表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
68/192

37.四人で買い物

 霧崎雫は北村香織、石川さおりそして望月真菜と共にアレクサンドリア城下町に来ていた。


 昴がいなくなってから、なんとか隼人のおかげで立ち直りはしたが、それでも以前に比べ元気のない雫を気遣った香織が町に行こうと誘った。町の外に行くのにはいろいろと制限が設けられているが、城下町への散策は自由にされていた。ちょうど気晴らしに買い物に行こうとしていたさおりと真菜にも声をかけ、一緒に行くことなった。


 アレクサンドリア城下町はまさに中世ヨーロッパそのもの。ゴミが落ちていることはなく、身なりの悪いものもなし。ここに住まう殆どの人が貴族であった。


「このあたりは住宅が多くて身分が高い人が多いんだ。だから変な人はいないし、すっごく奇麗にされてるんだよ!もっと城から離れればお店とかいろいろあるからそっち行こうね!」


 よく城下町を探検しているから、と案内役をかってでたさおりが雫たちに説明する。雫もレベルアップのために城下町にある冒険者ギルドへはよく足を伸ばしていたが、それ以外の目的では町に来たことはなく、こうやってゆっくりと町を眺めるのは初めてであった。


「すごい静かだね。それにみんな高そうな服を着てる」


 香織が道行く人たちを見ながら言った。すれ違う人々はみな、美術の教科書に載っていた絵に描かれているような絢爛豪華な衣装を着ていた。


「ねー!元の世界にいた時はああいう服を着ると完全に浮いちゃうから着れなかったけど、この世界なら全然変じゃないからちょっと着てみたいなー!」


「あんたは似合わないからやめておきな」


 上半身をピッタリと身体に沿わせ、ウエストを強調し、スカートを大きくふくらませるようにドレスを着ている女性をキラキラした目で見ていたさおりに真菜が冷たく言い放つ。


「真菜ひどーい!そんなにはっきり言わなくてもいいじゃない!」


「さおりは典型的な日本人体系なんだからあの服は似合わないでしょ。霧崎さんと北村さんは似合いそうだけど」


 真菜はちらりと香織と雫に視線をやる。さおりも二人に目を向けるとううっ、と呻きながら俯いた。


「そんなことないよ!さおりちゃんもスポーツで身体が引き締まってるからきっと似合うよ!それに雫はドレスよりも着物が似合うタイプ!」


「確かに!!雫っちは武士!って感じだから着物似合うかも!」


「…一見の価値はあるわね」


 三人にじっと見つめられなんとなく居心地の悪くなる雫。


「まぁでもー、真菜にはとっておきの服があるもんねー」


「…なんのこと?」


 にやにやとこちらを見つめる親友に真菜は鋭い視線を向ける。


「それはもちろん…踊り子の服!」


「っ!?」


 真菜の顔が耳まで赤くなる。いつも冷静な真菜にしては珍しい反応であった。さおりの言葉を聞いた香織がなにか納得したように手をポンと叩く。


「あ、そっか!真菜ちゃんのユニークスキルは【踊り子】だもんね!うん!絶対真菜ちゃん可愛いよ!!」


「…北村さん、勘弁して」


「私もそう思って城下町から踊り子の服を買ってきて真菜にプレゼントしたんだけど、全然着てくれないんだよねー。真菜って意外と胸が大きいから―――」


「黙りなさい」


 真菜の射殺すような視線を受け、さおりはあわてて口を閉じた。


「まったく…あんたは本当に余計なことしか言わないんだから」


「だってー…本当のことだもん…」


 真菜がさおりにジト目を向けるとさおりは口を尖らせた。


「まぁ真菜は置いといて…」


 さおりが雫と香織の体の一部を凝視する。


「二人とも立派なもの持ってるね…特に香織ちゃん!これは凶器、いや狂気だよ!!」


