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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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9.ルクセントのギルド長

 翌日の早朝、ルクセントでも港で市が開いてるとのことだったので、二人は港に赴いた。港では新鮮な魚介類が売っており、それを焼いたり捌いたりしている屋台もあったので、二人は朝食として刺身や串焼きを食べることにした。タマモは全て美味しそうに食べていたが、昴は、特に刺身を食べるときは、醤油がないことを猛烈に悔いていた。

 お腹いっぱい朝食を堪能した二人は満腹感からくる眠気を振り払いながら(タマモに関しては最後まで宿で眠りたい、と駄々をこねていたが)冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに入ると、まだ所々壊れているが、営業をするには問題ないくらいに修復されており、二人を驚かせた。ルクセントの冒険者は朝に弱いのか昴達を除くと二,三人ほどしかおらず、昨日の事件を知らないのか昴を見ても特に何の反応も示さなかった。

 昴はカウンターにいたサガラに声をかける。心なしか昨日よりも服装が派手な気がするが気のせいだろう。


「おはよう、サガラ」


「おはようなのじゃ!」


「おはようございます、'ジョーカー'様、タマモ様」


 サガラが笑顔でお辞儀をする。どうやら作り笑いはやめてくれたようだ。それはいいのだが、挨拶された二人は不服そうな表情を浮かべる。


「サガラ…その様付けやめてくれ。あと昴でいいって」


「なんかムズムズするのじゃ」


「そう言われましても…」


 サガラが困った顔をするも、二人の顔にはますます不満が広がる。そんな二人を見て、サガラは諦めたように息をついた。


「わかりました…ではスバルさん、タマモさんと呼ばせていただきます」


「それで頼むわ」


「のじゃ!」


 案外早くサガラが折れてくれたので、二人は満足そうに頷いた。


「それじゃさっそく…」


「お待ちください」


 依頼を受けるため冒険者カードを取り出そうとした昴をサガラが止めた。


「王国からいらしたランクA冒険者のスバルさんに当ギルド長が挨拶をしたいと言っておりまして。お会いしていただけますか?」


「………あ」


 昴は他の冒険者ギルドを訪れた時はちゃんとギルド長に挨拶するように言われたことを思い出す。


「やっべ…昨日のうちに挨拶に行っておくべきだったよな」


 頭を掻きながら昴が言うと、サガラは朗らかな笑みを浮かべた。


「他のギルド長のことはわかりませんが、ルクセントのギルド長はそう言うことは気にしません。ただ…」


「ただ?」


「当ギルド長は…その…力こそ正義みたいな思想といいますか…とにかく強ければいいというお方なので…その冒険者が強いかどうか確かめるのが趣味といいますか…」


 サガラが少し困った表情をしながら言葉を濁す。それを聞いた昴が軽くため息をついた。


「なるほどな…会ったら喧嘩売られるかもしれないってことか」


 サガラが申し訳なさそうに頷く。


「まぁ、相手が会いたいって言ってんなら断るわけにはいかないよな。サガラ、案内頼めるか?」


 サガットとは違うタイプで面倒臭そうだ、と内心愚痴りながら会いに行く覚悟を決める。サガラは会ってもらえるという喜びと、会わせない方がいいのかもという不安とが入り混じっており、複雑な表情でカウンターから出て併設されている酒場の方へと向かった。そのまま酒場を突っ切ると、奥にある扉をあける。

 扉の外は冒険者ギルドと並んで立っていた建物の裏手にあたり、冒険者の訓練場となっていた。なんで訓練場に案内されたのだろうか、と疑問に思っていると、訓練場の隅っこにある木の小屋が目に入った。


