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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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18.'剛力'のクリプトン

 それから一週間、昴は特に変わり映えのない日々を過ごしていた。《太陽の宿》で朝食を食べた後に冒険者ギルドに行き、依頼を受け、夕方ごろにギルドに戻り依頼達成の報告をする。依頼が早く終われば、サガットから借りた魔物や魔法の本を読み、この世界についての知識を深めていった。

 《太陽の宿》で払っていたのは一週間分だったので、船の準備ができるまでの残りの一週間分の追加料金を支払った。フランは昴が宿泊を延長すると聞いて嬉しそうにしていたが、船でサリーナ地方に行くと話すと少し寂しそうに笑っていた。

 冒険者としての生活に慣れ始めていた昴だったが、面倒ごとに巻き込まれたのは、いつものように冒険者ギルドに顔を出した時のことであった。


「スバルさん!!おめでとうございます!!ランクEに昇格です!!」


 来て早々パルムが元気よく昴に告げる。ゴミ拾いや買い物の手伝いのような依頼もランクFにはあったので、ようやくそんな雑用から解放されるという思いと、あんまりランクが上がると面倒くさいことに巻き込まれそうだという思いが交じり合って昴は微妙な表情を浮かべた。


「あれ?スバルさんはランクが上がっても嬉しくないんですか?」


 そんな昴を見てパルムが耳をピクピクと動かしながら首を傾げる。


「あんまりな。まーでもランクEとかDならいっかって感じ」


「はぁ…ほかの冒険者の方はランクが上がると大喜びするのに…やっぱりスバルさんは変わってますね」


 不思議そうに昴を見るパルム。普通の冒険者とは冒険者になる目的が違う昴は軽く肩を竦めるしかなかった。


「ランクが上がるのに試験とかあるんじゃなかったのか?」


 冒険者になるのですら試験があったのに、ランクが上がる際にはないことに昴は疑問を持った。パルムは首を横に振ると机の中から羊皮紙を取り出し昴に見せる。そこには「誰にでもわかる冒険者ランクの上げ方」と書かれていた。


「試験があるのは基本的にランクC以上にあがるときですね!ランクE、Dには依頼達成の実績でランクが上がります!…まぁランクFっていうのは見習の見習いですからランクEからが本当の意味で冒険者になった、といえるのです!!」


「なるほどね。やっと俺も冒険者になれたってことだな。結構時間かかったな」


 割とどうでも良さそうに昴は答える。


「何言ってるんですか?普通だったら一ヵ月かかってランクEになるんですよ?スバルさんは驚異的なスピードで依頼をこなすので、このランクアップは異例の早さなんです!」


「はいはい」


 不満そうな顔をしているパルムを宥めながら、冒険者カードを渡す。パルムはむぅ、と唇を尖らせたが素直に受け取ると冒険者カードに何らかの操作を施し、それを昴に返した。


「はい!これで昴さんのランクはEになりました!これからは」


「うぉい!!!パルム!!!」


 ガラガラにかすれた怒鳴り声が昴の後ろから聞こえた。パルムは昴の後ろに立つ巨漢の男の顔を見ると、一瞬ものすごく嫌そうな表情を浮かべたが、すぐに取ってつけたような笑顔を顔に張り付ける。昴が眉をひそめながら後ろを振り返ると、そこには面長な男と小太りの男を引き連れた髭面の男が立っていた。なんとなくその男の姿に見覚えがあった気がするもよく覚えていない。


「これはこれはクリプトン様。今日はいかがなさいましたか?」


 パルムの口から機械のような声が発せられる。その感情を一切感じさせない声は、昴が今まで聞いたことのないものだった。


「おめぇらギルドが俺様に紹介した新人冒険者がバックレやがったんだよ!!この落とし前はどうつけてくれる!!」


「えーっと…それはクリプトン様が出された荷物持ちの依頼を受けたパッチさんがいなくなったということですか?」


「そうだよ!!俺様の荷物をもってどっかいきやがった!!ちゃんと弁償はギルドがしてくれるんだろうな!!?」


 顔は髭でもじゃもじゃ、これ見よがしにアピールされた筋肉、高圧的な態度。既視感が半端ないのに必死に考えるも全然思い出せない。パルムに大声で文句を言い続ける男の顔をじーっと見ている昴に、後ろに控えてた取り巻きが気が付いた。


「てめぇ…なにクリプトンの兄貴の顔をじろじろ見てやがんだよ」


 面長の男がチンピラ宜しく昴に詰め寄る。


「兄貴!なんか生意気な野郎がいますぜ」


 太った男がクリプトンの肩を叩く。うっとおしそうにクリプトンは振り向き、昴を見ると問答無用で【威圧】を放った。


「おいガキ!こっち見てんじゃねぇよ!!」


 物凄い形相で昴の事を睨みつけながら声を荒げる。が、必死にクリプトン達のことを思い出していた昴の耳にその言葉は届かない。舌打ちをするとクリプトンは昴に近づき、その大樹のように太い腕で昴のグッと胸ぐらをつかんだ。


