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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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8.雨降って地固まる

 ルクセントに戻ってきた昴達は真っ先に冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドには治療のためルクセントの教会から派遣された神官たちが汗を流しながら怪我人を運んでいる。それを横目で見ながら素知らぬ顔で冒険者ギルドに入っていき、カウンターにいるサガラに声をかけた。


「依頼を終えてきたぞ」


 極力刺激しないように声色を気にしながら簡潔に用件を述べる。にもかかわらず昴を見たサガラはビクッと背筋を伸ばすと、携帯のバイブレーションのようにブルブルと震えはじめた。


「えーっと、聞いてる?」


「は、はひっ!?」


 一言発するたびにビクッとするサガラにうんざりしながらも話を進める。


「だから依頼を終えてきたってば」


「か、かか、かしこまりました!」


 サガラがものすごい勢いで頭を下げた。そして助けを求めるようにチラリと横を見るも、他の受付の女性たちは自分の書類をがん見して絶対に目を合わせようとしない。みるみる目に涙をため始めたサガラが多少不憫に思えてきた昴は早くここから退散しよう、と”アイテムボックス”から’コンガ’のコアを十五個取り出し、自分の冒険者カードと一緒にカウンターに置いた。サガラはオドオドしながらカウンターに置かれたものを見て、カウンターに置かれたものが’コンガ’のコアだと分かると目を見張らせた。


「えっ、うそ…まさかこんな短時間で…」


「依頼はこれで達成だからさっさと換金してくれ」


「は、はい!わかりました。’コンガ’のコア一つ2ゴルで買い取りますけどよろしいですか?」


「あぁ。かまわないよ」


 昴の了承を得たサガラは置いてあるコアを一つ残らず裏へと運んでいった。サガラを待つ時間、暇だったので酒場の方に目を向ける。怪我人の移送は終わったようだが、いたるところが壊れており、昴の目から見ても悲惨な状況であった。大工が四、五人ほどで補修をしているが、すぐに営業再開することができるかと聞かれると微妙なところであった。

 昴が人知れず反省していると硬貨を持ったサガラが戻ってくる。


「お、お待たせいたしました。コア十五個分の30ガルになります」


「ん、助かるよ」


 サガラの金貨を渡す手が震えていることが、あえて気づかないふりをしてさっと受け取る。


「あ、あの…!」


 そのまま踵を返した昴をサガラが遠慮がちに呼び止めた。振り返ると、なにやらもじもじもじしているサガラを見て、昴が不審がる。


「なに?」


「えーっと…あのですね」


 正直お金が入ったのでさっさと宿に行きたい昴がぶっきらぼうに尋ねるとサガラは目を左右にきょろきょろと泳がせ始める。ますます不審に思いながらサガラを見ていると、さっきと同じように勢いよく頭を下げた。


「先程は大変失礼いたしました!」


「は?」


 いきなりの謝罪に昴は目を丸くした。サガラは顔を上げ、身体を震えさせながらも昴の目をしっかりと見据える。


「知らなかったとはいえ、スバル様のような実力ある冒険者を蔑むような真似をしたことを心から反省しております!」


「……………」


 昴は無言でサガラの目を見つめる。鋭い視線を向けられ、怯みながらもサガラは懸命に昴の目を見つめ返す。


「…タマモ!!」


 酒場で修復作業を興味深そうに見ていたタマモをおもむろに呼び寄せた。タマモは不思議そうな顔をしながらもトコトコと小走りで昴の隣にやってくる。昴の意図が分かったサガラは今度はタマモに対して深々と頭を下げた。


「タマモ様に対しても失礼な言動を取ってしまったこと心からお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」


 タマモは驚いて昴の顔を見た。昴はゆっくりと頷く。


「もう過ぎた事なのじゃ!そんなに気にせんでいいぞ!」


「…タマモもこう言っていることだし、こうやって誠意をこめて謝ってくれたんだからこれでこの件はおしまい」


 昴が優しくそう告げると、サガラが救われたような顔をする。


「と、まーサガラが謝ってくれたんなら」


「うむ!」


 昴とタマモがお互いに目配せをし、同時に頭を下げた。


「「暴れすぎてすいませんでした(のじゃ)!!」」


 今度はサガラの方が目を丸くする方であった。


「いやいやいや!ちょっと!頭を上げてください!!喧嘩を売ったのはこちらの方なんですからスバル様達が謝ることないです!!」


 まさか昴達から謝罪があるとは夢にも思わなかったサガラは慌てふためきながらなんとか二人に頭を上げてもらうよう懇願する。顔を上げた二人はなんとなくバツの悪い表情を浮かべていた。


