10.四大貴族
まさかの依頼人に言葉を発することができない昴とタマモ。そんな二人を楽しそうに眺めるココ。詳しいことはわからないが二人を見てなんとなくの事情を察したランキス。
その中でいちばん最初に言葉を発したのはランキスであった。
「あー…お前ら顔見知りみたいだから後は勝手にやってくれ。つーか出て行け」
その言葉は意外と辛辣だった。
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「まさか貴族だったとはな…」
昴は隣を歩くココに話しかける。ココの姿は以前見たような格好に戻っており、なんでも二人を驚かせるためにわざわざドレスを持ってきたらしい。ココは応接室で早着替えをした後、なんの依頼か詳しく聞かないうちに、勝手に依頼を登録してしまった。依頼の詳細は移動がてらに話すと言うことだった。
「ふふん、驚いたかい?」
自分の仕掛けたドッキリがうまく言って上機嫌なココ。
「うむ!ドレス似合っていたのじゃ!すっごい綺麗だったのう!」
「ありがと、タマモ。でも僕はあんまりドレス好きじゃないんだ」
「そうなのか?」
「動きにくいからね。あんなの着てたら一瞬であの世行きさ!」
ココが軽い感じで恐ろしいことを言うと、タマモは納得したように頷いた。
「…それで?依頼ってなんなんだよ」
依頼を登録された手前、もう断ることができない昴は半ば投げやりに尋ねる。
「だめだよスバルくん!せっかくの冒険なんだからもっと楽しそうにしなくちゃ!」
「そうだぞ、スバル!笑顔じゃ!笑顔!」
「…ったく誰のせいでこんな気持ちになってると思ってんだ」
昴の愚痴は二人の耳には届かない。
「これからどこに行くのじゃ?」
「君達も行ったことのあるあの森に行くのさ」
「’コンガ’の森か?なんのために?」
前を歩いていたココが振り返り、腰に手を当てビシッと人差し指を立てる。
「ずばり、今回の依頼がその森に住む’ゴールデンコンガ’に関することだからだよ!」
「「’ゴールデンコンガ’?」」
二人の頭に疑問符が浮かぶ。ココはふっふっふ、と笑うと自慢気に語り始めた。
「’コンガ’を知らなかった君達なら知らなくて当然だけど、’ゴールデンコンガ’は’コンガ’の進化種さ!魔物の中には稀に進化を遂げる特別な才能を有する者が生まれることがあるんだ」
昴はガンドラで倒した’ゴブリンキング’を思い出した。確か解体屋のガンテツも’ゴブリン’が進化した奴だと言っていた。
「’ゴールデンコンガ’は’コンガ’とは比べられないほど戦闘力が高いんだ。そのため群れで’ゴールデンコンガ’が生まれると自動的にそいつが群れのボスになる。君達が倒した’コンガ’の群れのボスも’ゴールデンコンガ’だよ」
「とは言ってもそんな奴見当たらなかったよな?」
「のじゃ!全員同じような強さだったのじゃ!」
昴が確認するようにタマモに視線を送ると、タマモは首を縦に振った。
「そこなんだ。群れる習性がある’コンガ’達はボスの命令には絶対だと聞く。そんな彼らがボスの元を勝手に離れたとは考えにくい。…前に僕がした’コンガ’の説明は覚えてる?」
「えーっと…見た目がゴリラで…腕が太くて…」
うーん、と唸りながら腕を組み、必死に思い出そうとするタマモの横で、昴は何かに気づきハッとした表情を浮かべる。
「…森の奥に住んでいる魔物。だが俺たちが奴らにあったのは」
「森の入り口付近だよね?そりゃ一匹二匹がそこらで見かけられたってのは結構あるんだけど、群れ単位でしかも、ボス不在でっていうのは今回が初めてなんだ」
「なるほどな…あん時は別に気にならなかったけど確かに妙な話だな」
「そうだろ?だから僕はその原因を調査するために森に行くのさ。君達の依頼は僕の護衛。なんて言っても’ゴールデンコンガ’のランクはA。やつを討伐するのが目的じゃないけど、僕一人じゃ不安だからね!」
ココの目的はわかったが、昴は違和感を感じていた。
アレクサンドリアにいた時、本来、森の奥にいるはずである魔物が入り口付近に出没するということで自分達異世界人を連れて調査に乗り出した。普段とは異なることがあれば、その原因を探るというのは納得がいく。昴が納得できないのは、
「事情はわかった。ただ一つ疑問がある」
「なんだい?」
「なぜそれをココがやらないといけないんだ?」
「っ!?」
昴からの思いも寄らない質問にココは答えに窮する。
「これが冒険者ギルドからの依頼ってんなら頷ける。なのに一冒険者でしかないココがその原因を調べに行くってのがなんとなく腑に落ちなくてな」
「…それは僕が一介の冒険者じゃないからだよ」
「それはココが貴族だっていうのと関係があるのか?」
「察しが良くて助かるよ」
昴の言葉を聞いてココが力なく笑った。
「僕が調査に乗り出す理由は町を出てからにしようか?」
話をするのに夢中だったせいか、昴達はいつの間にか町の入り口にたどり着いていた。
町を出る手続きを終え街道を歩きながらココが話の続きをする。
「王国の方はどうなのかは知らないけど、この帝国には四大貴族と呼ばれる家があるんだ。それぞれ東西南北に分かれていて、恵まれた大地の恩恵を受ける東のグリモア家、厳しい自然が広がる西のスペリオール家、いちばん魔族領に近い北のエデンブルク家、そしてここ南のエルシャール家。それぞれの貴族がその地を治めているんだ」
「治めているのは帝国じゃないのか?」
「帝国は四大貴族を取りまとめているのさ。それの方が効率がいいからね」
「なるほどな」
昴は納得したように頷くが、隣のタマモはよくわかっていない様子だった。それぞれの地域に管理する長を作り、その管理者を統括する者がいる、なんとなく元の世界の会社の体系に似ていると昴は思った。
「それでこの地を収めるエルシャール家として森の調査の調査を行うってわけか」
「その通り。僕は次期当主だからね」
自信満々に胸を張るココの姿が、なぜだか昴には無理をしているように見えた。
「よくわからなかったけど、ココは偉いってことかの?」
「そうだよ!」
「ほー!ココはすごいのじゃ!!」
タマモがキラキラした瞳でこちらを見てくるので、ココは少し照れくさそうな笑みを浮かべた。
「それにしても女性で当主ってのはすごいよな」
「え?」
「いや、なんか俺の勝手なイメージで男が家を継いで女は嫁ぐって思ってたからさ」
昴の言葉を聞いてココの顔に一瞬陰りが見えたが、すぐに咎めるような表情に変わる。
「その考え方は好きじゃないな。ここは帝国、強いものが力をもつ地域なんだよ?性別は関係ない」
「そうだったな。わりぃ」
すぐに謝罪した昴にココが笑顔を向ける。
「さてと、そろそろ森につくね。今回は森の奥の方まで行くことになるから二人とも気を引き締めてちゃんと僕を守ってくれよ!」
「へいへい、しっかり守らせていただきますよ」
「まかせるのじゃ!」
普段と変わらない様子の昴と気合十分のタマモ。そんな二人を見てココは満足そうに頷く。
こうして昴達は再び森へと足を踏み入れた。




