思ったのか?それも違う。
自業自得だから仕方がないと見放したのか?全然違う。
俺はたった一つの事実を見届け、満足しただけだ。
今ここにリア充が一つ爆発した、という事実を。
そして俺はその拳を高く突き上げながら、長い廊下を歩いていた。
俺は二つの勝利を胸に三回戦へと進む。
主人公がこの後カッコよく見える話も作る予定だから…まだ挽回できるから…から…(