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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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22.タマモの修行

 翌朝、寝袋の中で目を覚ました昴は朝の身支度をした後、早速朝食づくりを始めた。漂ってくる匂いにつられて起きてきた寝ぼけ眼のタマモに顔を洗うように指示し、料理を盛り付ける。さっぱり顔で朝食を頬張るタマモをほほえましく見ながら二人は朝食を終えると、森へと入っていった。



 昴とタマモは枝に飛び移りながら軽快に進んでいく。本人たちにその気はないのだが、普通では考えられないような驚異的な速度で森を駆け抜けていき、昴はその移動中にタマモに修行を課していた。


 タマモの武器はそのすばしっこさを活かした接近戦と、高威力な遠距離魔法により敵を翻弄するところにある。通常の魔物であればその類まれなる身体能力を駆使し、炎の爪による接近戦のみで倒すことができるのだが、‘ゴールデンコンガ’のようにランクの高い魔物相手にはどうしても火力不足に陥ってしまっていた。

 そこを改善したいと思った昴はタマモの「炎をコントロールする力」を向上させ、なるべく被害を出さないように炎が扱えないかと考えた。それならば多少燃えても、その炎をコントロールし消火することができれば、森や町でも存分に魔法を使うことができタマモの火力向上にもつながる。

 幸いエルシャール家の当主、ギルオン・エルシャールから〔炎の指輪〕をもらっており、タマモの炎を操る力は格段に上がった。だがその指輪を失うことも考慮して、今は指輪抜きで炎を消す修行をさせている。


「…これは難しいのじゃ」


 左手に薪を持ち、それに魔法で火をつけ、それを消すという作業を何十回も繰り返していた。最初の内はすぐに炭にしていたので、その度昴が”アイテムボックス”から薪を出してタマモに渡していた。今はかなり進歩していて、炭にする数はかなり減ったが、どうしても完全に消すことができずにいる。


「そう落ち込むな。かなりできるようにはなってるぞ」


「うむぅ…完全に消すことなんてできるのかの?」


 タマモは唇を尖らせながらもう一度薪に火をつける。昴はそれを見ながら、ベヒーモスを倒した後、『炎の山』を脱出したときのことを思い出していた。

 魔法が使えない昴と満身創痍のタマモの周りに無数の魔物が集まり絶体絶命の状況だった時、タマモが魔法で全ての魔物を焼き払った。そして森が燃えないようにその炎を消したのだった。

 あの時のタマモは少し様子が違ったのだが、それでも炎を消したのはタマモ自身であるから、昴は炎が完全に消せると確信していた。


 タマモが悪戦苦闘しながら進んでいると、不意に昴が手を挙げてタマモを止める。


「修行はいったん中止だ」


「何か来たのかの?」


 タマモが所々焦げている薪を捨てながら昴の横に立つ。昴は頷くと【気配探知】に集中した。


「…なんだ?こいつら」


 昴は無数の魔物が近づいてきているのを感知していた。ただ普通の魔物とは違い、一つ一つの気配が密集しており、一つの大きな塊となって近づいてきている。


「強い魔物かの?」


「いや…強いやつはいないけど…まぁ、もうすぐ見えてくるからそれでわかるだろう」


 二人は魔物やってくる方を凝視する。しばらくすると黒い塊が飛んでくるのが見えた。昴が目を細めると、その黒い塊を構成しているのが蝙蝠だと気付いた。


「タマモ、蝙蝠だ!」


 昴が声をかけると二人は左右の気に飛び移った。蝙蝠たちがその間を飛んでいく。


「修行の成果を試してみるか。初級魔法ぐらいなら燃えても消せるだろ」


「わかったのじゃ!」


 タマモが魔力を練ると、それに反応した蝙蝠たちが一切にタマモに近づいていく。するとタマモの身体から白い靄のようなものがでていき、蝙蝠たちに吸い取られていった。


「うぬ!?なんか変じゃ!!魔力が練れない!!」


 タマモが蝙蝠たちを躱しながら慌てたように声を上げた。訝しげな表情を浮かべた昴は枝の上を移動しながら魔力を練る。すると蝙蝠たちは急旋回し、今度は昴の方へと向かってきた。そしてタマモの時同様、昴の身体から白い靄を吸い取る。


「…確かに魔力が練れねーな。まさかこいつら…」


 昴がカラクリに気づく。

 昴達が遭遇した魔物は’マジックバット’。集団で行動し、希少なスキルである【魔力吸収】というスキルを持っている。’マジックバット’は血を吸わず、そのスキルを利用して魔力を吸収し、それを糧として生きている。スキル自体は厄介なのであるが、近接武器で戦えばさほど苦労する相手ではないので、ランクはDとそれほど高くはない。


「タマモ!こいつらは魔力を吸収する魔物だ!素手でぶちのめせ!!」


「りょーかいなのじゃ!!」


 タマモは木の上をピョンピョンと飛びながら’マジックバット’の集団に飛び掛かり、思いっきり拳を振るった。昴も’鴉’を呼び出すと、’マジックバット’をばっさばっさと切り落としていく。

‘マジックバット’は大した反撃を加えることもできずにその数を半分ほどに減らされ、これは無理だと慌てて逃げていった。昴達も無理に追うことはせず、去っていく’マジックバット’見ながら息を整えた。


「木の上にいれば魔物に襲われないと思ってたんだがな」


昴が’鴉’を戻しながら言うと、なにやらタマモは考え事をしていた。


「…スバル、薪をくれないかの?」


「ん?いきなりどうした?」


「ちょっと試してみたいことがあっての」


 タマモは昴から薪を受け取るとその薪に火をつける。そして燃えている薪に手をかざして意識を集中させた。すると炎が跡形もなくなり、後には煤けた薪だけが残った。


「できたじゃねーか!」


 昴が興奮した声を上げると、タマモが誇らしげに人差し指で鼻をこすった。


「さっきの奴らを参考したのじゃ!!」


「参考に?」


 昴が首を傾げながらタマモの顔を見る。煤のついた手で鼻をこすったため鼻頭が黒くなっていた。それに気づかずにタマモが説明を続ける。


「奴らは魔力を吸収しておったからの!うちも炎を消すんじゃなくて吸収してみたんじゃ!!なんとなく魔力も回復した気がするのぉ!」


 タマモの鼻を布でぬぐいながら昴は考えていた。【火属性魔法】は魔力を火に変えて放つものである。通常、魔法としてうたれた魔力をもう一度取り込むなど昴ですらできない。


(おそらくタマモのもつ【炎の担い手】が関係しているんだろーな)


 タマモが国民の儀を受けた後スキルの確認をした時には【炎の担い手】のスキルの詳細はよくわからなかったのだが、こんな能力があったのか、と昴は感心していた。


 昴は火をつけたり消したりして遊んでいるタマモの頭を優しく撫でる。


「すごいぞ、タマモ」


 かけ値なしに昴に褒められたタマモは嬉しそうにはにかんだ。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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