「無視してんじゃねぇよ!!」


「…あっ」


 思い出した。《ハウンドドッグ》でフランに絡んでた連中だ。たしかこの面長の男はキセノンでもう一人がラドンとか呼ばれていた。あまりにどうでもいい奴らだったから思い出すのにかなりの時間がかかってしまった。

 【威圧】を受け、胸ぐらをつかまれても全く動じた様子のない昴に、クリプトンのいら立ちが募る。そんな二人を見てパルムがカウンターから飛び出してきた。


「冒険者ギルド内での冒険者同士の喧嘩は禁止です!!」


 二人の間に手を伸ばしてひきはがそうとするも、パルムの細腕では全く歯が立たない。


「うるせぇ!!」


「きゃっ!!」


 クリプトンが胸ぐらをつかんでいない手でパルムを力任せに押し飛ばした。細い身体で踏ん張れるわけもなく、パルムは床を転がるように倒れる。それを見て昴の目がサッと細められ、まとっていた空気が剣呑なものへと変わった。昴の変化を敏感に感じたパルムは慌てて立ち上がり昴の腕をつかむ。


「スバルさん!ダメです!ギルド内での暴力は先に手を出した方が処罰の対象になります!!クリプトン様はスバルさんを挑発して、正当防衛を理由にスバルさんを痛めつけるつもりです!!」


 必死な形相で訴えかけるパルムを見て、昴は軽くため息をついた。


「………じろじろ見てすまなかった」


 呟くように昴が言うと、クリプトンはペッ、とギルドの床に唾を吐くと掴んでいた手を乱暴に放す。


「ガキ、てめぇランクは?」


「…今日ランクEになった」


 クリプトンは髭をなでながら値踏みをするように昴を見ると、パルムに言い放つ。


「逃げた野郎の代わりにこいつを連れていく。それでギルドの責任はチャラにしてやるよ」


「なっ…」


 あまりに自分勝手な言い分にパルムは言葉を失った。


「ダ、ダメです!そんなこと認められません!!」


「じゃあなんだ?俺様はこの街から離れてもいいっていうのか?魔物大暴走(スタンピード)を前に、俺様みたいなランクBの戦力を失ってもいいっつぅのかよ!?」


「それは…」


 パルムが困ったような表情を浮かべる。大量の魔物が街に責めてくる際、クリプトンのような高ランクの冒険者がいるのといないのとでは被害の大きさがかなり変わってくる。二人のやり取りを見ていた昴が静かに口を開いた。


「…パルム、その依頼を俺の冒険者カードに登録してくれ」


「スバルさん!?」


 パルムは目を見開いて昴を見た。


「実際俺はクリプトン…さんに不快な思いをさせたからな。荷物持ちぐらいなら問題ない」


「で、でも…」


「おいおい、本人がこう言ってるんだ。お前の仕事は依頼を斡旋することだろ?早く本来の仕事をしろ」


 パルムはキッとクリプトンを睨むと、猫耳をしゅんっとさせながら昴のもとへ近づき、昴から冒険者カードを受け取った。カウンターに戻る際に小声で「ごめんなさい」と告げる。


「ガキ、名前は?」


「…昴」


「そうか。俺様のことは知っていると思うがランクB冒険者、’剛力’のクリプトン様だ。こいつはキセノンでこっちはラドン」


 キセノンとラドンが馬鹿にしたような笑みを向ける。昴は無表情で軽く頭を下げた。


「俺たちは三人で”絶対強者”のクランを組んでる。てめぇも一時でもそのクランに所属できたことを光栄に思うんだな!」


 昴がパルムから冒険者カードを返してもらうやいなや、クリプトンたちは昴を連れてさっさと冒険者ギルドを後にしようとする。ギルドの入り口まで来たところで突然クリプトンは振り返り、パルムを見た。


「そうそう…前の奴みたいにこいつがバックレやがったらなんかペナルティを受けてもらわなきゃな…」


「ペナルティ…ですか?」


 クリプトンが何を考えているのかわからないが、どうせろくなことではないとパルムが身構える。


「あぁ二度も同じ失態を犯すんだ、それなりの誠意ってもんを見せてもらわねぇとな」


「………」


 無言のパルムを見ながら、クリプトンは親指で昴を指さしながら言った。


「こいつはあんたの紹介みたいなもんだ。ということはこいつに依頼をふったあんたに責任をとってもらう」


「…何をすればいいんですか?」


「こいつが逃げたら俺様の女になれ」


 一瞬何を言われたのかわからないような顔を浮かべたパルムだったが、すぐに狼狽し始めた。


「な、なにを言っているんですか!?どうしてそんな」


「おんやぁ。天下のギルドさんは信用もできない冒険者を雇っているのかな?」


 嫌らしい笑みを浮かべるクリプトン。そんなクリプトンに何も言い返せないパルムだったが、しばらく沈黙した後に落ち着いた表情でクリプトンに言い放つ。


「…わかりました。私はスバルさんを信じていますので」


「その言葉、忘れるなよ」


 言質をとったクリプトンは満足そうにギルドから出ていった。昴は一度振り返り、不安そうなパルムに視線を向けると軽く頷く。パルムの顔に少し笑顔が戻ったことを確認した昴は黙ってクリプトンたちの後を追った。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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