「えーっと…まさかとは思うけど…?」


 昴が恐る恐るサガラに問いかけると、サガラは平然と頷いた。


「あのボロ小屋…失礼、あそこがギルド長室になっております」


「ずいぶん変なところにいるんじゃのう」


 タマモがサガットがいた部屋を思い出しながら首をかしげた。そのままサガラについていき小屋の前に着くと、扉を開けようとしたサガラを昴が止める。


「スバルさん…?」


「タマモ、サガラ、少し下がってろ」


「のじゃ」


「えっ?えっ?」


 タマモは状況がよく呑み込めていないサガラの手を引きながら、小屋から少し離れた場所まで移動する。昴はゆっくりと息を吐くとドアノブに手をかけ勢いよく扉を開けた。その瞬間、弾丸のような速度で繰り出された飛び蹴りが昴の顔面を襲う。攻撃を予期していた昴は状態を反らし、それを回避した。昴を攻撃した人物は着地するやいなや地面を蹴り、その勢いを利用して昴に回し蹴りをかます。昴はその足刀に手を添えて軌道を変えると、その場で一回転し上段蹴りを放つ。謎の人物は昴の蹴りを手で受けるがその勢いを殺すことができず、ズザザーッと地面を滑っていった。


「…ってぇぇぇぇぇぇ!!!」


 謎の人物は痺れる腕の痛みを緩和させようとブンブン振りながら、フーフーと赤くなったところに息をかける。一瞬の出来事に呆気に取られていたサガラであったが、我にかえると慌てて謎の人物の元へと駆け寄った。


「何やってるんですか!?ランキスギルド長!?」


「あー?俺流の挨拶だよ、挨拶!」


 ランキスはうっとおしそうに答えるとサガラを手で追い払う。もう襲って来ないだろうと昴が構えを解くと、目の前のギルド長に内心驚いていた。


(まさか女だったとは…)


 サガラの話じゃギルド長はかなりの脳筋野郎とのことだったので、昴はてっきり男だと思っていたのだが、ランキスは虎人種の女性であった、しかもかなり綺麗な部類。上半身は凶器のような大きさの胸を褐色の肌に映える白いサラシで乱暴に押し付けているだけでそれ以外には何も身につけていない。下はホットパンツを履いており、その美貌と相まってかなり目のやり場に困る格好をしていた。

