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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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2.甲板にて

 ガンドラの街を出発してから四日目、船内で昼食をとりえ終えた昴達はやることもなく、甲板に出てきていた。見渡す限りの大海原にタマモは大きくため息をつく。


「う~…退屈なのじゃあ…」


 手すりから海を眺めていたタマモはズルズルと甲板に倒れこんだ。


「なんだタマモ。初日はあんなにはしゃいでいたじゃないか」


 隣に座っていた昴が呆れ顔で言う。実際に一日目のタマモのはしゃぎようといったらなかった。太陽の光を反射して光る海よりも瞳を輝かせ、海の景色を楽しんでいた。魚や魔物が船の近くを通るだけで、ギリギリまで身を乗り出しその様子を観察しており、夢中になりすぎて何度か船から落ちそうなところを昴に助けてもらっていたほどだ。


 しかしそんなハイテンションがいつまでも続くわけがなかった。どこまで行っても景色は変わらず、違う魚を見てはあんなに喜んでいたのに、今では魚の違いなどどうでもよくなっていた。元々じっとしていることが苦手なタマモが船の上で長期間動かないでいるなんていうのは到底無理な話であった。昴に組み手をしようと提案しても、狭い甲板ではそれも叶わず、結局ぼーっと海を見ていることしかできなかった。


「がっはっは、タマモ!相変わらず暇そうだな!!」


 巨漢の男が笑いながら近づいてくる。その肌は苛烈な太陽の下で働く男の証ともいえるほど黒く日焼けしていた。


「ノックス~…なんか暇を潰せることはないのかのぉ~…」


 タマモがだらしなくゴロゴロしながら尋ねる。


「またその話かぁ?お前に釣りを教えてやったのに全然だめだったじゃねぇか!」


「あんなじっと待っていることがうちにできるわけないのじゃ!あれなら直接飛び込んで魚を取ってきた方がましなのじゃ!」


 二日目の昼頃にはすでにいろいろと飽きていたタマモはノックスに釣りを教えてもらった。しかし釣り糸を垂らしてから一分とたたずに釣竿を置き、タマモは海に飛び込もうとした。昴とノックスが必死にタマモを説得して、なんとか飛び込み漁をやめさせた。


(あん時は本当に大変だったなー…)


 昴は横で二人の会話を聞きながら遠い目をする。


「釣りっていうのはそういう待ち時間も含めて楽しむもんでい!」


「うちには理解不能だの…」


 ノックスはその場にかがむと寝そべってるタマモの頭をバシバシと叩いた。


「なーに、順調にいけばあと三日、四日で着く予定だからそれまで我慢しとけ!!」


 タマモの不服そうな顔を見て豪快に笑いながらノックスは船内へと入っていった。ノックスがいなくなりしばらく甲板を転がっていたタマモだったが、ついに力尽きうつ伏せのまま動かなくなる。そんなタマモのことは気にも留めずに、昴は自分の作業に没頭している。かまってくれない事に不機嫌になりながら昴の方を向いた。


「…うちをほっておいてスバルは何をしてるんじゃ」


「んー…?あー…魔法の研究」


「魔法の研究?」


 タマモの耳がピクリと動く。なにやら昴が面白そうなことをしている、と不機嫌さもどこ吹く風でさっと立ち上がると昴の隣に腰を下ろした。


「のうのう!それはどんな魔法なんじゃ?」


「あー?見たいのか?」


「見たい!!」


 狐耳をピンッと立て期待に満ちたまなざしを向ける。昴はしょうがねーな、と軽く魔力を練り上げた。手のひらを上に向けて腕を前に突き出す。


「“鴒創(れいそう)”」


 昴の手から出た黒い塊がうねうねと動いて何かを形作る。タマモが驚きながら見ていると小さな黒い猫が現れ、昴の手のひらの上をくるくると回り始めた。


「おぉー!!すごいのじゃ!!」


 タマモが目をキラキラさせながら手を叩く。昴はなんとなく気恥ずかしさを覚えながら小さな黒い猫を消した。


「こういうこともできる」


 今度は手のひらを前に向けて魔法を放つ。先程よりも多く練られた魔力の塊が甲板に現れ、ものすごい勢いで形を成していく。タマモは何ができるのかウキウキしながら見ていたができた物を見て目を丸くした。


