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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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6.冒険者ココ

 サガラが目に涙をため、ブルブル震えながら昴に依頼したのは、最近近隣の森に多く出没するようになったランクCモンスターである’コンガ’の討伐であった。さっさと報酬を得たい昴達は、その’コンガ’が現れる森を目指すべく、町の出口に向かっていた。無言で歩く二人、しかしその表情は対照的である。

 タマモは冒険者ギルドでいろいろ言われたものの、その後に暴れることができたし、他に嬉しい事もあったしで、鼻歌を歌いながら上機嫌に歩いている。一方昴の方は表情をどんよりとさせ、目に見えて肩を落としながらトボトボと歩いていた。


「はぁ…やっちまった…」


 昴を襲うのは後悔と自責の念。タマモに目立つ行為は避けろと忠告しておきながら、自分が真っ先にそれを行ってしまった。少し先を歩いていたタマモが昴の隣に移動し、歩調を合わせる。


「何をそんなに落ち込んでおるのじゃ?」


「…タマモにはわからねーだろうよ」


 投げやりに言い放つ昴を見て、タマモが首をかしげる。


「そんなに目立つのが嫌なのかのう…」


「目立ってもいいことねーだろ…面倒くさいことに巻き込まれるのがオチだ」


「ということは面倒くさいことが嫌なのか?」


「あぁそうだよ。面倒くさいことが嫌いだ。面倒くさいことに巻き込まれるのは面倒くさいし、それを回避しようといろいろ考えるのが面倒くさいし、巻き込まれた後にどうすればいいのか対処するのも面倒くせー」


「…面倒くさいの悪循環じゃのう」


 呆れたようにタマモが言うと、昴は大きくため息をついた。


「…うちは嬉しかったけどの」


「ん?」


 昴がタマモを見ると、タマモは真剣な表情を浮かべていた。


「昴は自分が何を言われようとも怒ったりしなかったけど、うちが悪口を言われたら怒ってくれたのじゃ。それがうちには…嬉しかった」


 そう言うとタマモはプイッと顔を背けた。心なしかタマモの頬がほんのり赤い。昴はあまりにストレートな物言いに、一瞬あっけに取られたが、すぐに表情を和らげタマモの頭を優しく撫でた。


「俺はタマモのことを見直したぞ。あんな酷い事を言われたのによく最後まで堪えたな」


「…子ども扱いするでない」


 昴の良い子良い子、と子供を褒めるような仕草に不満を見せつつも、その尻尾は大きく左右に振られていた。


「はぁ…なんか今日は疲れたから、さっさと依頼こなして旨い飯食って寝よう」


「のじゃ!!」


 いつもの昴に戻ったことが嬉しかったのか、タマモが元気よく相槌を打つ。


「さて、依頼は’コンガ’の討伐なんだが」


「確か近くの森にいるって言ってたのう」


「近くの森って言われてもなぁ…」


「’コンガ’なら町を出て街道沿いを少し歩いていったら左手に見えてくる森にいるよ」


 後ろから声をかけられ二人が同時に振り向く。そこにはTシャツにミニスカート、その下にスパッツをはいたショートカットの少女が立っていた。年の頃は昴よりも一つ二つ下であろうか、綺麗というよりも可愛いといった顔立ちで、腰にナイフを、背中には少し小柄な背丈には似合わないほどの大きな弓を携えていた。

 驚いているタマモに対し、面倒くさそうな顔をしている昴を見て、ニコニコと笑っていた目を少し細める。


「…へー、その様子じゃ僕がつけていたことは’ジョーカー’君にはばれてた感じかな?」


「まーな。冒険者ギルドを出てからずっと気配は感じていたが、まさか声をかけてくるとは思わなかった」


「…これでも【気配遮断】は使ったんだけどなぁ…自信なくしちゃうよ」


「手を抜いた【気配遮断】じゃ俺はごまかせねーよ」


 少女はわざとらしく肩を竦めた。タマモが隣で目を丸くしている。


「うちは全然気づかなかったのじゃ!」


「まぁ危害を加えようとするつもりがなきゃ【第六感】は発動しねーんだろうよ」


「君は【第六感】のスキルを持っているのか!その若さでランクDになっているだけのことはあるね!」


 タマモがえへへ、と照れくさそうに喜ぶ。昴はそんな様子を白い目で見ていた。


「で、おたく誰よ?」


 昴がどうでもよさそうに聞くが、気にも留めずに少女が明るい声で名乗る。


「これは失礼したね!僕はルクセントの冒険者ランクB、’疾風の射手(サジタリウス)’のココっていうんだ!君はタマモちゃんだね?それでそっちの君は…名前はわからないから’ジョーカー’君でいい?」


