12.ゴールデンコンガ
‘ゴールデンコンガ’と対峙するタマモ。獲物を仕留めるのを邪魔された’ゴールデンコンガ’は明らかに苛立っていた。
「ウホッ!!ウホッ!!ウホォォォォォ!!!」
’ゴールデンコンガ’が力強く胸を叩く。ただドラミングをしているだけなのに、その衝撃で周囲の木の葉が吹き飛んだ。タマモはすっと目を細めると両手に炎の爪を作り出す。
「…【無詠唱】までできるなんて本当に何者なんだい、君たちは?」
ココが隣に立つのを気配で感じるが、タマモは目を向けない。目の前にいる相手はその一瞬の隙で自分たちに致命傷を与えられる。
「勝てるかい?」
「…どうじゃろうな。魔法を駆使すればおそらくは…。ただうちの【火属性魔法】は森の中じゃ使えんからのう。どうしたもんか」
口ではそう言っているのに顔には楽しげな表情が浮かんでいる。今まで見たことのない強敵にタマモは高揚していた。もう’ベヒーモス’相手に逃げ回っていたタマモではない。
「スバルは?」
「スバルは近くで見ているとは思うがの、おそらく手は出さないと思うのじゃ」
「え?」
信じられないといった顔でココがタマモを見る。
「なんで!?全員でかかればなんとかなるかもしれないのに!」
「なんでかって?」
タマモが身をかがめ足に力を貯める。
「うちがそう望んだからじゃ!!!」
その言葉と同時にタマモが思い切り飛びかかる。’ゴールデンコンガ’は両手で地面を叩くと、隆起した地面でタマモとの間に壁を作った。タマモがその壁を炎爪で切り裂くと、そこには’ゴールデンコンガ’の姿はない。
「後ろっ!!」
ココの叫び声に反応し、身をひねりながら繰り出したタマモの蹴りを’ゴールデンコンガ’が拳で弾き飛ばす。吹き飛んだタマモを追撃しようとしたが、その行く手を三本の矢が阻んだ。
「敵はタマモだけじゃないよ!」
左手に十本の矢を持ち、ココは飛び上がった。
「’疾風の射手’の名は伊達じゃないってところを見せてあげる!!」
ココが高速で矢を連射する。その十本の矢はあたかも同時に放たれたかのように’ゴールデンコンガ’に襲いかかった。’ゴールデンコンガ’はうっとおしそうに右手を振るとその風圧だけで矢が吹き飛ばす。
「まだだよ!”風の妖精の悪戯”!!」
矢を打ちながら溜めていた魔力を解放する。’ゴールデンコンガ’の周りに風が吹き、地面に落ちていた矢が意思を持ったように宙を舞った。
「ウホッウホォ!!」
手で弾いても何度もこちらに向かってくる矢に’ゴールデンコンガ’はいら立ちを募らせる。ココは手をかざし、風を使って矢を操作していた。思わずその場を離れようとジャンプした’ゴールデンコンガ’を十本の矢が追って行った。忌々しそうに矢を見つめ、やってくる矢を空中で力任せに殴り折る。これで矢は来ないとニヤリと笑みを浮かべた’ゴールデンコンガ’は何かの気配に気づき顔を上に向けると、そこには両手を組み高く振り上げたタマモの姿があった。
「でやぁぁぁぁ!!」
タマモが掛け声とともに’ゴールデンコンガ’の頭に両手を叩きつける。流星のように落ちて行く’ゴールデンコンガ’。ドゴォン!と凄まじい音を立て地面と衝突し、クレーターを作りながら辺りに砂埃が立ち上がった。
「倒したの?」
自分のそばに着地したタマモにココが声をかけるとタマモは首を左右に振った。
「手ごたえはあったがの、おそらくまだじゃ」
砂埃の中ガラッという音がし、二人がそちらに目を向けると、’ゴールデンコンガ’が首を振りながら立ち上がるのが見えた。こちらにゆっくりと近づいてくるその目は明らかに血走っている。
「ウホォオォォォォォォォォ!!!」
雄叫びとともに’ゴールデンコンガ’の身体に魔力が滾る。それを見た二人が目を見開いた。
「これは…【身体強化】!?」
「まいったのう…スキルなしであの動きなのか」
タマモのこめかみから一筋の汗が流れる。’ゴールデンコンガ’はグッと地面を掴むとそのまま消えた。と思ったのもつかの間、近くの木が音をたたえ倒れる。
「えっ?えっ?」
何が起こっているのかわからないココは辺りをキョロキョロと見回した。その間にも何本もの木が倒れて行く。タマモも目を凝らすが’ゴールデンコンガ’の姿を捉えることができない。その瞬間タマモの【第六感】が発動、咄嗟に顔の前で両手を交差させると、’ゴールデンコンガ’の超高速ラリアットが炸裂する。防御をしていたタマモをあざ笑うかのようにココもろとも吹き飛ばし、二人はまともに木に叩きつけられた。
