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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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10.冒険者ギルドの長

ブックマーク100件超えました!

ありがとうございます!!

 パルムに連れてこられたのは冒険者ギルド二階の一番奥の部屋。パルムは両開きの扉の前に立つと、ノックもなしに「失礼しまーす!」という元気な声とともに勢いよく扉を開けた。


「スバルさん、連れてきました!!」


 手をピンと上にあげながらパルムが大きな声で報告する。昴もパルムの後に続く形で部屋へと入った。部屋の感じはマルカットの部屋とほとんど変わらない、来客用のソファとその奥に大きな机。


「パルム…お前さんはちっとばかし落ち着きってもんを覚えた方がよさそうだな」


 その机に両肘をつき、顎を手に乗せている男がため息交じりに告げる。パルムはえへへ、と照れたように頭をかき、そのまま回れ右をすると「失礼しました!!」と頭を下げ勢い良く扉を閉めた。力強く閉められた扉によって、座っている男の後ろにかけられた絵が音を立てて落ちる。男は再度ため息をついた。

昴は部屋に入った瞬間から前に座る男にしか目がいっていなかった。パルムが出ていった時も絵が落ちた時も一切反応を示さずに男を注視する。

 前に座っているのは、少し色黒で白髪の男。歳は少なくとも昴の両親と同じくらいかそれ以上であった。しかしそんなことを微塵も感じさせないオーラが身体中からあふれ出ている。師匠(ジェムル)はぬきにしても昴がこの世界で出会った誰よりもこの男は強い、【気配察知】が昴にそう教えていた。しかし、


(気にいらねーな…)


 男を見る昴の目が細く鋭くなる。昴が部屋に入ったときから向けられていた、普通の人にはわからない程度の小さく、薄く、そして研ぎ澄まされた鋭い殺気に昴は内心舌打ちをする。


「で、俺に何の用だ?」


 そっちがその気なら、と昴は不遜な物言いをしながら【威圧】のスキルで牽制する。男はそんな昴の様子を黙って伺うと、面白いものを見たかのように口角を上げた。


「儂の殺気に気が付くか…ゴアの言っていた通り面白い男だ」


 男は仏頂面を少し崩して笑みを作ると、昴に放っていた殺気を消す。

 

「すまなかったな。部下から報告を受けて少々試させてもらった」


 少し雰囲気が柔らかくなったのを感じ、昴も【威圧】をといたが警戒は怠らない。


「儂は冒険者ギルド本部のトップ、言わば冒険者ギルド全体のトップであるサガットだ」


「…冒険者志望の昴だ」


 必要最低限のことしか口にはしない、マルカットに出会った昴の教訓である。そんな昴を見てサガットはニヤリと笑った。


「そう警戒することもあるまい。儂はギルド長だがお前さんをどうこうしようっていうつもりはない」


 サガットにソファを手で示されたので、昴は黙ってソファに座る。


「さてスバル。お前さんをここに呼んだのは確認したいことがあってな」


「確認したいこと?」


「あぁ、さっき部下のゴアから奇妙な報告があった。なんでも「俺の【威圧】に顔色一つ変えない小僧が戦ってみたらからっきし動けなかった」と」


「………」


「ゴアは冒険者ギルドの職員とはいえ一端の冒険者でもある。そんな男の【威圧】をくらって平然としている男がたかだか新人冒険者になるための試験に落ちるのがどうにも腑に落ちなくてな」


 サガットはここで一息つくと昴に鋭い視線を向けた。


「どういうことか説明してもらえるか?」


 昴はまっすぐサガットの目を見返す。その目は下手な嘘は通用しないことを物語っていた。


「…俺は自分が愛用している武器以外使うことができない。試験はそっちが用意した武器でやるもんだったからうまく体が動かなかったんだ」


「なるほど…確かにそういう者もいるな」


 サガットが昴の目を見つめる。


「嘘は言っていないが核は話していない、といったところか」


 自分の言葉に答えない昴を観察しながらサガットはゆっくりと立ち上がった。


「お前さんの武器を見せてもらうことはできるか」


 その言葉に少し考えた後、断っても面倒だ、と昴はしぶしぶ'鴉'を呼び出した。不意に現れた漆黒の双刀にサガットは警戒するように目を細める。


「…どこから出した?」


「【アイテムボックス】のスキルもちでね」


 マルカットから、【アイテムボックス】のスキルは珍しいスキルではあるがこの世界に使える者はいる、という話を聞いていたので、昴は迷わず答えた。サガットは顎に手を添えてしばらく昴を、そして'鴉'を観察する。


「わかった、もういいぞ」


 サガットの言葉を受けて昴は'鴉'を戻す。その様をサガットは何も言わずにじっくりと眺めた。


「冒険者名簿に【アイテムボックス】のスキルを追加してかまわないか?」


「別にいいけど…俺は冒険者試験不合格だったんだぞ?」


 昴の問いには答えず、サガットは椅子に座りながら机に置いてある羊皮紙を手に取る。


魔物大暴走(スタンピード)の話は聞いたか?」


「あぁ、パルムが教えてくれた」


 昴はサガットから渡された羊皮紙を見る。そこには「魔物大暴走(スタンピード)が起こる可能性があるため、冒険者にこの街になるべく滞在して欲しい」という旨が書かれていた。


「この時期は冒険者ギルドとしては少しでも冒険者の手が欲しいんだ」


 サガットは机の引き出しを開け、葉巻を取り出すとシガーカッターで先っぽを切った。


「じゃあ俺を冒険者として認めてくれんの?」


 羊皮紙を返しながら昴が尋ねる。サガットは葉巻に火をつけるとゆっくりと煙を吸い込んだ。


「そうしたいところだが、他の冒険者の手前あまり特別扱いはできなくてね。お前さんには冒険者試験をもう一度受けてもらう」


「つってもあの試験だと俺は絶対受からんぞ?」


「…お前さんの事情も加味して試験内容を変える」


 そう言うとサガットは先ほどとは違う羊皮紙を昴に見せた。そこには黒い大きな蛇の絵が描かれている。


「こいつの名前は'バジリスク'。『炎の山』に巣くう蛇の魔物だ。こいつの卵が冒険者ギルドでは必要でな」


「卵?」


「あぁ、正確にはこいつの血が体力を回復させる質のいいポーションの原料になっているんだ。魔物大暴走(スタンピード)の手前、ポーションはできる限り増やしておきたい」


「なるほどね。試験はこいつの卵を持ち帰ること、か」


「そういうことだ」


 昴の言葉にサガットが頷く。


「新人冒険者でも狩れるようなランクEの魔物だ。この試験に合格すれば冒険者として認めよう」


 サガットは口にくわえていた葉巻を灰皿の上でトントンっと指で叩く。


「もっともこれは強制ではない。冒険者になることを諦めるならそれもやぶさかではない」


 昴はサガットの手から'バジリスク'が描かれた羊皮紙を奪いとるとそのまま何も言わずに部屋の出口へ向かった。


「期限は三日ってところか…健闘を祈る」


 サガットが昴の背中に声をかける。昴は足を止めるとサガットの方を見ずに答えた。


「…一日で十分だよ」


 それだけ言うと足早に部屋を後にする。


 葉巻を吸いながらしばらく昴が出ていった扉を見つめていたサガットであったが、椅子の背もたれに身を預け、両手を頭の後ろに回しながらひとり呟いた。


「一日、か。お手並み拝見とするか」


 サガットは葉巻を灰皿に押し付け、愉快そうに笑った。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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