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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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13.ストームドラゴン

 昴はヒヤヒヤしながらタマモたちの戦いを見ていた。何度も飛び出しそうになりながらもタマモの意を汲み、グッと堪えていた。タマモが”零距離爆発(エクスプロージョン)”を放った時は肝が冷えたが、なんとか無事そうな二人を見てほっと胸をなでおろした。

 ‘ゴールデンコンガ’との戦いも終わり、昴が木の上から移動しようとした時、タマモたちに迫る影に気づいた。漫画やゲームの世界でしか見たことがなかったその姿に、昴は思わず息を呑む。


「まさか…’ドラゴン’か!?」


 この目で見るまで’ドラゴン’の接近に気がつかなかった自分に悪態をつきながら全力でタマモ達の元へと急ぐ。


「あいつ…完全に【気配遮断】をしていやがった」


 ‘クラーケン’や’ゴールデンコンガ’という高ランクの魔物が【気配遮断】を使いこなせていなかったので、昴は勝手に魔物は気配を完全に消すことができないと思い込んでいた。

 タマモ達目前のところで’ドラゴン’が前足を振り上げたのが目に入った。昴は咄嗟に呼び出した’鴉’を逆手に構えココと’ドラゴン’の間に割って入る。


 キィィン!!


 なんとか’ドラゴン’の攻撃を防ぐことができた昴が後ろにいるタマモ達に声をかけた。


「選手交代だ」


 昴の言葉を聞いたタマモが痛みに耐えながら身体を起こす。


「スバル…後は任せたのじゃ」


「あぁ、任せろ。ココ、タマモを頼んでいいか?」


「え、あ、うん。わかったけど…」


 ‘ドラゴン’と鍔迫り合いをしながらこちらの心配をしてくる昴に困惑しながらもココは頷いた。それを気配で察した昴が’ドラゴン’に向けて【威圧】を放つ。それに反応した’ドラゴン’は翼を広げ後ろに下がると、自分の攻撃を受け止めた相手を静かに睨みつけた。


「スバル、今の内に…!」


「あいつは倒す」


「え…?」


「負傷者二人を抱えてあいつから逃げる方が難しいからな」


「僕は全然」


「右肩、上がらないんだろ?」


「っ!?」


 ココがビクッと身体を震わせる。’ゴールデンコンガ’に吹き飛ばされた時に強打した肩が思いの外重症であったため、自慢の弓を持つどころか満足に動かすこともできなかった。


「とにかくそういうことだ。なるべく巻き込まないようにはするがいざって時は防御魔法を張れる準備はしといてくれ」


 ココは諦めたように息を吐くと、魔力を練り始めた。


「これ以上言っても無駄だと思うからもう止めないけど、一つだけ。あの緑の鱗はおそらく’ストームドラゴン’。僕と同じで風魔法を使うと思うよ」


「それだけわかれば十分だ」


 ココはタマモの身体の上に手をかざした。


”癒しの風(ヒールウインド)”」


 ココの手から緑色の風が吹き、タマモの傷を少しずつ癒していく。


「回復魔法も使えたのか」


「水属性魔法には劣るけどね。応急処置くらいはできる」


「そうか、それなら安心して任せられるな」


 昴は’ストームドラゴン’を見据えながら魔力を滾らせていく。


「スバル」


「ん?」


 いつになく真剣な声色のココに昴が顔を向ける。


「死なないでね」


「…任せろ。”烏哭(うこく)”!」


 昴の身体を黒い魔力が包み込む。そんな昴を見て油断できない相手だと判断した’ストームドラゴン’も自身に【身体強化】を施し、後ろ足に力を込め、完全二足歩行になった。


「ゲギャオオオオオオオオオ!!」


 凄まじい咆哮とともに’ストームドラゴン’の周りの風が吹きすさぶ。そこから無数のカマイタチが昴達めがけて放たれた。慌てて防御魔法を唱えようとしたココをタマモが止める。思わずタマモの顔を見たココにタマモが「大丈夫じゃ」と笑顔を向けた。


