17.初依頼
冒険者登録をした翌日、早速依頼をこなすために昴は街の外まで来ていた。薬草は『炎の山』の麓、ゴブリンは街道に出没しているということなので、手始めに昴は薬草取りを始める。
「このあたりに生えてるかな…」
パルムからもらった薬草が描かれている羊皮紙を見ながら薬草を探す。
「つってもどれが薬草かなんて見分けがつかねーよな…」
色々な草が生えているが昴にとってはどれも同じ草にしか見えなかった。とりあえずそれらしいものを引っこ抜いては”アイテムボックス”へと投げ入れる。
「これじゃあ小学校の時にやった草むしりと変わんねーな」
今の自分の姿に昴は苦笑いを浮かべる。それでも手を休めることなく草むしりならぬ薬草むしりを続けること三十分、そろそろ腰が痛くなって来た、と思っていると水色をしたゲル状の生物が近づいてきた。
「こいつは…確か城の座学で教わったな。瘴気が集まって魔物化した’スライム’か」
昴のもとにやってきたのは三体。うねうねの動きながら近づいてくる。ランクEに該当する’スライム’にかまっている暇はないと、無視して作業を続けると、一匹のスライムがビュッと液体を飛ばしてきた。その液体は昴の腕に当たると皮膚を赤くする。
「なんかむずがゆいな…酸でも飛ばしてるのか?」
‘スライム’は体内で酸を作り出し、それを利用して攻撃する【酸攻撃】のスキルを持っている。昴は面倒くさがりながらもスライムを蹴り飛ばすが、飛ばされたスライムは特にダメージを負ったわけでもなく、昴の方へとまた動き出した。
「‘スライム’に物理攻撃は効きにくいんだっけか」
昴は’鴉’を呼び出すと、三体の’スライム’目がけて”飛燕”を放つ。’スライム’たちは黒い刃を受けると蒸発するように核を残して消えていった。昴は‘スライム’の核を拾うと、それも薬草と一緒に”アイテムボックス”に収納し、これくらいでいいか、と次はゴブリンの討伐に向かった。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
昴の受けたもう一つの依頼は、ランクFの魔物の’ゴブリン’の討伐だ。最近街道にゴブリンが多数出没しており、ほかの街へ物資を移送するときに襲われて困っているのでゴブリンを間引いてほしい、というものであった。
昴が指定された街道に足を運ぶと、そこにはジャガイモのようなごつごつした顔をした小学生くらいの背丈の緑の人型の何かが、木の棒などを持ってうろうろしていた。その数は目算で五十匹ほど。早速退治しようと昴が’鴉’を呼び出すと、’ゴブリン’が一斉にこちらを向いた。昴が少し驚きながら身構えるも、一向にこちらに襲い掛かる様子はなく、ただじっと昴の様子を見つめている。
‘ゴブリン’は知能が低く、敵を見つけると考えなしに突撃すると聞いていた昴は’ゴブリン’達の行動に疑問を抱く。すると突然、群れが二つに割れた。その中心に立つマントみたいなものを羽織った、他の’ゴブリン’よりも一回り大きな赤い’ゴブリン’が悠然とこちらに向かって歩いている。その手には錫杖が握られており、その身のこなしは明らかに無策で突っ込むゴブリンとは一線を画していた。
「なんだ?あいつが親玉か?」
ゆっくりと自分に近づいてくる赤い’ゴブリン’を見て、面倒くさそうに鼻から息を出した。依頼にあった討伐数は十体なので、それだけ狩って早々に街に帰るつもりであったが、どうやら目の前の相手がそうさせてはくれないらしい。
「こいつ絶対’ゴブリン’じゃねーだろ。たくっ、面倒くせーなぁ…」
赤い’ゴブリン’は一瞬をニヤリと唇を歪ませると、一気に昴との距離をつめた。昴は赤い’ゴブリン’の動きをしっかりと目でとらえ、振るわれる錫杖を最低限の動きで躱していく。いくら攻撃しても当たる兆しが見えず、しびれを切らした赤い’ゴブリン’は錫杖を思いっきり地面に叩きつけた。昴が後ろに飛び跳ねて避けると、その隙に赤い’ゴブリン’は一気に身体に魔力を巡らせた。
「っ!?まさか魔法が使えるのか!?」
「グゲ!ゲギャァァァァ!!」
突き出された腕から放たれるのは全身全霊をこめた、ファイヤーボールの数倍はあろう炎の玉。それが昴へと一直線に飛んでくる。
ドゴォォォォォォォォン!!!
