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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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11.バシリスク

 サガットから再試験を受けた昴はガンドラの街の入り口に来ていた。『炎の山』に向かうため門番に声をかける。


「『炎の山』に向かいたいんだけど」


 昴に気づいた門番の男は少し不審がりながら昴に尋ねる。


「入門証は持っているか?」


 昴は昨日もらった入門証を門番の男に渡す。門番の男はそれを入念にチェックすると、門の脇にある守衛室に入っていった。

しばらく待っていると先ほどの男が違う紙を持って戻ってくる。


「これは外出証だ。なくすとガンドラの街に入るのに苦労するからなくさないように」


「あぁ、わかった」


「…こんな時間から『炎の山』に行くとは、何の用事かわからないが時期が時期だ。気をつけろよ」


 不愛想な顔をしている割に昴のことを心配してくれる門番の男に礼をいいながら昴はガンドラの街を出た。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 『炎の山』のふもとまで来た昴であったが、その心はなんとなくモヤモヤしていた。


「なんか試されてるみたいで気が乗んねーんだよなぁ…」


 【気配探知】のスキルを発動して『炎の山』にいる魔物の気配を探る。魔物大暴走(スタンピード)の影響なのか、かなりの数の魔物の気配を感じた。


「はぁ…めんどくせーなぁ…」


 先程のサガットとの会話を思い出す。なんだかんだ言ってうまく使われているような気がしないでもない。


「…まー試験ってのは元々試すものだから試されても文句は言えねーのか」


 そう自分に言い聞かせても心のモヤモヤは晴れない。昴は気持ちを切り替えるように拳を手のひらにバチンと打ち付けた。


「うだうだ言っててもしゃーない。速攻で終わらせるか!」


 昴は『炎の山』の入り口を睨みつけると【威圧】を軽く放つ。昴が感知していた魔物は一匹残らず昴から離れていった。


「さて行きますか」


 辺りに全く気配がなくなったことを確認すると、昴は『炎の山』へと入っていった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 木の枝を足場に全速力で駆け抜けながら昴はサガットから受け取った羊皮紙に目を落とす。そこには'バジリスク'の容姿の絵の他に、生態や寝床に関する情報が書かれていた。


「なになに…'バジリスク'は『炎の山』の中腹あたりに生息している、と…うげっこいつ毒持ってんのかよ」


昴はめんどくさそうにため息をつくと続きを読みながら、駆けるスピードを上げた。


['バジリスク'の生態]

 'バジリスク'は暗くじめじめした場所を好み、洞窟内に巣を作る傾向がある。

 卵を産んだ'バジリスク'は特に危険であり、近づく者がいれば容赦なく襲い掛かる。

 気配を消すことに優れ、小動物を殺し、それを餌に大型の肉食獣をおびき寄せ、気づかぬ間に後ろに忍び寄り襲い掛かる。

 鋭い二本の牙には麻痺性の毒があり、それで獲物を麻痺させる。麻痺した獲物をその巨体で絞め殺す。

 'バジリスク'は熱を感知して獲物を見つけるため、出会ってしまったら火属性魔法で辺りを燃やすとこちらを見失う可能性大。

 'バジリスク'の皮は非常に強固かつ柔軟であり、生半可な刃物では体を傷つけるに至らないだろう。



「………」


 読み終えた昴はふと思った。


「これ新人冒険者の手に負えるのか…?」


 再度ため息をつくと羊皮紙を折りたたみ懐にしまった。




 しばらく森の中を駆け抜けると手ごろな木の上まで移動し、自分がどれくらいまできたのかを確認する。眼下にはガンドラの街がかなり遠くに見え、山頂も確認できるくらいまで登ってきていた。


「ここらへんが山の中腹だろ」


 昴は【威圧】を解除すると【気配遮断】を発動し、自身の一切の気配を消した。


「まずは手ごろな洞窟を見つけるかな」


 魔力を身体に滾らせ、開いた手を下に向けながら【黒属性魔法】を唱える。


「”梟霧(きょうむ)”」


 昴の手のひらから黒い霧が勢いよく噴出し、森全体に広がっていった。昴は黒い霧を触角のように扱い、この辺り一帯の地形を把握していく。


「…洞窟はなさそうだな。次行くか」


 霧の届かなかったエリアまで移動し、また同じことをする。これを三度繰り返したところで昴は洞窟を見つけた。

 洞窟の入り口まで行くと気配を探るが、近くに魔物の気配は一切感じない。


「ここで当たりだといいんだけど」


 昴は【夜目】のスキルを発動すると、薄暗い洞窟の中を進んでいった。しばらく暗い道を歩いていくと目の前に一メートル近くある真っ黒な丸い塊が三つあらわれる。よく見てみると、その黒い塊には金粉をばらまいたような金色の点々が散りばめられていた。

 昴は懐からサガットに渡された羊皮紙を取り出す。'バジリスク'の絵の横に、ところどころに金色の斑点がある黒い塊のようなものが描かれていた。


「ビンゴ」


 嬉しそうに指を鳴らすと、昴は'バジリスク'の卵を丁寧に【アイテムボックス】に収納していく。その際も周囲の警戒は怠らない。無事三つともしまい終えると昴は足早に洞窟の入り口へと向かった。