「あぶない技使いやがって。”鷲風(しゅうふう)”!」


 昴が【黒属性魔法】を詠唱すると、生み出された黒い風がカマイタチを一つ残らず弾き飛ばす。魔法を放った瞬間に動き出していた昴は、既に’ストームドラゴン’の真上に移動していた。そのまま’鴉’を振り下ろすも’ストームドラゴン’の翼でガードされ、体勢を崩す。それめがけて’ストームドラゴン’が尻尾を叩きつけるが、昴は’鴉’で受け流した。叩きつけられた尻尾が地面に亀裂を走らせ、直線上にある木を根こそぎ倒す。


「”飛燕(ひえん)”!!」


 着地と同時に四枚の黒刃を飛ばすが、’ストームドラゴン’の両前脚に全て弾き返される。昴は舌打ちをしながら地面を蹴ると、向かってきた昴を瞳に捉えながら爪を突き立てた。鋭い爪と昴の'鴉'がぶつかり、火花を散らす。はじき返そうとするが、'ドラゴン'の力が思いのほか強く、昴は自ら後ろに飛ぶことにより、その威力を打ち消した。

 想像を超える攻防にココは開いた口が塞がらないといった様子。タマモは一挙手一投足を見逃さないようにじっと二人の戦いに目を向けている。


なかなか倒すことができない敵に苛立ちを感じた’ストームドラゴン’は翼をはためかせ上空へと飛び上がった。豆粒くらいにしか見えないほど上まで飛ぶと、空中で一回転するとそのまま一直線に昴目掛けて急降下してくる。その速度はソニックブームを生じるほどであった。


「逃げるんだ、スバルッ!」


 ココが青ざめながら必死に叫ぶも、昴は逃げるどころか自分も地面を蹴りあろうことか’ストームドラゴン’に向かって行った。’鴉’を持った腕を身体の前で交差させる。


「グォオオォォォオオォォォォオ!!」


「くらいやがれぇぇぇ!!”豪鸞(ごうらん)”!!」


 ‘ストームドラゴン’と衝突する寸前、黒い魔力を纏った’鴉’を思いっきり振りぬいた。猛烈な音を立てながらぶつかり合う両者。その衝撃は森にまで伝わりあたり一帯の木々が吹き飛ぶ。わずかに昴の方が押し勝ち、‘ストームドラゴン’を斬りとばした。


「………すごい」


「そうなんじゃ!スバルはすごいのじゃ!」


 目の前で起こる信じられない光景を呆然と見ていたココの口から自然と言葉が零れる。それを聞いたタマモが自分のことのように喜んだ。

 昴は綺麗に着地すると”烏哭(うこく)”を解除しながらココの元までやってくる。


「本当にすごいね、君は。’ドラゴン’を無傷で倒しちゃうなんて…」


「ん?あー今回は相手が相手だったから久しぶりに本気を出したけどな」


「…そうなんだ」


 涼しい顔で言った昴を見てココが乾いた笑いを浮かべる。


「終わったのかの?」


 ココの回復魔法によりだいぶ良くなったタマモが立ち上がりながら聞いた。


「あぁ。今回は大技を使ったからな。流石の奴も…って思ってたんだがな」


 二人は昴が目を細めた先に顔を向けるとそこには片方の翼が折れ、ボロボロの状態で立ち上がる‘ストームドラゴン’の姿があった。ヨロヨロとふらついているも、その目にはまだ力強い意思が宿っている。


「とりあえずトドメを…ん?」


 昴が’鴉’を構え直すと、‘ストームドラゴン’が四つん這いになり口を大きく開いた。それを見たココが叫び声をあげた。


「スバル!!あれはやばい!!”竜の咆哮(ブレス)”がくる!!!」


「”竜の咆哮(ブレス)”?」


 ココから詳細を聞こうとしたが、’ストームドラゴン’から放たれる尋常じゃないほどの魔力がそれを許さなかった。


「確かにあれはやばいな」


 昴の背中に冷たいものが流れる。とにかくありったけの魔力を、と身体に魔力を滾らせ始めた。


「…二人とも俺から離れるなよ」


 その言葉を聞いたココとタマモは頷いた。目の前にある恐怖に身体を震わせ、ココは無意識のうちに昴の背中にしがみつく。それに少し戸惑いながらも昴は両手を前にかざした。


「ギャオォォォオオオオォォォォオオオォォォオ!!」


 魔力の充填を終えた’ストームドラゴン’が凄まじい咆哮とともに口から”風竜の咆哮(ストームブレス)”を放つ。それは全てを塵にする風の奔流であった。昴はギリギリまで魔力を練り上げ、全力で魔法を唱える。


