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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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9.冒険者試験

 マルカットの歓迎は昴の想像以上に素晴らしいものであった。夕飯は宴と称し、昴が今まで見たことのない料理が数多く出され、それのどれもが夢中になってかぶりつくほどのおいしいものでった。

 夕飯を共にしたのはマルカット、傭兵のスコットにデル、そして昴の四人であった。グランやミトリアは傍らに立ち、昴達のお世話をしていた。ご飯を食べながらスコットの冒険者の話や、デルとスコットの出会いなどを聞き、昴もアレクサンドリアで学んだことなどを話した。グランやミトリアも少しではあるが会話に参加し、昴はマルカットの屋敷の人たちと友好を深めることができた。

 夕食後はお風呂があるということなので、昴は何ヵ月ぶりかの湯船を楽しんだ。部屋に戻るとスコットとデルがお酒をもって昴の部屋に居座り、冒険者の心得や他愛のない話をしながらすごした。


 そして翌日、朝食をみんなでとった後、デルとスコットが庭で訓練をしていたのでなんとなく昴も参加した。ジョギングや筋トレで汗を流し、デルとスコットの打ち稽古を見ていると日も高くなってきたので昴は冒険者ギルドへと向かうことにした。


「お世話になりました」


 昴は玄関まで来てくれたマルカットにお礼を述べる。


「いえいえ、またいつでも来てください」


 マルカットはニコニコと笑いながら昴を見送った。


「スバル!!かるーく冒険者になってこいよ!!」


「スバルの兄貴なら余裕っすよね」


「まかせろ!!」


 二人が突き出してきた拳に自分の拳をぶつけてデルとスコットの激励に昴は応えた。


「ミトリアさんもグランさんも色々よくしてくれてありがとう」


「いえいえ執事として当然のことをしたまでです」


「スバル様、どうかお怪我などされないように」


 グランとミトリアはそろって同じ角度でお辞儀をする。昴は皆に向かって軽く頭を下げ屋敷の外へと向かうと、門のところにモックが立っていた。


「スバルさん!いってらっしゃい!!」


 昴の姿を捉えるとモックはビシッと敬礼した。そんなにかしこまらくてもいいのに、と内心苦笑しながら昴は手を挙げて応える。


「それじゃちょっくら行ってきますか!」


 自分を鼓舞するように呟くと、昴は冒険者ギルドに向かって歩き始めた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 冒険者ギルドは昨日と同様にたくさんの冒険者であふれていた。昴はパルムの姿を探すと、彼女はほかの冒険者の相手をしている。忙しそうなパルムを見て、人の波が去るまで昴は少し待つことにした。十分ぐらい待ったところで人の姿がなくなり、昴はパルムに声をかける。


「なんか忙しそうだな」


「あっスバルさん!お待ちしておりました!!」


 パルムは昴を見ると耳をピンと立てた。


「この冒険者ギルドはいつもこんなに繁盛しているのか?」


「冒険者ギルドの本部なのでね!!でも今は時期的に特別冒険者が多いのです!!」


「へぇ…なんかイベントでもあるの?」


「イベントというか…この時期は『炎の山』で魔物大暴走(スタンピード)が起こるのです!!」


「スタンピード?」


 聞きなれない言葉に昴は首をかしげる。


魔物大暴走(スタンピード)というのは、魔物が大量に集まり、集団で攻めてくる現象を言います!!魔物大暴走(スタンピード)は時期が決まっていて、ここガンドラの街には火の一の月から二の月にかけて魔物大暴走(スタンピード)が起きるのです!!」


「火の一の月、ねぇ…」


 昴はマルカット荷馬車で教わったことを思い返していた。

 この世界は月の満ち欠けに応じて日付を定めている。一月の日数は地球と同じように三十日。そして春夏秋冬の区分のように、この世界では風の月、火の月、土の月、水の月の四つに分けられ、それぞれに一の月、二の月、三の月がある。日本でいう四月はこの世界の風の一の月に該当し、この世界に来て四か月ほどがたった今はちょうどこの街に魔物大暴走(スタンピード)が起こる時期ということである。