「ぐっ…」
「い、いったい何が…」
よろよろと立ち上がる二人の視界にはまたしても’ゴールデンコンガ’の姿はなかった。
「お、おそらくじゃが、周りの木を殴ってその反動を利用して加速しておるようじゃ…」
タマモが口についた血をぬぐいながら言った。ココは今の攻撃で痛めた肩を抑えている。
「ホントめちゃくちゃな魔物だね…」
肩で呼吸しながらココが魔力を練る。
「気休めくらいにしかならないけど…”風の甲羅”」
ココとタマモを守るように風が包み込んだ。
「これで少しは防御できると思うけど、どうする?」
ココがタマモに問いかけるが、答えを持ち合わせていない。そうしている間にも'ゴールデンコンガ'は間髪なく攻撃を仕掛けてくる。完全にタマモを敵と見越したのか、ココには一切目もくれなかった。
何度も'ゴールデンコンガ'の拳をうけながら、それでもタマモの瞳にはまだ光が残っていた。
「もう少し…もう少しなのじゃ」
タマモは必死に’ゴールデンコンガ’の動きを見切ろうと目に力を込める。
「…ここじゃっ!!」
タマモが真横に飛ぶと、今までタマモがいた場所に拳が突き立てられる。地面に埋まった拳を引き抜ことする’ゴールデンコンガ’の隙を見逃さず、タマモが炎爪を振り抜いた。しかし【身体強化】された’ゴールデンコンガ’の身体は先ほどとは比べられにほど硬く、タマモの攻撃をたやすく弾き飛ばした。
「”風切り刃”!!」
ココの手から放たれる無数の風刃も傷を与えるには至らない。’ゴールデンコンガ’は腕を引き抜くと距離をとり、威嚇するように咆哮を上げた。
「だめだ!全然攻撃が通らない!どうしよう、タマモ!?」
焦りを隠せないココがタマモの方を向くと、タマモは自分の手を見ていた。
「タマモ?」
「…ちょっと無理をするからココには離れておいて欲しいのじゃ。さっきの防御魔法もかけておいて欲しいのう」
「え?無理って?ちょっとタマモ!?」
混乱するココをおいてタマモは魔力を練りながら’ゴールデンコンガ’へと駆け出す。’ゴールデンコンガ’は迎撃すべく腕を振りかぶった。先ほど’ゴールデンコンガ’の動きを見切った時に習得した【動体視力】のスキルを発動し、突き出された拳を間一髪で躱す。そのままタマモは’ゴールデンコンガ’の懐に入り込み、両手の拳を相手の胸に添え魔力を解き放った。
「これで最後じゃ!”零距離爆発”!!」
範囲ではなく威力に特化した爆発、それが術者を巻き込んで引き起こった。凄まじい爆風が周りの木々をなぎ倒す。タマモに言われ、”風の甲羅”を唱えていたココも思わず腕で顔をかばった。爆風が止むやいなやココは慌ててタマモの元へと駆け寄る。
「タマモッ!!」
倒れているタマモを抱きおこすとタマモはぎこちない笑みを浮かべた。
「うぬぅ…ちょっと無理しすぎたのじゃ…身体中が痛いのじゃ」
傷は負っているものの命に別状はないとわかり、ココはほっと息を漏らす。
「やつはどうなったかのう…?」
「大丈夫!ちゃんとタマモがやっつけたよ!だから安心…」
顔をあげたココは言葉を失った。タマモから少し離れたところで’ゴールデンコンガ’の無残な姿で倒れている。しかしココが絶句したのはそれを見たからではなく、その先にいるものを目にしたためである。
「あっ…あっ…」
言葉にならない悲鳴をあげるココ。そんなココにはお構いなしで、そいつはゆっくりとこちらに近づいてきた。体長は十メートルほど、鱗に覆われた爬虫類を思わせる体、鋭い爪と牙を携え、背中にある大きな翼は今は畳まれている。
ランクSモンスター、’ドラゴン’。
伝説とも呼べる代物を前にココは一切動くことができなかった。’ドラゴン’は’ゴールデンコンガ’の死体を一瞥すると、ココとタマモを見つめる。ゆっくりとこちらに近づいてくるとおもむろに前足を振り上げる’ドラゴン’見たココは自分の死期を悟ったかのようにそっと目を閉じた。
キィィィン!!
金属同士がぶつかる音が響き渡り、ココは目を開ける。そこには黒いコートをなびかせた男が、黒い小刀で’ドラゴン’の爪を抑えていた。
「選手交代だ」
そこには不敵に笑う昴の姿があった。




