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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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18.報酬

 昴達の希望を聞き入れ、エルシャール家の食堂で急遽食事会が開かれることとなった。食堂には昴とタマモ、そして今は着替えて貴族のお嬢様らしい服を着ているココ。ギルオンは病み上がりなので食事をすることができないが、昴達の話を聞きたい、と食事会に参加している。

 流石は四大貴族といったところか、出てくる食事はマルカットの屋敷で出されたものを超えるほどの豪華さであった。やはり魚介類が多いが、肉やパン、お酒も大量に置かれている。


「うまい!うますぎるのじゃ!!」


 タマモが骨つき肉にかぶりつきながら幸せの悲鳴をあげる。昴も赤ワインを楽しんでいた。ガンドラの酒場ハウンドドッグで飲んで以来昴はワインにはまっていたのだが、ここのワインはガンドラの街で飲んだワインよりもすっきりしており飲みやすかった。正面ではココが魚のムニエルを食べながら果実酒を口にしている。


「スバル殿」


「ギルオンさん、殿はいらないですよ。俺もタマモもそんな偉い者じゃないんで呼び捨てで結構です」


「そうなのじゃ!ギルオン、うちのことはタマモと呼んでくれ!」


「…タマモが失礼な口を聞いてすいません」


 タマモが貴族(ギルオン)相手にありえない口調で話すので、昴はヒヤヒヤしながら頭を下げる。ギルオンは気にした様子もなく、快活に笑った。


「そうか、ならスバルとタマモと呼ばせてもらおう。そしてタマモ。話し方はタマモが一番楽なようにすればいいぞ」


「うむ!わかったのじゃ!」


 口の周りを肉の脂でベトベトにしながらタマモが元気よく手をあげる。その手にはしっかりと肉が握られていた。昴が慣れた調子で布を取り出し、タマモの口元を拭った。それをギルオンは暖かい眼差しで見守る。


「それでスバル、早速だが君の話を聞きたい」


「話というのは?」


「そうだな…うちの娘とどういう関係なのか、とかはどうだ?」


 ギルオンがニヤリと笑いながら言うと、隣でココがブーッと果実酒を吹き出した。


「どう言う関係と言われてもですねぇ…じゃあココと出会った経緯を話します。ココ、話しても問題ないか?」


 ゲホッゲホッとむせているココに昴が問いかけると、口元を手吹きで吹いたココが静かに頷いた。しかしその目は「余計なことを話したらただじゃおかない」と語っている。


 昴は事の経緯(いきさつ)を話し始めた。ギルオンは黙って話を聞いていたが、’ストームドラゴン’の話になった時には目を丸くしており、しきりにココに事実かどうか確認していた。