 ランキスは昴に近づくと、大きな声で自己紹介を始めた。


「おーお前がスバルか!俺はルクセントの冒険者ギルド長をやってるランキスだ!よろしくな!」


「俺はスバル。しかしいきなり襲いかかって来るとは…」


「あれはこの冒険者ギルドの流儀みたいなもんだ!気にすんな!」


 ニカッと笑顔を向けられ手を出されると、昴はすっかり毒気を抜かれてしまった。小さくため息をつくとランキスの手を握り返す。


「しっかしあれだな…総ギルド長から話を聞いた時には眉唾もんだと思ったが…」


「総ギルド長?」


「ガンドラの街の冒険者ギルド本部を統べるサガット総ギルド長のことだ」


「あぁ…やっぱあの(じじい)、偉かったんだな」


 軽口を叩く昴にランキスは目を丸くする。


「おいおい…確かに底意地の悪い、いけ好かねぇじぃさんだけどよ。あれでも元ランクS冒険者だぞ?その呼び方は失礼だろ」


「あんたの方が失礼だよ…」


 悪びれもせずに言い放ったランキスに昴は呆れた視線をぶつける。


「まぁ、総ギルド長から強い奴がうちに来るって聞いてたんだが…」


 サガラが昴の顔を見ながらニヤリと笑う。


「お前バケモンだな。いや一応これは褒め言葉のつもりだけど」


「…嬉しくねーな」


 昴が肩をすくめると離れて見ていたタマモが駆け寄ってきた。それを見たランキスはタマモに声をかける。


「おぉ!そっちのちっこいのがタマモか!!俺はランキスだ!」


「うちがたまもじゃ!!ちっこいは余計じゃのう」


 唇を尖らせるタマモをランキスがじっと見つめる。


「…なるほどな。お前もかなりやるみたいだな!いつか手合わせしてみたいぜ!」


「ぬ?見ただけでわかるのか?」


 タマモが少し驚いた表情を浮かべる。


「亜人族ってのは強さに敏感なんでね。まぁお前もいずれわかるようになるだろうよ!それはそうと…」


 ランキスは突然に地面にあぐらをかき、両手を地面につけて頭を下げる。


「うちの愚弟が迷惑かけた!すまん!」


 あまりに男らしい土下座に狼狽える二人。謝られている理由が皆目検討つかない。


「ギルド長、言葉足らず過ぎてお二人に全く伝わっていません。スバルさん、タマモさん、昨日の騒動の時、一番初めに前に出てきた虎人種の男を覚えていますか?」


 ギルド長の奇行に一切動揺せずにサガラが昴たちに問いかけた。二人は戸惑いながらもそれに答える。


「あー…そういやいたな」


「昴がお腹にどーんってやったやつじゃな」


「その男ランデルはギルド長の弟なのです」


「「えっ!?」」


「なっはっは!まっそういうこった!」


 衝撃の新事実に二人が目を見開いてランキスを見ると、当の本人は豪快に笑っていた。


「ランデルのやつは俺がしっかりボコボコにしてやったから水に流してやってくれ!な?」


「あ、あぁ」


「わ、わかったのじゃ」


 ランキスの勢いに若干たじろぎながら二人はコクコクと首を縦に振る。ランキスは自分の膝をバシッと叩くと「ありがとな!!」と、礼を言いながら立ち上がった。


「さーて、お前ら二人への謝罪も済んだことだし、こっからは中でギルドに関する話をしようか!」


 ランキスは親指で後ろの小屋を指差した。


「ギルド長、私は?」


「サガラはもう戻っていいぞ!ご苦労!」


「かしこまりました。お二人ともギルド長の話が済みましたら依頼を斡旋いたしますので是非いらしてください」


「あー…斡旋は必要ないぞ?登録はしてもらうがな」


 ランキスの言葉を受け、少し驚いた顔をしたサガラであったが、すぐにいつもの表情に戻った。


「…そういうことですか。ではスバルさん、タマモさん、後ほど」


 そう言うと頭を下げ、サガラは建物に戻っていった。


「よし、いくぞ!ついてこい!」


 意気揚々と前を歩き出したランキスについて、二人は木の小屋の中に入っていった。


 ルクセントのギルド長室はシンプルであり、ランキスの机と木の椅子が二つ置いてあるだけであった。机の上にある書類の量も明らかにサガットのところよりも少ない。室内に扉があるので、隣に応接室があるのだろう。昴はその部屋に誰かがいるのを感じとった。


「それで?ギルドの話ってのは?」


 ランキスに促され椅子に腰を下ろしながらが昴が問いかける。ランキスも自分の席に座った。


「あぁ、お前ら二人に…正確には’ジョーカー’、お前に指名依頼が入っている」


 ランキスに二つ名で呼ばれた昴はあからさまに嫌そうな顔をした。それを見てランキスが苦笑いを浮かべる。


「そんな顔をするな。お前が二つ名をよく思っていないことは総ギルド長から聞いているが、今はギルド長としての正式な話をしている。勘弁しろ」


「…続けてくれ」


帝国側(こっち)の事情に詳しくないだろうから簡単に話すと、帝国の貴族がお前に依頼したいと言ってきている」


「貴族が?」


「あぁ。しかもかなりのお偉いさんだ」


 昴は顎に手を添えて眉を顰める。


「その表情を見るに心当たりは…」


「ないな」


「だろうな」


 きっぱりと言い切った昴を見て、ランキスは頬杖をついた。


「…指名依頼を断るってのは?」


「できなくはないが…お前は面倒臭いことが嫌いらしいな」


「その通り。その指名依頼からは面倒くさい匂いがプンプンしてくる」


「指名依頼なんてそんなもんだ。ただ今回の指名依頼は普通のとはワケが違う。帝国のトップに君臨する貴族様からの依頼だ。その依頼を断るってことは…」


 ランキスはあえてそこで言葉を切る。そこから先は言われなくても容易に想像がついた。…どう考えても断った方が後々面倒臭いことになる。

 昴が諦めたように大きくため息をつくと、ランキスは愉快そうに立ち上がった。


「詳しくは本人から直接聞いてくれ」


「ってことは隣にいるのがその貴族様ってことか」


「そういうことだ」


 ランキスが応接室の扉をノックすると、扉が静かに開けられた。現れた人物を見て昴とタマモが思わず絶句する。


「初めまして。私は帝国が誇る四大貴族のうちの一つ、エルシャール家次期当主。ココ・エルシャールと申します」


 そこにはドレスを身にまとい、微笑を浮かべるショートカットの少女の姿があった。


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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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