「え、あ、ちょ、ちょっとさおりちゃん!?」


 さおりに自分の胸を鷲掴みにされた香織は目を丸くした。


「これか!?これが男子はええのか!?」


「きゃっ!?ほ、本当に、あん!や、やめて!」


 香織が色っぽい声を上げた。真菜が呆れたような顔で見ているのもお構いなしでさおりは無心で揉みまくる。そしてさおりの視線が香織の胸から雫の胸へと移動する。


「そ、そんなことより早くお店に行こう。夕方までには城に戻らなければならないし」


 身の危険を感じた雫が慌てて提案すると、さおりははっとして揉むのをやめた。


「おっそれもそうだね!じゃあ早速お買い物の旅にレッツゴー!!」


 意気揚々と歩き出したさおりの後ろで、香織が疲れた表情を浮かべていた。



 住宅街を抜け、お店や料理店が並ぶ区域にやってきた雫たちは、早速目当ての洋服屋さんに入っていく。店内には先ほどの貴族が着るような服のほかに、庶民の人たちが着る服も置かれていた。


「うーん…流石にドレスなんて着てたら訓練にも支障をきたすだろうしなぁ…やっぱり元の世界のような服は置いていないね」


 香織が置いてある服を手に取りながら呟く。


「このお店が一番私らの世界にあってる服を売ってるんだよ!このマルカット商会系列のお店は雑貨とかもそうだけど一番信頼できるし種類も豊富なんだ!」


「さおりちゃんは本当にすごいね!この街のことをよく知ってる!」


「まぁねー!伊達に何度も足を運んでいないからね!」


 香織に褒められたさおりが得意げな顔をする。


「無駄な努力ご苦労様」


「真菜うっさい!」


 服を吟味しながらさらりと言った真菜を威嚇するようにさおりはうーっと低くうなった。


「ん?雫っちドレスに興味あるの?」


 飾られている桃色のドレスを雫がぼーっと見ているのに気が付いたさおりが声をかけた。


「え?い、いや。なんか動きづらそうだ、と思って」


「ふーん…」


 なにやら慌てている雫にさおりは怪しむような視線を向けると、雫はおろおろと目を泳がせた。


「霧崎さんは普段何を着ているの?」


「私か?私はスキニーにTシャツとかが多いな」


「あー!雫っちは足が長いから超似合いそう!」


「うん!私服の雫は本当にモデルさんみたいだよ!」


 香織の言葉に雫が顔を赤くする。


「あたしはホットパンツが多いかな!なんか足が出てないといざって時に上手く蹴れないからね!」


「確かにさおりはそういう格好しているけど…上手く蹴るってなによ?」


 意気揚々と告げるさおりに対し真菜が訝しげな顔をする。


「そりゃ暴漢に襲われたときに決まってるじゃん!女の子ならそういう対策してるのが普通よね」


「普通の女の子は暴漢に襲われたときに蹴ろうなんて考えないわ」


「真菜だって蹴るためにスカート履かないんでしょ?いつもキュロット着てるし」


「私はスカートが嫌いなだけ。デニムも履くわよ」


「真菜ちゃんもデニム姿似合いそう!デニムにジャケットで大人の女性って感じ!」


 香織が真菜のデニム姿を想像しながら力強く言うと、真菜は顔を引きつらせながら「あ、ありがとう」とお礼を述べた。


「そういう香織っちは?」


「私はね…」


「香織はプリーツスカートとか履いてるな。フレアスリーブとか、フリフリしている服をよく着ている印象だな」


「あー…香織っちっぽい」


「北村さんのイメージにピッタリね」


 香織が言う前に雫が説明すると二人ともうんうんと納得した。


「香織っちがそういう服を着るとさぞかしお姫様みたいなんだろうな。そういうのに男子は弱いから…この小悪魔め!そうやって男を手玉に取ってるんだな!香織っちのことが好きな男子が泣いてるぞ!」