 特に何事もなく洞窟の外に出ることができた昴は帰り道を探すため、高い木に登ろうと上を見上げた。

 その瞬間ゾクリと全身の毛が逆立つ。咄嗟に地面を蹴って真横に飛ぶと、先ほどまで昴がいた場所に丸太のような太さの黒い物体が勢いよく突っ込んで来るのが目に入った。


「っ!?'バジリスク'か!!?」


 地面を転がりながら体勢を整えた。昴の目の間に現れたのは五メートル以上はあろう大蛇。黒光りする皮を持ち、その赤い双眸はしっかりと昴を見据えている。


「気配を消すのが得意にも程があんだろ…」


 昴は即座に'鴉'を呼び出すと'バジリスク'の隙を伺った。'バジリスク'は舌をチロチロと出しながら油断なくこちらを見ている。昴が魔力を練ろうとするとその隙をついて'バジリスク'が大口を開けながら飛び掛かってきた。


「くっ!!」


 その巨体に似合わない速度で突っ込んでくる'バジリスク'を昴は飛び上がって回避する。そのままの勢いで木につっこむと、噛んだ先からその木を腐らせていき、そのまま昴の身体よりも太い木を噛みちぎった。


「あれに噛みつかれたら痛いじゃ済まねーだろうな」


 枝の上に避難した昴は'鴉'を構えると'バジリスク'に飛び掛かる。'バジリスク'は尻尾で応戦するも、それを刀で受け流し、そのまま身体に斬りかかった。しかし弾力のある皮に阻まれ、ダメージを負わすには至らない。地面に着地した昴は襲い掛かる尻尾を避けながら後ろに下がる。


「"飛燕(ひえん)”!!」


 黒い刃が'バジリスク'目がけて飛んでいくがスルリスルリと難なく躱していった。


「動きを止めなきゃ話にならねーか」


 距離をとった昴はそこで一息つくと'鴉'を握ったまま'バジリスク'に向けて拳を突き出し魔力を高めた。'バジリスク'は一瞬ビクッと体を震わし、警戒をあらわにする。


「シャァァァァァ!!」


 威嚇するように昴に向けて大口を開ける。しかし昴は微動だにしない。しばらくにらみ合いが続いたがしびれを切らした'バジリスク'がググッと身体を縮めた。そのままばねの反動を利用して風を切るように昴に突進する。その速度は最初に昴に襲い掛かったものとは比べようもない。眼前に迫ってくる'バジリスク'、しかし昴に焦りの色は見えない。昴は'バジリスク'にぶつかる瞬間、高めた魔力を開放した。


「"雉晶(ちしょう)"」


 昴と'バジリスク'を分つかのごとく目の前に丸く黒い盾が出現する。口を開いたまま突進してきた'バジリスク'は勢いそのままに盾にぶつかった。

 ドゴォン!!!バキッ!!

 トラックがぶつかったかのような衝撃と、何かが折れたような音が森に響き渡る。見ると二本の牙は黒い盾を一切傷つけることなく根元から折られていた。真正面からぶつかった'バジリスク'も脳震盪を起こしたかのようにフラフラとしている。


「"飛燕(ひえん)”」


 意識が混濁している相手に'鴉'を振りぬくと、その黒い刃が'バジリスク'を二つに分けた。


 一瞬にして森に静寂が訪れる。昴は少し様子を見た後、生死を確認しようと近づき、その顔を覗き込む。その時を狙っていたかのように'バジリスク'はカッと目を見開き昴に向かって飛び掛った。昴は慌てて'鴉'を前に構えてガードし、そのまま首を弾き飛ばした。飛ばされた'バジリスク'は牙が折られ、首だけになっても昴に対しシャーシャーと威嚇の意を示す。


「首だけになっても動くとはな」


 額の汗をぬぐいながら'バジリスク'を注視する。先ほどのダメージが残っているのか、'バジリスク'は精彩の欠いた動きで闇雲に昴に喰らいつく。それを一つ一つ'鴉'で捌いていくと、突然後ろから'バジリスク'の片割れが昴めがけてなぎ払いをしてきた。

 しかし気配を察知していた昴は後ろを見ることなく左手の'鴉'を投擲すると、'バジリスク'の片割れもろとも大樹に串刺しにする。


「これで'バジリスク'の頭(お前)だけだ!!」


 そのまま'バジリスク'の頭の下へと滑り込むと、残っている'鴉'を両手で持ち、'バジリスク'の頭を真っ二つに切り裂く。'バジリスク'は大量の血を撒き散らしながら地面に倒れた。昴は恐る恐る'バジリスク'の頭に近づき、今度こそ動かないことを確認すると、片割れのほうに近寄り、大樹に刺さっている'鴉'を引き抜く。


 そのままふぅ、と息を吐きながら腰を下ろし、辺りを眺めた。先ほどまでうっそうと茂っていた木々が'バシリスク'によってなぎ倒され、あたり一面に血が飛び散っていた。血のにおいに誘われて魔物が来たら面倒だ、と立ち上がり帰り道を探そうとするが、ふと昴は'バジリスク'の亡骸へと視線を向ける。


「…こいつも持って帰ってあのじじいの鼻を明かすか」


 昴は'バジリスク'を前にしたサガットの反応に期待しながら、しっかりと血抜きをしたうえでその亡骸を【アイテムボックス】に放り込んだ。絞り出した血は飲み水を入れるのに利用していた鉄の水筒にうつし、折れた牙も回収する。

 全ての’バジリスク’の素材をしまった昴はそのままこの場を離れようとする。が、何かの気配を感じ咄嗟に視線を向けた。気配を感じた先は『炎の山』の頂。


(なんだ…?今、一瞬すさまじい程の魔力を感じたぞ)


 それは電流が走ったように昴を刺激し、次の瞬間には嘘のようになくなっていた。山頂を見やる昴のこめかみから一筋の汗が流れる。


―――『炎の山』には炎を操る狐の化け物がいる


 《ハウンドドッグ》の主人、ダンクの言葉が脳裏によぎる。昴は少し悩んだが、今は’バジリスク’を届けることを優先しようと、急いで街に帰ることにした。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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