炎の玉は着弾するなりあたりを巻き込む大爆発を引き起こした。赤い’ゴブリン’は昴が立っていたであろう場所を見ながら、ゲギャゲギャと嫌らしく笑い声をあげる。周りには爆発に巻き込まれた’ゴブリン’の死体が何体か転がっているが特に気にしたような素振りはない。赤い’ゴブリン’は残っている’ゴブリン’達に何か指示を出すと踵を返した。
「驚いた。魔物も魔法が使えるんだな」
赤い’ゴブリン’の動きがピタッと止まる。恐る恐る振り返ると、そこには大きな黒い円盾に守られた昴の姿があった。周りは炎に包まれているが、昴の近くは一切燃えていない。信じられないといった表情を浮かべ昴を見る赤い’ゴブリン’。着弾の瞬間、昴は”雉晶”を繰り出し、一切の攻撃を防いでいた。
「なかなか面白いものが見れた。こっちもお礼をしないとな」
昴が魔力を練ると、赤い'ゴブリン'はゆっくりと後ずさりしていく。
「“鷲風”」
昴の身体から吹き荒れる黒い風が周りの炎を消していく。その風に触れた’ゴブリン’達は身体は切り刻まれ、次々と倒れていった。それを見た赤い’ゴブリン’は咄嗟に腕で顔を防ぐ。気が付くと立っているのは昴と赤い’ゴブリン’だけであった。
「さぁ、わざわざお前だけ残してやったんだ。さっさとかかってこいよ」
「ゲ、ゲギャ…」
赤い’ゴブリン’は恐怖に身をすくませながらじりじりと後ろに下がっていく。昴はそれを見ても全く動こうとしない。
「ギャオガギ!!」
風属性魔法を唱えて土ぼこりを起こす。あたりが全然見えなくなったのを利用して赤い’ゴブリン’は逃走をはかろうとした。
「悪いな。逃がすつもりはないんだ」
昴は一瞬で赤い’ゴブリン’の背後に回るとその首を’鴉’で一閃する。動かなくなった赤い’ゴブリン’はそのまま地面に倒れ伏した。
昴は一つ息を吐くと、その辺で倒れている’ゴブリン’の身体から核を取り始める。十二個取ったところでその手を止め、赤い’ゴブリン’に視線を向ける。
「こいつは直接ガンテツのおやっさんに持って行った方がいいな」
そう呟くと死体ごと”アイテムボックス”へと無造作に放り込む。依頼を終えたのでとりあえず冒険者ギルドに報告しようと街に戻っていった。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
冒険者ギルドに戻った昴はパルムに取ってきた’ゴブリン’の核十二個と大量の草を渡した。パルムは目を白黒させ草を見ていたが、あとはこちらでやると言ってすべて回収してくれた。昴が持ち帰った草の中には毒消し草や満月草といった有用なものもありそうだ,とのことで’ゴブリン’の報酬だけをもらい、薬草の方の報酬は後日受け取る手筈となった。
依頼達成の報告を終えた昴はその足で素材カウンターへと向かった。素材カウンターにはパルムと同じ猫人種の女性が対応しており、ガンテツの姿はなかった。
「こんにちは。素材の解体ですか?」
猫人種のお姉さんが笑顔で昴に話しかける。
「あーっと…ガンテツのおやっさいる?」
「今確認いたしますので名前をうかがってもいいですか?」
猫人種のお姉さんは昴から名前を聞くと、羊皮紙に書かれたリストに目を通す。二度ほど見返しても昴の名前はない。
「申し訳ありませんが解体リストに名前がありません。スバルさんはいつ頃解体を依頼しましたか?」
「いや、解体の依頼はしてない」
「ではどういったご用件でしょうか?」
「えーっと…とりあえずガンテツさんに昴が来たって言ってくれればいいから」