魔物大暴走(スタンピード)は災害の一種なので、その時期に合わせて冒険者ギルドが冒険者を魔物大暴走(スタンピード)が起こる場所に行くことを依頼するのです!!」


「なるほど。いろんな街の冒険者が来ているってことか」


「そういうことです!!…ってこんな悠長に話している場合じゃなかった!!ささっスバルさん、ご案内します!!」


 相変わらずのせっかちっぷりに笑みを浮かべながら昴はパルムの後ろに着いていった。

 案内されたのは冒険者ギルドの裏庭。マルカットの屋敷と同等の広さがあった。そこに木剣を持った厳格そうな男が立っていた。


「パルム、遅いぞ」


「ひぇー!すいません!!」


 厳格な男に窘められ、慌てて頭を下げるパルム。


「こいつが冒険者志望の男か?」


「はい!!スバルさんです!!」


「なるほどな。俺は冒険者ギルド職員で試験官のゴアだ」


 ゴアは昴を値踏みするように眺め、【威圧】のスキルを発動しながら名乗った。


「ゴアさんはランクCの冒険者でもあります」


 パルムはゴアの【威圧】におびえながらも昴の耳元に顔を寄せて小さい声で言った。


「よろしく、ゴアさん」


 特に気負った様子も見せずに挨拶する昴を見て、ゴアは「ふむ…」と顎に手を添えた。


「度胸は合格。それに実力が伴えばいいが」


 【威圧】をとくとゴアは庭の隅にある樽を指さす。


「そこから好きな武器を選ぶがいい」


「試験っていうのは?」


「手合わせして魔物と戦えるかどうか判断する」


「なるほどね。わかりやすくていい」


 昴は樽まで歩き武器を吟味する。短剣、長剣、槍や大槌など多種多様な武器が置いてあり、その全てが木でできていた。


「じゃあこれにしようかな?」


 '鴉'と同じくらいの長さの短剣を二本樽から取り出す。その時、違和感が昴を襲った。


(この感覚…)


 昴は取り出した二本の短剣を見るがとくに変わった様子はない。ゴアは昴が武器を選んだのを見ると手に持った木剣を構えた。


「いつでもいいぞ」


 違和感の正体に薄々勘づきながらも、昴は無理やり短剣を構えると、ゴアに向かって走り寄った。


 その瞬間、昴の身体は動かなくなった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「あのぉー…元気出してください」


 パルムは耳を垂らしながら昴を励ました。当の本人はギルドの椅子に座り絶賛落ち込み中。


(まさか他の武器が使えないっていう"呪い"は継続中だったとは…)


 昴は大きくため息をついた。

 あの後、ゴアに詰め寄り身体が動かなくなった昴は、いともたやすくゴアに木剣で頭を殴られた。あまりのあっけなさにゴアも近くで見ていたパルムも口をポカンと開けていた。当然試験は不合格。


「冒険者試験は何度でも受けられますので!!」


「何度でも受けられるって言ってもなぁ…」


 正直この試験方法では何度やっても昴は受かる気がしなかった。昴の落ち込みっぷりにパルムはあたふたしながらあれやこれやで昴を元気づける。


「パルムありがとう。大丈夫だから」


 そんなパルムに心配かけまいと昴は笑いかけ立ち上がった。


「今日は頭を冷やすために帰るよ。再試験は…また後日で」


「そうですか…わかりました」


 パルムに別れを告げ、冒険者ギルドを出ると昴は大きく伸びをした。


「それにしてもどうすっかなぁ…サリーナ地方に行くには冒険者カードがあった方がいいってマルカットさんも言ってたし何とか登録したいんだけどな」


 色々と考えてみてもいい案が浮かばなかったため、昴はとりあえずスコットに相談してみようと、マルカットの屋敷目指して歩き始めた。


「スバルさーん!!待ってくださーい!!!」


 そんな昴を呼ぶ大きな声が聞こえたので、昴は足を止め振り返った。そこには必死の形相でこちらに駆け寄ってくるパルムの姿があった。


「ス…バルさぁん…ハァハァ…ちょ、ちょっと待って…ください」


 息も絶え絶えで昴のところにやって来るパルム。昴は不思議に思いながらパルムの息が整うのを待った。膝に手をついてハァハァと息を吐いていたパルムはふぅーっと一息つくと昴に向き直る。


「スバルさん!!ギルド長が昴さんをお呼びです!!」


「ギルド長が俺を?なんで?」


 予想外のパルムの発言に疑問の色を隠せない昴。パルムも呼んで来いとしか言われていないのか「さぁ」と人差し指を顎に添えて首をかしげる。


「とにかく来てください!!ご案内します!!」


 そう言うとパルムは昴の背中を押した。昴は内心ため息をつく。


 また面倒くさいことになりそうだ。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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