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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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30.タマモ 裏

やっとプロローグの伏線が回収できました…

「おかえりなさい。今日は早か…タマモ、どうしたの?」


「……………」


帰ってきた我が子のいつもと違う雰囲気に母親は眉を顰める。タマモは身体を震わせながら俯いていた。


「‘ホワイトウルフ’達となにかあったの?」


「……………」


 タマモがいつも嬉しそうに話をするので、’ホワイトウルフ’と仲とよくしていることを知っていた母親が優しい声で尋ねるが、タマモは答えない。


「タマモ、何があったか話してくれなきゃお母さんわからない―――」


「うちは呪われた子なのか?」


「っ!?」


 タマモの予想外の発言に母親は目を見開いた。その反応を見てタマモは目に涙を溜める。


「やはりそうなのか…」


「…その話をどこで聞いたの?」


 今までにないくらい真剣な表情を浮かべる母親に、タマモは今起きたことを話した。


「その人族が言ったのじゃ。『金眼は魔族と他種族との混血児、呪われた子』だって…」


「……………」


 母親は黙ってタマモの話を聞いていた。


「魔族って人族を滅ぼそうとしている奴らなのであろう?」


 タマモは今この世界で人族と魔族が争いあっていることを知っていた。魔王と呼ばれる存在が現れ、力によって世界を統一、もとい支配しようとしているということも。


「うちに魔族の血が流れているから他の狐人種の者達と一緒に暮らすことはできないということかの?」


「そ、それは…」


 必死に弁解しようとするが言葉が出てこない。タマモは聡明であった。その事実を母親に否定してもらいたいという思いとは裏腹に、心のどこかで間違いないという確信を持っていた。タマモは自嘲の笑みを浮かべる。


「うちのせいで母上まで集落を追い出されてしまったのか…うちは本当に呪われた子じゃな。いっそのこと生まれてこなければ―――」


パァン!


 乾いた音が響き渡る。タマモは何が起きたのかわからないまま自分の頬を触る。目の魔には涙を流しながら手を振りぬいた母親の姿があった。今まで怒られたことすらなかったタマモにとって、母親にぶたれたのは衝撃的なことだった。


「は、はうえ…?」


 母親は何かに耐えるように唇を嚙み締めながら、おもむろにタマモを引き寄せ、力強く抱きしめた。


「生まれてこなければよかったなんて言わないで」


 震える声でタマモに言ったその言葉は願いに近いものであった。


「あなたのお父さんは確かに魔族よ。だからといってあなたは呪われた子なんかじゃない」


 母親は抱きしめる力を緩め、タマモの目を見つめた。


「だって私をこんなに幸せな気持ちにしてくれるのですもの…こんなにも愛おしいタマモが生まれてこなければよかったなんてことは決してない」


 タマモの目から涙がこぼれる。今まで我慢していたものが一気にこみあげてきた。


「母上!母上!!うわぁぁぁぁぁぁん!!」


 そんなタマモを母親が優しく包み込む。タマモは涙が枯れるまでずっと母親の胸の中で泣き続けた。


 少し落ち着きを取り戻したタマモに母親が声をかける。


「…お父さんは嫌い?」


 その声は少しだけ震えていた。まるで答えを聞くのが怖いような、そんな感じであった。タマモは少しだけ考えてから母親に顔を向ける。


「うーんわからないのじゃ。前に母上が言っていた通り、実際に会ってみてその人の内面を見ないと決められんのじゃ!」


「そう…」


 少しだけ困ったような笑みを浮かべた母親にタマモが笑顔を向ける。


「でもうちの大好きな母上が好きになった人じゃ!絶対にうちも好きになるのじゃ!!」


 母親は驚いた顔をした後すぐに慈愛に満ちた顔でタマモをさっきよりも力強く抱きしめた。


「母上…苦しいのじゃ。少し緩めて欲しいのじゃ」


「ふふふっ、ダメ。あんまりにも可愛いこと言うから離したくなくなっちゃった。タマモがいけないのよ」


 悪戯めいた口調で言った母親の声を聞きながらタマモはそっと目を閉じる。母親の腕に包まれたタマモは幸福感に満たされながら、そのまま夢の世界へと旅立った。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「町長!ご決断を!!」


タマモたちが住む山の麓、そこにある町の一角にたくさんの男たちが集まり、鬼気迫る顔で話し合っている。その中で一際大きな声を発しているのが今日タマモと対峙した男であった。


「狐人種は魔族の手のものです。魔族との混血の証である金眼の子供がおりましたし、何よりその子供は魔物をかばった!!」


「むむむ…」


町長と呼ばれた男は髭をなでながら思案する。


「この町の近くに魔族の手先がおるのですよ!?いつ来るかもわからない襲撃に怯えながら我々は生活していかなければならないのですか!?」


 唾をまき散らしながら力説する男の後ろで集まった住民たちが賛同の声を上げる。しばらく難しい顔をしていたが、意を決したように町長は立ち上がった。


「すぐに戦えるものを集めてまいれ」


「…!?町長、それは…!!」


 直談判していた男の表情が明るくなる。町長は重々しく頷いた。


「本日夕刻、山に火を放ち狐人種の集落に攻め込む」


 町長の発言を聞いた男たちは地鳴りのような雄たけびを上げた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「ん…ここは」