「これは…うちなのじゃ!」


 昴が作ったのはタマモと寸分たがわぬ偽タマモ。しかし偽タマモには奇麗な金色の髪も瞳もなく、ただただ真っ黒であった。


「うひょー!!うちの影なのじゃ!!こいつは戦えるのか?」


 嬉しそうにピョンピョンはねながらファイティングポーズをとるタマモに苦笑しながら昴は首を横に振った。


「いや戦えない。こいつができるのは歩くことくらいだな」


「なんじゃ…つまらん」


 せっかく自分の偽物と戦えると思ったのに、タマモはがっくりと肩を落とす。


「で、一体何の役に立つのじゃ?」


 消えていく自分の偽物を横目で見ながらタマモが聞いた。昴が顎に手を添えて考える。


「んー…影武者ってのも無理だな。俺が作ってるのは動く黒い塊だし、流石にあれを見てタマモだと思うやつはいねーだろうしな。まー使えるとしたら俺と同じ大きさのあれを作って、それにローブを着せて、味方がたくさんいますよって思わせるくらいかな?」


「…なんだか役に立つところが想像できんのじゃが」


 タマモにジト目を向けられ、若干イラっとする昴。無言で手を前に出すと今度は違うものを作り出した。

 それは黒い鳥。大きさは四十センチメートルほど。その姿は日本ではよくみられるものであったが、昴にとって思い入れの強い鳥であった。生み出された鳥は昴の手から勢いよく大空へと羽ばたいていく。


「おぉ!あれはなんじゃ?」


 タマモが空を見上げながら問いかける。


「あれはカラスだ」


「カラス…って昴の持ってる剣のことか?」


 ‘鴉’とは似ても似つかぬその姿にタマモは首を傾げた。


「いや…まーそうなんだけど、あの刀のモチーフになった鳥だな。全身が真っ黒の…この世界にはいないのか?」


「うーん…少なくともうちは見たことないのぉ…」


 タマモが腕を組みながら難しい顔をする。確かにアレクサンドリアでもガンドラでもカラスを目にすることはなかった。


「この魔法には便利な効果がついてるんだ」


 そう言うとそっと目を閉じた昴をタマモは不思議そうに見つめる。


「タマモ、船の左側を覗いてごらん」


「左側?わかったのじゃ」


 わけがわからないままトテトテと端まで歩いていき、船から顔を出すと、そこには先ほど昴が作ったカラスが飛んでいた。その下に三匹の魚が泳いでいるのも見える。


「俺のカラスが三匹の魚と一緒にいるだろ?」


「っ!?なんでわかったのじゃ!?」


 タマモが驚きながら目を瞑ったままの昴を見る。昴が腕を伸ばすとそこに飛んできたカラスがとまり目を開いた。


「俺がこいつと意識をつなぐと、こいつの見ている世界が見えるようになるんだ。もっともそのためには俺は目を瞑らなきゃいけないから戦闘中には使えないだろーけど、偵察とかには役に立つだろ?」


 昴はカラスを消しながら得意げに言った。


「これなら役に立ちそうなのじゃ!!流石はスバル!!」


 掛け値なしにタマモに褒められ昴は照れたように頬を掻く。


「うちも魔法の研究するのじゃ!!それなら船の上でもできそうじゃし!」


 そう言って魔力を滾らせ始めたタマモを昴が慌てて止めた。


「アホ!お前の魔法は火属性なんだからこんなところで出したら船が燃えんだろーが!」


「えー!…周りに水がいっぱいあるから大丈夫なのじゃ」


「消火する前にこの船が沈むわ!」


「ふんぎゃっ!?」


 昴は問答無用でタマモの頭に手刀を下ろした。タマモは頭をさすりながら涙目で昴を睨みつける。


「さーて…俺は昼寝でもしてこよっかな」


 昴は立ち上がると大きく伸びをして船内に戻ろうと歩き出した。タマモも唇を尖らせながらその後について行こうと立ち上がった瞬間、タマモの【第六感】が警鐘を鳴らす。


「タマモはどうすんだ?………タマモ?」


 自分の問いかけに答えないタマモを訝しんだ昴が振り向くと、真面目な顔で海を見つめるタマモの姿があった。それを見た昴の表情が真剣なものになる。


「…どうした?」


「なんか嫌な予感がするのじゃ」


 その言葉を聞いた瞬間に昴は【気配探知】を最大発揮させ、周囲の気配を探った。タマモの【第六感】のスキルに昴は全幅の信頼を置いている。昴の気配探知に様々な海の生物が引っかかるが、その中で一つ異様な気配を感じた。それは船のすぐそばにある気配で、大きさ自体は極めて小さいのだが、無理やり圧縮したような小ささである。昴は訝しげな表情を浮かべたが、次の瞬間、はっと目を見開いた。


「…まさか【気配遮断】が使える魔物か!?」


 昴が結論にたどり着いた瞬間、船が大きく揺れた。昴は慌ててタマモを掴むと船の手すりにしがみつく。


「なんだなんだ!?」


 ノックスも大慌てで船室から出てくるも、あまりの揺れに立っていることができない。津波のような波を船にぶつけながら海中から出てきたものを見て、昴は自分の目を疑った。


「まじかよ…」


 昴の目の前に現れたのは体長五十メートルを超える巨大なイカだった。


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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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