「…わかりました。少々お待ちください」
猫人種のお姉さんは訝しげな視線を昴に向けながら奥へと入っていった。少しすると先ほどのお姉さんが足早に戻ってきて「こちらへどうぞ」と昴を奥に案内する。案内された部屋に入ると血なまぐさい匂いがつーんと鼻に香ってくる。そこには肉の塊をせっせとのこぎりで切っているガンテツの姿があった。
「おうスバルか!!なんか持ってきたのか?」
ガンテツはニカッと笑うと、昴を案内してきたお姉さんに手を振り、戻れと指示を出す。お姉さんは一礼するとそそくさと部屋から退出した。
「悪いな!受付のねぇちゃんに話通しておくの忘れてた」
ガンテツがぼりぼりと頭をかきながら言った。昴はいいよ、と言いながら部屋を見回す。そこには昴が見たこともないような魔物の皮や牙などがずらりと並んでいた。
「すげーなここは」
「まぁあんまり普通の奴はお目にかかれねぇような光景だな」
呆気に取られている昴を見て、少し誇らしげにガンテツは鼻をこすった。
「んで、今日は何を持ってきたんだ?」
「ん?あぁ、ちょっと’ゴブリン’を見てもらおうと思ってな」
「‘ゴブリン’?そんなの珍しくもないだろうが」
また何か昴が珍しいものを持ってきたのかと期待していたガンテツは明らかに落胆の表情を浮かべたが、昴が”アイテムボックス”から取り出した赤い’ゴブリン’を見て、急に興奮し始める。
「おいおい!’ゴブリンキング’じゃねぇか!?」
「‘ゴブリンキング’?」
「あぁ!!’ゴブリン’の中には進化して’ゴブリンメイジ’や’ゴブリンナイト’になる奴が偶にいるんだが、その中でも極稀にこの’ゴブリンキング’に進化する奴がいるんだ!!」
「確かに’ゴブリン’の親玉って感じだったな」
昴は赤い’ゴブリン’が統率を取っていたのを思い出す。
「普段はたいして脅威にもならねぇ’ゴブリン’なんだが、こいつが指揮を執ると途端に厄介なやつらになる。烏合の衆と統率のとれた兵士ってのはそれだけ差があるってもんで。こいつが出現したことによって村が崩壊したこともあるくらいだ」
「村が崩壊っておおげさだろ。そこまでの相手じゃなかったぜ?」
昴の中の’ゴブリンキング’のイメージは「魔法が使えるちょっと動けるゴブリン」程度のものだった。
「そこまでの相手って…あのなぁ、’ゴブリンキング’はランクBの魔物だぞ?」
「ランクB?’バジリスク’と同じなのか?」
「危険度って意味ではな。個々の戦闘能力は’バジリスク’のが上だ。ただ奴は自分から山を下りて人里を襲おうとはよっぽどのことがない限り考えない。その点’ゴブリンキング’は街や村を襲う。ランクってのはそういったもんも全部ひっくるめてつけられてんのさ」
そう言ったガンテツは目を輝かせ、早く解体したいと体をうずうずさせていた。
「それじゃ…後はガンテツのおやっさんに任せるわ」
「おうよ!欲しい素材はあるか?」
「特にないから素材はそっちで好きにしていいよ」
魔物の素材を加工する術を持たない昴にとって、どんなに珍しい素材も”アイテムボックス”の肥やしでしかなかった。
「じゃあこっちで卸しとくわ!!報酬はどうする?」
「パルムに渡しておいてくれ」
「あいよ!」
それだけ確認すると、ガンテツは今までやっていた魔物の解体をそっちのけで’ゴブリンキング’の解体に取り掛かり始めた。既にその頭からは’ゴブリンキング’のこと以外は消えている。そんなガンテツの様子に苦笑をうかべながら、昴は静かに部屋を後にした。