「いや…サガラに筋通されたら俺らも筋通さんとなんか割に合わないし…な?」


 頬をポリポリと掻きながらタマモの方を見ると、タマモは大きく頷いた。


「うむ。改めてみるとうちらの暴れ方はひどいもんだったようだしの…まぁ、お互い謝ってこれでおあいこじゃ!!」


 タマモの笑顔につられて、サガラの顔にも笑みが浮かぶ。


「そうですね…これでおあいこですね」


「のじゃ!」


 顔を見合わせて笑いあう二人を見て、これで冒険者ギルドで窮屈な思いをしなくて済む、と昴は内心ほっとしていた。


「それじゃ、もう少しここで依頼をこなそうと思ってるから明日からよろしくな、サガラ」


「かしこまりました。首を長くしてお待ちしております」


 サガラが笑顔で昴達を見送る。それは最初に会った時の作られたものではなく、自然とこぼれたものであった。


「そっちの顔の方がサガラはいいと思うぞ」


「…はえ?」


 昴が何の気なしに言った言葉にサガラは思わず間の抜けた声を出す。


「最初に会った時は人形と話してるみたいだったからな。そっちの表情のが俺はいいと思っただけだ」


「えっ…あの…ありがとうございます…」


 最後の方は尻すぼみになりながらサガラは顔を赤くして頭を下げた。昴は特に気にした様子もなく「それじゃ、また明日な」とタマモを引き連れて冒険者ギルドを出ていく。


「さーて、さっさと宿に向かうか…ん?」


 軽く伸びをして宿に向かおうとすると、タマモがこちらをジト目で見ていることに気が付いた。


「どうした?」


「………スバルは女性の敵じゃ」


「は?どういうこと?」


 昴の問いには答えず、タマモはスタスタと歩いて行ってしまう。


「ちょ、ちょっと待てよ!」


 昴は首をひねりながら、慌ててタマモの後を追った。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 ルクセントに着いた時に訪れた《竜の寝床》でシャワー付きの部屋を借りた昴達は夕飯を食べるべく町へと繰り出していた。


「お腹減ったのじゃ!あちこちでいい匂いがしてもうたまらんのじゃ!!」


 夕飯時ということもあって、町中にいい匂いが漂っており、タマモはおぼつかない足取りでうろつき回り、クンクンと鼻を引くつかせていた。


「待て待て。宿の親父に聞いたお店はもうすぐだと思うから…」


 昴は目を離すとフラフラとどっかに行ってしまうので、タマモの首根っこを掴みながら狸人種である宿屋の親父から聞いたお店を目指す。ようやく目当てのお店につき二人は掲げられた看板を見た。


「《ドートンボリ》。この店でご飯を食べるのか?」


「……………」


 店名を見て固まる昴。


「ん?スバル、どうしたんじゃ?」


「………いや、なんとなく既視感があってな。とにかく入ってみよう」


 元の世界の記憶を思い出しながら昴は店の暖簾をくぐった。


「いらっしゃい!!何名様で?」


 黒一色の服を身にまとった店員が元気よく声をかける。その服装にもなんとなく見覚えがあった。


「…二人で。このお店は知人に紹介されて初めて来たんだけど何のお店?」


「ここは熱を発する魔道具〔熱射君(ねっしゃくん)〕の上で、自分で肉とか野菜とかを焼いて食べるんでぃ!」


「……………」


「それだけじゃねぇ!《ドートンボリ》特製の小麦粉とキャベツを混ぜた生地の上にいろんなもの乗っけて焼く「なんでも焼き」ってのがびっくりするほどうまいんだよ!兄ちゃんも一度食べたら病みつきになるぞ?」


「………道とん堀のお好み焼き」


「ん?なんか言ったか?」


「いや、なんでもない」


 昴は考えるのをやめ、店員に案内された席で注文した料理が来るのを待った。タマモは自分で焼くのが楽しいらしく、嬉しそうにおこ…「なんでも焼き」を作っていた。特に豚を使ったなんでも焼きが気に入ったらしく、三回もお代わりしていた。

 昴は美味しそうに「なんでも焼き」を頬張るタマモを、腑に落ちない様子で眺めながら、懐かしさすら感じる料理を何ともいえない思いで食べていた。


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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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