 寝ぼけ眼をこすりながらタマモは起き上がるとそこはいつも母親とともに寝ている木の葉でできたベッドの上であった。外を眺めると空はすっかり暗くなり、夜の帳が下りている。


「…母上?」


 母親の姿が見えないことを不思議に思い気配を探るが見つからない。日が落ちてから母親が家を離れたことは今まで一度もない。【第六感】がタマモに告げる。


「なにか嫌な予感がするのう…」


 タマモは慌てて家の外に出た。その瞬間違和感を覚える。確かに日は落ち、空は真っ暗であった。だがなぜか森はとても明るかった。


「森が…燃えている?」


 火の気配に敏感なタマモは森が明るい原因がすぐに分かった。


「あそこは…集落の方?」


 火の手は山全体に広がりつつあったが、特に勢いがすごかったのが狐人種の集落の方角であった。母親に「狐人種の集落には行ってはいけない」と言われていたタマモは少し迷ったが、【第六感】が不穏な音を響かせているので、心の中で母親に謝罪しながらタマモは集落へと向かった。


 集落の状況は凄惨なものであった。家という家はすべて壊され燃やされ、まわりの木々はなぎ倒されて火が放たれていた。


「どうしてこんなことに…」


 タマモは呟きながら気配を探る。が、これをしでかした犯人のものはおろか、狐人種の気配すらも感じない。皆逃げ出したのだろうか、いや、狐人種は火に長けた種族。山火事などおそるるに足らない。しばらく集落を歩き回っていたタマモの足が不意に止まる。そこはちょうど集落の外れに当たる場所であった。普段であれば狐人種の子供の遊び場になっているだろう広場に、それは並んでいた。


 丸太にはりつけにされた狐人種の人々。その身体には無数の矢が刺さっていた。


 タマモは根が生えたようにそこから動くことはできなかった。同族たちの無残な姿を茫然と眺めていた。しばらく立ち尽くしていたタマモだったが、震える足を動かし、処刑場となり果てた広場を歩きはじめる。歩を進めるたびにタマモの【第六感】が警鐘を鳴らした。これ以上そっちに行ってはいけない、頭の中そんな言葉が浮かぶが、タマモはそれを無視して歩き続ける。


果たしてそれはそこにあった。


 金糸を編んだような美しい髪は血で汚れ、いつも優しいほほえみを携えた顔には苦悶の表情が浮かんでいる。タマモはゆっくりと近づき、'母親だったもの'に手を伸ばす。そこには一切の温もりはなく、その身体は氷のように冷たかった。


「…嘘じゃ」


 現実から逃げるようにタマモは後ずさりした。


「嘘じゃ」


 気が付けば涙が滂沱として流れ落ちていた。


「嘘じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


 タマモの悲痛な叫びが集落に木霊する。その声にこたえる者は誰もいない。


 タマモはゆっくりと集落を見渡す。


 視界を埋め尽くすのは絶対的な「赤」。


 金色の瞳には炎しかうつらない。


 炎は自分以外のすべてを燃やし尽くす。


 狐人種達が住んでいた家は形を成していなかった。


 その暴力的なまでの侵略はとどまることを知らない。


 燃え盛る炎はもはやタマモをもってしても止められるものではなかった。


 既に周りは火の海で逃げ道などどこにもない。


 タマモがやってきた森にも火の手はまわっている。


 熱さなどは感じない、炎は友人なのだ。


 間近まで迫ってきている炎に恐怖は感じない。


 しかし空気がなくなればどうすることもできない。


 周りの酸素を奪いながら炎は無限の進化を繰り返す。


 少しずつ息苦しくなるが焦りは感じない。


 むしろ安堵に近い感情を抱いていた。


 目を閉じ、心の中で呟く。


 母親のいない世界で生きていくのは辛い。


 これでよかったのだ、と。


 やはり自分は呪われた子だったんだ。


 自分は死ぬべきなんだ、と。


 死ねば母親のもとへ行ける。また母親と会うことができる。


 そう思うと少し気が楽になり、自然と口角が上がった。


 母上…いまからうちもそっちに行きます。


 そのまま母親に甘えるかのように、そっとその身を委ねた。



 倒れこむタマモの身体を誰かが支えた。朦朧とする意識のままタマモは目を向けるが、視界がぼやけて顔がよく見えない。力強く抱かれたその腕にはなぜか懐かしさを感じていた。


「…すまない」


 誰かが呟いた。その声は重厚な低温で、聞く人が聞けば声だけで恐怖しそうなものであったが、タマモは心地よさすら感じていた。


「これからお前にすることはお前を幸せにすることではないかもしれないが…これはお前を…タマモを失いたくないという私のエゴだ」


 その男はタマモをそっと抱き上げる。


「…本当にすまない」


 苦痛に満ちた声を最後にタマモは意識を失った。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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