9.同室の謝罪
隆人達が美冬の逆鱗に触れた後の夕食は不自然な程いつもと変わらなかった。
魔法がどうだとか明日の遠征はどうなるのかとか他愛のない話をしながら食事をとり、誰一人として訓練所で起きたことを話題にしない。昴達もその例にもれず、いつもの同室四人組で明日必要なものなどを話し合っていた。
それでも何人かの生徒は時折、美冬をいつ爆発するかわからない爆弾を見るような目でちらちらと見ている。
昴がチラリと美冬に視線をやると普段と変わらず黙々とご飯を食べていた。あんなことをしたにもかかわらず美冬は平常運転のようだ。
そんな昴の視線に気づいた、優吾が今までより一段声のトーンを落として昴に話しかける。
「やっぱり気になるか?」
「え?」
「北原のこと」
美冬のことを話題にし始めた優吾に亘と卓也は少し緊張した面持ちで顔を近づけてきた。昴も仕方なしに顔を寄せる。
「僕のために怒ってくれたからね。クラスで浮かないか心配なんだ」
「大丈夫だ。北原は元々浮いてるから」
大真面目に言う優吾に卓也はコクコクと首を縦に振った。そんな二人に昴は苦笑を浮かべる。
「それにしても意外でしたね…一、二年とずっと同じクラスでしたが、あそこまで感情をあらわにした姿は初めて見ました」
「俺も初めてみた」
亘は心底珍しいものを見たといった様子でしきりに眼鏡をいじっていた。そんな亘に同調しながら、優吾はこっそりと美冬の方に視線を向ける。
「それにしてもあそこまで怒っておいていつもと全然変わらないで飯食ってるってすげーよなぁ…」
「そこは北原さんらしいよね」
若干あきれた感じで優吾が言うと、卓也は少し楽しそうにしていた。そんな三人を見て昴は食事の手を止め、真剣な表情を浮かべる。
「青木君、中山君、斎藤君…お願いがあるんだ」
「ん?どうした?」
優吾が不思議そうにこちらを見る。亘と卓也も昴の表情を見て食べる手を止めた。
「僕がこんなこと言うのもおかしいとは思うんだけど…北原さんのこと嫌いにならないでくれないかな?」
昴の発言を聞いた三人は互いに目を合わせる。少しの間黙って何かを考えると、優吾がそっと口を開いた。
「…嫌いもなにも俺はあんな風に怒る北原を見てちょっと尊敬しちまったぐらいだよ」
「尊敬?」
不思議そうな顔をする昴に対し、少しばつが悪そうな顔をする優吾。
「楠木があんな風に言われてさ、俺もカチンときたんだ。…でもあそこで俺が楠木をかばったりしたらその矛先が俺の方に向くんじゃねーかって思って足がすくんじまった。それなのに北原はそんなのお構いなしだった。その姿を見てすげーかっこいいって思ったよ。…まぁ本音を言うとちょびっとだけ怖かったけどな、嫌いになんてならねーよ」
照れ臭いからなのか少し早口でそう告げると、優吾は最後にすまん、と頭を下げた。それに続くように卓也と亘の二人も頭を下げる。
「私もほとんど同じ気持ちですね。あの時は情けないことに楠木君のために動くことができなかった。私も孤立するのが怖かった…そんなことを一切気にしない北原さんに敬意は表しても嫌いになることはまずありません。…楠木君、本当にすいませんでした」
「…僕も二人と同じ。北原さんが怖いっていう気持ちは青木君よりも大きいと思うけど、嫌いになったりなんかしないよ。っていうか楠木君の味方になれなかった僕が北原さんのこと悪く思うなんておこがましいよ…本当にごめんね」
突然の謝罪に昴は目をぱちくりとさせる。元の世界にいたときは、優吾はおしゃべりなお調子者、亘は頭が固そうな真面目キャラ、卓也はビクビクしている変なやつ(ここだけの話、昴のキャラはこの斎藤卓也のキャラをモチーフにしている)ぐらいの認識しかなかったクラスメートが、自分に対して素直に謝罪をしてきたことに戸惑いを隠せなかった。他者との関わりを極限まで断っていたあの頃の昴では絶対に気づけないことだった。
「ちょっとみんなやめてよ!僕だって同じ状況だったらみんなと同じことをしたと思うし、謝ることなんてないよ!」
昴は慌てて両手を身体の前で振る。顔を上げた三人は少しほっとした様子だった。
「許してもらえるか内心びくびくだったけど、謝れてよかったぜ」
優吾が照れ臭そうに笑顔を浮かべる。あとの二人も肩の荷が降りたような顔をしていた。
三人とも昴に対し何もできなかったことが心苦しかったのだ。そのことに気づいた昴は少しだけ不思議な感覚に陥る。それは決して嫌なものでは無くではなく、ずっと昔に無くしてしまった懐かしい気持ちだった。
「よーし、気を取り直して飯を食おうぜ!」
そう言うと優吾は目の前の料理を手当たり次第に口へと流し込む。それを見て、昴達も食事を再開した。
(意外といい奴らなんだな…こいつら)
魔物が出たときにどうやって逃げるかについて笑いながら話し合ってる三人を見て、昴はぼんやりとそんなことを考えていた。