 全てを聞き終えたギルオンは手元にある水を飲み一息つく。


「なるほど…しかしスバルがランクA冒険者とは…」


「全然見えませんよね」


「悪かったな」


 からかうようにココに言われ昴は唇を尖らせる。


「タマモもランクD冒険者にも関わらず、あの’ゴールデンコンガ’を倒せる実力とは、いやはや恐れ入ったよ」


「奴も結構強かったがのう…稽古中のスバルの方がもっとずっと怖いのじゃ!」


「あなたは一体どんな稽古をタマモにつけたというんですか…」


 呆れたようなジト目を向けてくるココを無視して昴はパエリアを頬張る。


「それはそうとココ。その話し方なんとかならないか?なんか、こう、ゾワッとする」


「そう言われましても…」


 ココが隣にいるギルオンの方をチラリと目を向ける。それを見たギルオンは笑顔で頷いた。


「別に貴族同士の堅苦しい会食をしているわけではあるまい。普段の口調でもかまわないだろう」


「そう…ですか。お父様がそう言うならそうしようかな」


「うちもそっちの方が話しやすいのじゃ!」


「うーん…元々はあっちの方が素だったんだけどね。強くなるために冒険者になったらいつのまにかこっちの口調で喋る方が楽になってたんだよね」


 ココが気楽そうに話す。やはりこっちの口調の方が話しやすいようだ。


「そういえば…話を聞いてて少し疑問に思うことがあったのだが」


 ギルオンが両ひじを机に付き、顔の前で両手を組む。


「なんですか?」


「スバルはどうしてこの家の事情を知ることができたんだ。話によるとココは儂の病気のことなど一言も話してないだろうに」


「あー!それは僕も不思議だった。お父様のこともそうだし、お兄…デルトの件に関してもそう、なんで知ってたんだい?」


「あーそれは…」


 昴は悪戯が見つかった子供のような表情を浮かべ魔力を練った。


「”鴒創(れいそう)”」


 昴が魔法を唱えると手から黒い鳥が飛び立つ。驚いている二人の間を優雅に飛ぶと、カラスは昴のもとへ戻ってきた。


「その鳥って…」


「カラスっていう俺が作った魔法なんだけど、こいつを通して俺は物を見たり音を聞いたりできるんだ」


「なんと!それは便利な魔法だな」


「なんとなくココに隠し事があると思った俺はこのカラスを放ってこの家を観察してたんです。それでギルオンさんのことを知ったり、デルトの企みにも気づけたんですよ」


「なるほど」


 感心しているギルオンの隣で、ココが微妙な顔をしていた。


「それってお父様の部屋にいた鳥?」


「そうだよ。いやーあん時はばれたかと思ってマジで焦ったわ。ココが急にこっちに顔を向けて俺の目を凝視してくんだもん」


 ココはおもわず視線を下に落とした。昴に似た目をした鳥を見て心が落ち着いたなどと口が裂けても言うことはできない。


「スバルの話を聞いた今、どれだけ我々が助けられたのか身につまされるな。ココ、まだスバル達に報酬は渡していないんだったな?」


「まだ渡していないよ」


「そうかそうか!食事も終えたみたいだし、報酬は応接室で渡そう!」


 その言葉を聞いたタマモがピンッと耳を立てた。


「報酬!?ココが言ってた特別な報酬なのかの!?」


「なんだ、そんなこと言ったのか?これは気合い入れて報酬を渡さねばならんな」


「特別な報酬…一体どれほど美味しいものなんじゃ…」


 目をキラキラと輝かせているタマモを見て、ギルオンは優しく微笑んだ。



 ギルオンは応接室に昴達を案内すると、少し待っていてくれ、と部屋には入らずどこかへ歩いて行った。昴はふかふかのソファに腰を下ろし、ポヨンポヨンとソファの上で跳ねているタマモの首根っこを掴まえてきっちり座らせる。タマモの対面にココが座った。


「報酬ってなんだろ…」


「さぁね…お父様のことだから倒した魔物の剥製とかじゃないかな」


 ココが真面目な顔で言うと、昴は引きつった笑みを漏らした。



 しばらく待っていると台車を引いたギルオンが部屋に入ってきた。その台車には青色の大きな岩が乗せられている。


「待たせたな」


 ギルオンは台車をソファの近くに起き、昴の前に腰を下ろす。


「これが普通の報酬だ」


 ギルオンが硬貨の詰まった麻袋を机に置く。置いた時の音から察するにかなりの重さがありそうだった。


「えーっと…これはいくらですか?」


「500ガルだ」


「500ガル!?」


 あまりの大金に昴は目の玉が飛び出しそうになった。


「貴族の娘、しかも次期当主を凶暴な魔物達から護衛したのだ。この辺りが妥当な金額であろう」


「そ、そうなんですか…ありがとうございます」


 正直相場などわからない昴は頭を下げて受け取るほかなかった。


「次は特別な報酬だ。まずはタマモから」


 ギルオンは懐から小さな箱を取り出すとそれを開ける。中には赤い宝石がついた指輪が入っていた。


「うわー!きれいなのじゃ!」


 尻尾をふりふりとさせながらタマモが指輪を見つめる。


「これは〔炎の指輪〕と呼ばれる魔道具だ。この魔道具をつけると容易く炎を扱えるようになる。タマモは【火属性魔法】の使い手だと聞いたからな…うちは代々【風属性魔法】に長けた一族だからこの指輪の使い道に困っていたのだ。是非もらってくれ」