「べ、別にそんなんじゃないよ!それに私のこと好きな男子なんて」


「あら、いないとは言わせないわよ?なんて言ったって北村ファンクラブなんてものがあるらしいから」


 真菜が意地悪な笑みを浮かべる。


「真菜ちゃんまで…さ、さおりちゃんだって好かれている男の子がいるじゃない!」


 苦し紛れに香織がさおりに話を振ると、さおりは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。


「へ?あたしのこと好きな男子?ないない!あたしに限ってそれはない」


「「え?」」


 苦笑いを浮かべながら前で手を振ったさおりに雫と香織が同時に信じられないといった視線を向ける。その隣で真菜が首を左右に振る。


「…さおりはこういう子なのよ」


「はぁ…青木君、可哀そうだね」


「彼はなかなかにわかりやすいのだがな」


 雫と香織は心の中で優吾に同情する。


「え、なになに?青木がどうしたって?」


 わけが分からないという顔で三人の顔を見るさおりを無視して香織が話を続ける。


「真菜ちゃんもこんなに奇麗なんだから男の子がほっとかないでしょ?」


「真菜は結構モテるんだけどねー…告白してきた男は一人残らず屍にするような女だから」


「私は男に興味ないから」


 真菜がきっぱりと言い放つ。真菜が特定の男子と仲良く話すところは香織も雫も見たことがなかったので本心からそう言っていることは容易に想像できた。


「男子に好かれてるっていうのは置いといてさ、お二人さん自身はどうなのよ?」


「え?」


「好きな男子はいるの?」


 ぐへへ、とおっさんのような笑い声をあげながらさおりが二人に尋ねる。香織は少し悩んだ後、少しだけ頬を染めて答えた。


「好きっていうか…気になる人はいるかな?」


「え!?そうなの!?」


「へー…これはファンクラブにとって大事件ね」


 さおりと真菜が香織の意外な返答に目を見開いた。雫も声には出さなかったものの内心ではかなり驚いていた。香織からそういう話を一切聞いたことがなかった。


「最近色々あって…それでちょっと、ね」


「てことはこっちに来た男子の中にいるんだね!!えっ!?だれだれ!?」


「…秘密」


 香織がそう言うとさおりはえー!と残念そうな声を上げたがそれ以上追求しなかった。少し切なげな表情を浮かべた香織を見てなんとなく雫には相手が予想がついた。


「じゃあ次は雫っち!」


「学年一と称される美少女の思い人…確かに気になるわね」


 二人に期待のまなざしを向けられ雫は困った顔をする。


「私は別に…」


「やっぱり高橋君?」


 予想外の名前が出され雫が目を丸くした。その反応を見たさおりが図星をついたと勘違いする。


「やっぱりそうなんだ!こりゃ美男美女カップルの誕生も近いかもね」


 一人でうんうんと頷くさおりを見て雫が慌てて否定する。


「いやいや!勝手に決めつけないでくれ!!」


「あれ、そうなの?」


 さおりがきょとんとした目で見ると、雫は大きく頷く。


「そうだ。それに隼…高橋には好きな人がいるぞ」


「えぇぇぇぇぇ!!!そうなの!!!???」


 今日一番の驚きをさおりが見せる。


「あぁ…私の口からは言えないが、あいつには長い間ずっと思いを寄せている女子がいる」


 雫の話を聞いて真菜が意外そうな顔をする。


「彼も私と同じで異性にはあまり興味がないように思ってたけど」


「あいつの場合その女子以外には全く興味がないからな」


 雫が苦笑いを浮かべながら答えた。


「そういう一途なところも高橋君をかっこよくさせているんだなー。やっぱりモテ男は違うよモテ男は!」


「…モテ男はいいけど買いたい服は決まったの?」


「うーん…なんか今日はあんまり服買うって気分じゃなくなっちゃったなー…それよりももっとガールズトークをしたいから適当な料理屋さんに入ってお茶にしよう!!」


 さおりの自由人発言に真菜が頭を痛める。


「私もさおりちゃんと真菜ちゃんからいろんな話が聞きたいから賛成!雫は?」


「私も別に構わないぞ」


 香織に笑顔を向けられながら雫が答えた。


「私は面白い話があるわけじゃないけど、何か甘いものが食べたいわね」


「よーし!全会一致ということでおいしいパウンドケーキが出る店にいっくぞー!!」


 そう言うとすごい勢いで出ていったさおりを見て、三人は顔を見合わせるとくすりと笑いその後についていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