「…スバルって呼んでくれ」


「わかった、スバル君ね!二人ともよろしく!」


「おーよろしくなのじゃ!!」


 ウインクしながら挨拶をするココに答えたのはタマモだけ。相変わらず昴は興味なさそうな視線を向ける。


「先輩冒険者が俺達に何の用?」


「ルクセントに来て間もない君たちに僕自らいろいろ教えてあげようと思ってね!」


「…よく来て間もないってわかったな」


「王国領と帝国領の間の海路に’クラーケン’が出現するから船を出すことができなかったのに、今日王国から船が来たって話題になっていたからね。あれに君たちが乗っていたんだろ?君たちならいくらでも’クラーケン’から逃げ延びることができそうだし」


 ココの言葉を訂正しようとタマモが口を開きかけるが、昴が肘で小突いて黙らせる。


「なるほどな…それで?ココは俺達に何を教えてくれるつもりなんだ?」


「’コンガ’のいる森すらわからなかった君たちが’コンガ’を見てもわかるわけないだろ?」


 昴とタマモが顔を見合わせる。確かにサガラから詳しいことを聞かなかった、もとい話せる状態じゃなかったため、ほとんど何もわからずに冒険者ギルドを飛び出した二人は、’コンガ’の見た目については全然知らなかった。


「そんなんでよく依頼を達成しようとしたね…」


「まーいけば何とかなるかなって」


「のじゃ!!’コンガ’っぽいやつを倒してくれば問題ないのじゃ!!」


 あっけらかんと言い放つ二人に、ココは小さくため息をついた。


「'コンガ’はね、普段は森の奥に住んでいる魔物なんだよ。性格は好戦的で縄張り意識が強い。群れをなす魔物で、集団の中で一番強いものがリーダーとなって群れを指揮する知能の高い魔物なんだ」


「「へー」」


 二人が感心したような声を上げた。ココは脱力しそうになりながらも説明を続ける。


「見た目はゴリラに近いんだけど、全身が茶色い毛で覆われていて腕が異常に発達しているんだ。木の上でも陸上でもその腕を使って俊敏に移動する。魔法は使えないけど接近戦じゃ熟練の冒険者でも手を焼く相手として有名だよ。豪腕から繰り出されるパンチは大木をなぎ倒すほどなんだ」


「なんだか面倒くさそうな相手だな」


「楽しそうな相手なのじゃ!」


 昴が心底面倒くさそうな表情を浮かべ、タマモが目をぎらつかせている。そんな二人を見てココは頭を抱えた。


「未知の相手の情報を聞いてその程度の反応…」


「俺は自分の目で見たものしか信じてないからな」


「どんな相手かなんて実際に戦って見ればわかるのじゃ!」


 答えは違うものの二人に共通していることは()()()C()()()の’コンガ’など歯牙にもかけていないということである。ランクAの昴はまだしも、タマモまでがそうだったことにココは驚いていた。


「まーなんにせよいろいろ教えてくれてサンキューな」


「助かったのじゃ!」


「いやいや気にしないでくれていいよ」


 素直にお礼を言う二人にココは笑顔を向ける。


「それでもしよかったらなんだけどその依頼が終わったら」


「断る」


「僕と一緒に行ってほしい依頼が…え?」


 ココが言い終わる前に昴が首を横に振り拒否した。


「えっと…今なんて?」


「断る」


 まさか何も聞かずに断られるとは思っていなかったココは目をぱちくりしながらもう一度聞くも昴の答えは変わらない。


「いろいろ教わって感謝はしている。ただそれとこれとは話が別だ」


「…理由を聞いても?」


 可憐な笑顔を崩さずにココが問いかけると、昴は軽く肩を竦める。


「面倒ごとのにおいがするからだ」


「…なるほど、石橋を叩いて渡らないわけか」


「そういうことだ」


「まぁ最初から快諾してくれるとは思ってなかったからね」


「何度来られても俺の意見は変わらん」


 昴は、話は終わりだ、とでも言うようにタマモに目配せをし、町の出口に向けて歩き出す。タマモは少し迷いながらも「すまないのじゃ」とココに小声で謝り、昴の後を追った。ココは二人を追うことはなかったが、昴の背中に向けて声を上げる。


「僕は諦めないからねー!!」


 昴は振り返らず、手を上げてそれに応じた。

 見事に断られて(フラれて)しまったココだったがその表情は明るい。


「こんな機会(チャンス)二度とないからね。何が何でも一緒に依頼に行ってもらうよ」


 不敵な笑みを浮かべながら、ココはルクセントの町中へと消えていった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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