「これはうちがもらっていいのかの!?」


「あぁ、これはタマモのものだ」


「うはー!ありがとうなのじゃ!!」


 ギルオンが頷くとタマモは指輪を指に嵌め、嬉しそうな表情でそれを見ていた。


「さて、次はスバルのだが…」


 ギルオンが台車に視線を向ける。


「スバルはミスリルという鉱石を知っているか?」


「いえ…鉱石にはあまり詳しくないもので」


「まぁ普通のものはそうであろうな」


 ギルオンは立ち上がると台車の上にある青い岩に手を乗せた。


「これがミスリルだ。別名魔法鉱と呼ばれており、こいつは高濃度の魔力にさらされた金属が変化し生成される貴重な鉱石なのだ。魔力伝導率が高く、魔法の武器や魔道具に利用される」


「魔法の武器、ですか」


「あぁ。スバル達はこれからも旅をしていくのだろう?こいつを加工すれば強力な兵器にもなる。必要がなければ売ってもよし。希少な鉱石だからかなりの額で取引される。スバルは”アイテムボックス”のスキルを持っているから邪魔にはならないだろう」


「そうですね…ありがたく頂戴します」


 どんな素敵(?)な剥製が来るのか、と身構えてた昴は内心ホッとする。ミスリル、こいつは何かに利用できそうだ、と考えながら昴はそれを”アイテムボックス”にしまった。


「報酬はこんなところだが、満足してもらえたかな?」


「大満足なのじゃ!!」


「予想以上だったので逆に申し訳ないくらいです」


 二人の反応を見てギルオンは満足そうに頷く。


「さて儂からは以上なのだが、ココ、お前からは何かあるか?」


「そうだね…僕からは…」


 ココは立ち上がると昴の近くに寄ってきた。昴が何事かと首をかしげる。


「僕からの特別な報酬はね…僕をあげよう!」


 反射的にココの頭に手刀を下ろす昴。


「いったぁーい!!いきなり何するの!?」


「すまん、お前があまりにふざけたことぬかすからつい、な」


 昴が悪びれもせずに謝った。ココが不満そうな表情を浮かべる。


「まぁ冗談はさておいて、色々お世話になったから僕も何かあげたいと思ったんだけど何も思いつかなかったんだ。二人は何か貰いたいものとか、して欲しいこととかない?」


 昴とタマモが顔を見合わせる。


「俺は特にないけど…」


「うちは買い物に付き合って欲しいのじゃ!!」


「買い物か…それいいな」


 ココが思わぬ答えに目を丸くする。


「買い物…そんなのでいいの?」


「あぁ、ギルオンさんからこんなにお金もいただいたから、次の場所へ行く準備をしようと思ってたんだけど、俺たちはこの町のこと知らないからな。詳しいココが付いてきてくれると助かるよ」


「次の場所、か…そうか…そうだよね」


 ココが少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。


「わかった!じゃあ明日の朝に家に来て!そしたらお店を案内するから!」


「おう、よろしく頼むぜ」


「楽しみなのじゃ!」


 そう言うと昴はタマモを促して席を立った。


「それではギルオンさん、俺たちはそろそろお暇します」


「そうか、いろいろ世話になったな」


「いえ、こちらこそご馳走していただいたり、貴重なものまで頂いて感謝してます」


「指輪ありがとうなのじゃ!!」


「じゃあ、ココ。明日よろしくな」


「また明日なのじゃ!」


「うん!穴場のお店とか案内してあげるよ」


 昴は最後にギルオンに頭を下げ、タマモは元気よく手を振りながら部屋を後にした。ココはしばらく昴達が出ていった扉を見つめていた。


「ふざけたこと、か…結構本気だったんだけどな」


 切なそうに呟いたココの肩にギルオンが手を置いた。


「なんだ、もう諦めるのか?エルシャール家の者が情けない」


「…諦めてなんかないよ。僕がここの当主になったら迎えに行くつもりだから」


「そうか…だが彼はなかなか手強いと思うぞ?」


 ギルオンの言葉を聞いて、ココは不敵な笑みを浮かべた。


「僕はエルシャール家の次期当主だよ?手強い方が燃えてくるよ」


 ギルオンはそんな成長した我が子の姿を嬉しいような寂しいような、そんな複雑な思い抱きならが見つめていた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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