「”雉晶(ちしょう)”!!」


 タマモ達を”風竜の咆哮(ストームブレス)”から守るべく、目の前に大きな黒い盾が出現しさせる、が直撃した直撃した瞬間”雉晶(ちしょう)”に無数のヒビが入った。


「ぐ、ぎぎぎぎ」


 かざした両腕から血がほとばしるのも気に留めず、ヒビが入ったところを即時修復しながら昴が”風竜の咆哮(ストームブレス)”を押し返そうとする。しかし修復する速度よりも”風竜の咆哮(ストームブレス)”が盾を破壊速度の方が若干早かった。


「こ、れは、き、厳しい、か!?」


 昴は額に血管を浮き上がらせながら最後の力を振り絞る。腕を下ろしそうになるも、気力で伸ばし続けた。


 パキンッ!


 昴の”雉晶(ちしょう)”が砕けるのと’ストームドラゴン’の”風竜の咆哮(ストームブレス)”が止むのと、ほぼ同時であった。’ストームドラゴン’は憎々しい目つきで昴を睨むと、そのまま崩れるように倒れ伏す。それを見た昴は身体から力が抜け、地面に膝をついた。


「「スバル!」」


「大丈夫…ちょっと疲れただけだ」


 昴が笑顔を向けると二人ともホッと息をついた。ココも緊張から解放されたのか、昴の隣にペタンと腰を下ろす。


「まったく…本当に君には驚かされるよ」


 ココは傷だらけの昴の腕を優しく掴むと”癒しの風(ヒールウインド)”を唱えた。


「サンキュ」


「僕にはこんなことしかできないから」


 ココが自嘲した笑みを浮かべる。昴が何か声をかけようとしたらタマモが背中に飛びついてきた。


「のうのう!やっぱ’ドラゴン’は強かったかの!」


「あー…タマモじゃ魔法ありでもきついんじゃねーか?もう少しレベルが上がればわからんけど」


「くーっ!!修行あるのみってことじゃな!!」


 昴と’ストームドラゴン’の戦いを見て触発されたタマモが鼻息を荒くしている。それを見て思わず苦笑する昴にココが声をかけた。


「あの…二人に相談があるんだけど…」


「ん?なんだ?」


「’ゴールデンコンガ’を倒したのはタマモだし、’ストームドラゴン’を倒したのはスバルだからこんなこと言うのはお門違いだと思うんだけど…」


 どこか言いづらそうにしているココを見て二人は首をかしげる。しばらく逡巡した後、ココは意を決して頭を下げた。


「素材はすべて二人が好きなようにしていいから’ゴールデンコンガ’のコアだけは僕に譲ってくれませんか?」


 ココの必死の懇願に、二人は顔を見合わせた。


「えーっと…何言ってんだ?」


「えっ?」


 昴の言葉を聞いてココが悲痛な表情を浮かべる。


「俺らの依頼は〔ココの護衛〕なんだからハナから素材なんてもらう気ねーぞ?」


「のじゃ!」


 タマモも当然とばかりに大きく頷いた。ココは一瞬呆けていたがみるみる目に涙をためて何度も何度も頭を下げる。


「ありがとう…本当にありがとう」


「いや頭なんか下げなくていいって!そんなに欲しかったのか?」


 予想外のココの反応に昴が狼狽えながら尋ねると、ココは目尻をぬぐいながら笑った。


「うん。あれは僕にはとても大切なものなんだ」


「大切なもの?」


 タマモが不思議そうに聞くも、ココは笑ってはぐらかすだけであった。昴はそんなココを見て、これ以上追求しても無駄だと悟り伸びをしながら立ち上がる。


「それで、’ゴールデンコンガ’の方はわかったけど、’ストームドラゴン’の方はどうするよ?」


「それはスバル達の物だよ!基本的に素材は倒した物の所有物になるからね」


「そういうもんなのか…じゃ、ありがたく頂戴するか!」


「のじゃ!」


 昴とタマモは’ストームドラゴン’の方へと歩いていく。ココは近くに放置されていた黒焦げの’ゴールデンコンガ’の死体からコアを抜き取った。それを両手で持ち、大事そうに胸に抱える。

 離れたところからその光景を見ていた昴は、少し考えごとをしてから’ストームドラゴン’の死体をまるまる”アイテムボックス”にしまった。


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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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